第144話 到着
父さんの実家はザ・日本風の一軒家だ。
日本風の一軒家、と言ってもその
なんと
アニメや創作物でしか観た事がない規格外の規模を誇る家――いや、もはや屋敷と呼んだ方が正しいか。父さんの実家を見慣れない人たちは口を揃えて「大きな家」だと門前で唖然とするが、物心つく前から俺と姉ちゃんはこうして何度も訪れているだけあって驚愕よりも安心感の方が強い。帰ってきたと、そんな感情が胸を満たしていく。
俺たち家族にとってはもう、父さんの実家は第二の家のような場所。けれどこの場に
「おっきなお家だねぇ」
安全を心掛けた父さんの運転からおよそ三時間後。ようやく父さんの実家に着いた雅日家と藍李さん。
そして、初めて父さんの実家を観た藍李さんは、小さな口を開けながら茫然とその場に立ち尽くしていた。
「ふふん。どう、藍李。これが私たち雅日家が誇る
「姉ちゃんが建てた訳でもなければ住んでるわけでもないのに自慢するなよ」
何故かドヤ顔の姉に辟易としつつ、俺は依然フリーズ中の婚約者のスーツケースを
「まぁ、たしかに都心では見慣れない大きさではあるかもね」
「はい。私は生まれてからずっとマンション暮らしで、親戚の宅に赴く機会もあまりなかったので。今すごく新鮮な気分です!」
「ふふ。外見だけじゃなく内装も立派だから、きっと藍李ちゃんもこのお家を気に入るわよ」
目をキラキラさせている藍李さんに、父さんと母さんは分かりやすく上機嫌になっている。まぁ、自分たちの実家を将来的に義娘になる人に称賛されたらどんな親でも喜ぶわな。
「……それにしてもしゅうくん。前は私にことを「社長の娘ぇ⁉」って驚いてたけど、しゅうくんも人のこと言えないんじゃないかな?」
「あはは。爺ちゃんと婆ちゃんの家には年に数度しか来ないし、それに自宅ではないのでどうしても自分が名家の生まれだって忘れちゃうんですよね」
「さらりと凄いことを……実は私の家族より雅日家の方が格式が上なのでは?」
「あはは。
「……俺は、ねぇ」
父さんは一般企業に勤めていて母さんもほぼ専業主婦みたいなものなので、雅日柊真は極々普通の高校生で一般人だ。藍李さんの思案通り、『雅日家』となるとまた話は変わってくるが。
観察眼と推察力が高い婚約者に舌を巻きつつ露骨に視線を逸らせば、藍李さんはそんな煮え切らない態度の婚約者にため息を落とした。
「美男で美女の夫婦。そして名家出身の子どもたち――私が霞むわ」
「どこがさ。母さんはたしかに美人だけど、でも藍李ほどじゃないし、私も藍李には遠く及ばないよ」
「あら真雪。目の前に母親がいるのに親友と比べるなんていい度胸してるわね。昨日渡した
「お母さんほどの美人はこの世に二人と存在しないね! いやぁ、藍李も相当美人だけど、お母さんには敵わないなぁ!」
「分かればよろしい」
「……大人げねぇ母親だ」
同じ美人枠として比較され、拮抗することもなく姉に黒星をつけられたのが悔しかったのか、母さんが姉ちゃんを殺気の
顔を真っ青にする娘に母さんは満足げに鼻を鳴らした。そんな母さんの隣では父さんが困った風に微苦笑を浮かべていて、やはり母さんこそ雅日家の最高権力者だということを改めて痛感させられた。
「あぁ。怖かったぁ」
「そもそも藍李さんを誰かと比べる時点で間違ってるんだよ。藍李さんの美貌は世界一。教科書に載るくらい常識だぞ」
「そんな常識ないわよ。あと藍李。こんなバカの誉め言葉にいちいち照れないで」
「えへへー。世界一綺麗だって。女に生まれてきてよかったぁ」
「……このバカップルめ」
真夏の炎天下の下、そんな風に会話を弾ませながら俺たちはようやく婆ちゃんと爺ちゃん、それから他の雅日家の面々が待っているであろう玄関に辿り着く。
俺たちはいつも通りの表情で。藍李さんは少し頬を硬くさせながら、父さんが実家の玄関を開いた。
「「ただいま~」」
「お、お邪魔します!」
帰省を告げる和やかな声音と、緊張を隠し切れない声音。そんな俺たちの声に、どうやら玄関で待ち構えていた爺ちゃんたちはすぐに応じて――
「「お帰り――――っ!」」
これから始まる四日間の帰省と、俺の婚約者の初めての来訪。
その出迎えは、ハイテンションな爺ちゃんと婆ちゃん、それから叔母、従姉弟たちの歓迎の笑顔だった。
「「それから、ようこそ雅日家へ! ――藍李さん!!」」
藍李さんのわくわくドキドキが詰まった五日間が、今始まる。
【あとがき】
ワンチャン本日4/10(火)は2話更新です。本話と次話分割したので。それと確約ではないけど帰省編は2話更新多めかもしれないです。行けるんかワレェ!
Ps:改稿したら爺ちゃんと婆ちゃんちバカでかくなっちゃったけど、まぁ農家だしこれくらいあってもいいかってことでこのまま進めよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます