第145話 翔(かける)と真織(まおり)
雅日家の個性豊かな面々を、挨拶とともに紹介しよう。
「お帰りしゅう兄ちゃん!」
「おぶうっ! ……か、
「なぁなぁ、早く遊びに行こうぜ! 今日こそタガメ見つけよ」
「うん。行くのはいいけど、兄ちゃん移動で疲れたからちょっと休憩してからな。翔。もうちょっと兄ちゃんに優しくて」
元気いっぱいに俺に飛び込んできたのが従弟の雅日
「お帰り、真雪お姉ちゃん」
「やっほー
「お、お姉ちゃんくすぐったいよ」
お次はおよそ一年ぶりの従姉との再会にちょっと照れている淡栗色の髪をおさげにしているのが特徴的な幼女。名前は雅日
「お帰りなさい李乃お義姉さん! あ、今朝石橋さん家から梨分けてもらったんだけど早速食べる? 食べるよね? 食べると思って冷蔵庫に冷やしてあるんだ!」
「久しぶりね朱音ちゃん。梨は嬉しいけど、でも〝今朝お腹いっぱい朝ごはんを食べてきちゃったからあまりお腹は空いてないの〟あとで子どもたちと一緒に頂くわね」
「お腹空いてきたらいつでも言ってね! 義姉さんのためにたくさん剥いてあげるから!」
「……あ、ありがとう」
母さんに圧強めに話しかけているのが叔母の朱音さん。翔と真織の母親で、母さんに懐いている雅日家の一人だ。そしてサービスエリアでスムージーしか飲んでない母さんがしれっ嘘を吐いている。
「元気しとったか、久遠」
「うん。父さんも母さんも変わらず元気そうで何よりだよ」
「ふふ。朱音たちのおかげで毎日退屈せずに楽しく過ごせているからね。それに煩わしい父さんのブレーキ掛かりはまだ必要でしょう」
「まだまだ孫の顔たくさん見たいからのお! 歳に負けてなんかおらんわい!」
そして父さんと話しているのがこの家の
それぞれ久しぶりの再会に喜ぶのもつかの間、やはりと言えばいいか、父さんと会話していた爺ちゃんと婆ちゃんの視線――だけじゃなく、この場にいる親族全員の視線が俺に注がれた。
「――それにしても、まぁしばらく見ないうちに偉くかっこよぉなったな、しゅう!」
「本当にねぇ。背丈も伸びて、顔なんて増々
「いたっ! 爺ちゃん強い! バシバシ叩くの止めて!」
親族一同。高校生に上がって更にはちゃっかりイメチェンまでした俺に大興奮だった。
「本当に見違えたね! 最後に見た時はザ・根暗陰キャみたいな雰囲気だったのに!」
「朱音さん言い過ぎ! ……表現は正しいけど、でももっと言葉をオブラートに包んで欲しい!」
「しゅう兄ちゃんチャラくなったな!」
「翔は地味に刺さる言葉を吐くな!」
「「いやぁ。明るくなったなぁ」」
根暗で悪かったな!
カッコよくなったと、そう素直に褒められるのは嬉しけど、でもこうやって親族一同揃って感服されると妙にむず痒くなる。
そうして羞恥心に悶えていると、ようやく爺ちゃんと婆ちゃんが俺の隣に立っている女性の存在に触れてくれた。
「――それで、彼女がそうかい?」
「あ、うん。紹介するよ……」
ほんのわずか。爺ちゃんの催促するような声音に空気が張り詰める。けれどその中に高揚と嬉々をたしかに感じ取って、俺は爺ちゃんと婆ちゃん、従姉弟たち全員に隣に立つ女性の紹介を始めた。
「彼女が今俺とお付き合いしてる恋人で、それからもう父さんから聞いてると思うけど、俺の婚約者。名前は緋奈藍李さん」
「は、初めまして! しゅうく……じゃなかった。柊真くんの婚約者の緋奈藍李と申します。今回はお招きいただきありがとうございます!」
緊張しながらも丁寧にお辞儀した藍李さんに、俺は彼女の不安と緊張を少しでも取り除けるようにと固く手を握った。すると、微かに震えている手はその優しさに縋るようにぎゅっと握り返してきた。
自分たちが恋人以上の関係だと証明するように手を握り合い、短い挨拶を終えてこちらを吟味するような視線を向けてくる祖父母と真正面から見つめ返す。
セミの鳴き声がよく聞こえるほど玄関に静寂が降りて、誰一人声を上げることのない沈黙の時間が続く。
緊張感を凝縮したような、糸がピンと張り詰めたような息苦しさに手を握る女性の頬から汗が地面に倒れ落ちる――その、刹那だった。
「うお――――! しゅうが婚約者を連れてきたぞー!」
「これまぁ李乃さんに引けず劣らずの別嬪さんだねぇ!」
降りた静寂。それを一瞬でブチ壊すような雄叫びを上げたのは爺ちゃんだった。その後に続くように、婆ちゃんも目を大きくしながら微笑みを浮かべた。
二人とも、雅日家に舞い降りた絶世の美女を前に喜色満面を
「これでひ孫が抱けるぞー!」
「気が早すぎるわ! 俺まだ高一だから!」
「なら辞めて爺ちゃんの農家継げばいいだろう!」
「バカか! どんだけひ孫の顔早く見たいんだ!」
浮かれ爺に怒るも全く聞く耳を持たず、爺ちゃんは舞い踊り続けながら[
ひ孫ひ孫」と連呼する。
「まさかしゅうがこんな別嬪捕まえてくるとは思わなんだ! こりゃひ孫も相当可愛く――あぶす⁉」
「やかましいですよお爺さん。孫にセクハラするんじゃありません。ごめんなさいね藍李さん。ウチの爺さんがやかましくて」
「い、いえ! 全然気にしてませんから! ……お、お爺さん、死んでないよね?」
「たぶん生きてます」
浮かれるセクハラ爺の頭部に
「綺麗な肌だねぇ。ちゃんと手入れされてる努力の手だ」
「――っ! ありがとうございます」
「ふふふ。こちらこそ、しゅうちゃんのお嫁さんになってくれてありがとうね」
「お孫さんは私が命を賭けて幸せにしてみせます!」
「……二人とも気が早ぇ」
最初から分かってはいたけど、思った通り二人とも藍李さんを気に入ってくれたようでよかった。
婚約者紹介を無事に終えれば、それからはもういつもの雅日家の光景。
「初めまして藍李ちゃん! 私のことは朱音って呼んでね!」
「は、はい! よろしくお願いします。朱音さん」
「それにしても超美人さんだね。雅日家の男は美人を捕まえる才能でもあるのか?」
「ええと、それは何といえば、私がしゅうくんを捕まえたと言った方が正しいかもしれません」
「そうなんだ⁉ まぁ、しゅうもお兄ちゃんに似て顔いいからな。それに優しいでしょお?」
「はいっ! しゅうくんすごく優しくて紳士な子なんです!」
「ほほぅ。やはり血は争えませんなぁ。お兄ちゃんの子ですなぁ」
朱音さんも藍李さんのことを気に入ったようで、ものの数秒で二人は打ち解けてしまった。きっと妹がもう一人できたみたいな感覚なのだろう。朱音さんの顔がいつもより楽しそうに見えた。
「ねね! しゅう兄ちゃんの婚約者ってことは、お姉さんはしゅう兄ちゃんと付き合ってるの⁉」
「うん。そうだよ。私としゅうお兄ちゃんはお付き合いしてるの」
「そっか! よかったなしゅう兄ちゃん! ようやくカノジョができて!」
「小三のくせに態度がでけぇな翔……っ!」
「ねぇねぇ、真雪お姉ちゃん。このお姉さんのこと、真織はなんて呼べばいいの?」
「んー。藍李お姉ちゃんでいいと思うよ! そっちの方が楽ちんだし藍李もそう呼ばれた方が嬉しいと思うから!」
「分かった! 新しいお姉ちゃん。くーるな人だ」
従姉弟たちも藍李さんに興味津々で、不安を取り除く為に握られていた手はいつの間にか離れて、気付けば藍李さんは親族に取り囲まれてしまっていた。
「よろしくな藍李姉ちゃん! 俺の名前は翔! しゅう兄ちゃんのカノジョになってくれてありがとな!」
「ふふ。どういたしまして。しゅうお兄さんは私が責任を持って幸せにするから安心してね」
「うん! 頼むな!」
「あはは。はい。頼まれました」
翔も、
「は、初めまして藍李お姉ちゃん。……真織っていいます」
「初めまして真織ちゃん。今日から真織ちゃんのお家にお邪魔する藍李って言います。よかったらお姉さんとたくさん遊ぼうね」
「いいの⁉」
「うん。こんな可愛い子と遊べるなんてお姉さん嬉しいです」
「えへへ。それじゃあ、いっぱい遊ぼうね、真織お姉ちゃん」
「きゅん! ご、ごめん真織ちゃん。早速抱きしめていいかな⁉」
真織も、俺の婚約者を気に入ってくれたみたいだ。特に真織は新しいお姉さんに強い好奇心を示していて、母親譲りの朱い瞳をキラキラさせている。藍李さんも、雅日家の天使に早速心を鷲掴まれたようだった。
「――よかったわね。しゅう」
「うん。やっぱり、藍李さんは魔性の人だ」
彼女の周りに咲く笑顔。それをすぐ傍で見届けている俺も、微笑みをこぼしていて。
「これでまた一つ、外堀が埋まりましたね」
きっと彼女も胸裏で感じているであろう思いを、俺は微笑を象って呟やいた。
【あとがき】
今日は2話上げまーす。なんて気安く言うんじゃなかった。地獄見た(*´Д`) でも更新したぞー! (今日改稿で作業終わった(*´Д`))
真織、翔視点で書けばしゅうと真雪の立場は正しくは『従兄』なのですが、ややこしくなるので『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』呼びで統括してます。
『真雪
Ps:今作のロリ枠は真織に決定です。ちくしょぉぉぉ。真織のイラストが欲しいよぉぉぉぉ。ロリでおさげとか最強に決まってるだろぉぉぉぉ。
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