第136話  ぐりぐり

 夏休みは毎日が休日みたいなものだが、だからといって平日と休日をしっかりと区別しなくては再び学校生活が始動した時に体内リズムに狂いが生じてしまう。


「んー……おはよう、藍李さん」

「おはよ」


 平日は体内リズムを保つためにアラームをセットしているが、土・日、つまり休日は快眠を邪魔されたくないのでアラームをセットせずに自然と目が醒めるまで只管夢の中に潜ることにしている。


 時刻は分からないが自然と目が醒めると、視界に映るのは真っ白な壁――ではなく、天使のような微笑みを浮かべている女性。


 昨夜も激しく互いを貪りあった余韻はまだ続き、視界に映す女性、藍李さんは裸体のまま恋人である俺を見つめていた。夜も蒸し暑いとはいえ夏風邪にならないようにせめて薄着一枚くらいは纏った方が賢明なのは分かっているのだが、やはり行為中は快楽を求めるのに一心不乱で、それが終わったあとは互いに精魂尽きてベッドに倒れてそのまま眠ってしまう。それ故に、朝目を醒ますといつも眼前にはヴィーナスの絵画に勝るとも劣らない光景が視界を占領する。


 あぁ、今日も俺の女神が美しい。


「藍李さん。今日はどうしよっか?」

「……ふへへ。どうしよっか」


 自分も裸故にわずかに寒気を感じて、人肌を求めるように目の前の大好きな人に抱きつく。思いっ切り甘えることを受け入れてくれる彼女は、満更でもなさげに頬を緩めるとお返しと言わんばかりに抱きしめ返してくれた。


 そうやって隙間なく密着するから、身体のある一部があるじより早く元気になってしまって。


 そしてそれを、藍李さんが指摘しないはずもなく。


「おやおや。しゅうくん。朝から元気だねぇ」

「……生理現象ってやつです」

「ふ~ん」


 すりすり、とわざとらしく艶めかしい太ももをそれに擦りつけてくる藍李さんに、俺は苦笑を浮かべて答えた。


 藍李さんに触れているからか、あるいは体のメカニズムによる起床か、いずれにせよ元気になってしまった息子に自嘲する俺とは対照的に藍李さんは声音を弾ませて嬉々とした表情を浮かべる。


「生理現象という仰るわりには、硬度が増している気がするけど?」

「それはっ、藍李さんが太ももでイジってくるからでしょ」 

「直接見たらセンシティブ判定くらうので、だからこうして太ももで確認するしかないのです」

「何言ってるんですか?」

「R15にしないとダメってこと」


 なんだかとんでもないメタ発言な気がしなくもないけど、安易に触れちゃいけない気がしてそれ以上の追求はやめておいた。

 

 俺は懸命な判断で思考に制止を、けれど、悪戯好きなカノジョは制止する思考なんて持ち合わせていない。


 細くもその柔らかくすべすべとした白い魅惑の艶肌は尚も擦りつける行為を止めず、見えていないことをいいことに好き放題カレシの一本竿の状態を確認チェックしてくる。


「あはっ。しゅうくんの、見なくても分かるくらいカチカチになってるねぇ」

「太ももでイジるだけじゃなく確認までするの止めてくれます?」

「気持ちいい?」

「気持ちいいからやめて欲しいんです」

「じゃあもっと気持ちよくしてあげるね」

「……ひぐっ⁉」


 馬鹿正直に答えたのが仇だった。優しく、撫でるように擦りつけられる太ももは、浮かび上がった可愛くも凶悪な笑みと同時に息子への対応を変えた。


 太ももを押し付けて与える刺激を更に強めた藍李さんに、俺は堪らず苦鳴をこぼした。


「さすがの俺も、朝から藍李さんを求める元気はないですよ」

「私はしゅうくんを襲う元気あるよ」

「……体力お化け」

「朝から可愛いしゅうくんが悪い」

「そうやってすぐ俺のせいにしようとするの、藍李さんの悪い癖だよ」

「だって本当のことなんだもーん」


 体力お化けなのか性欲魔人かは分からないけど、昨日俺からあれだけこってり搾り取って数時間後にまたヤれるとかやっぱり藍李さんは他の女性より痴女気が強い。


 そんな痴女様は、今朝から大好きなカレシを求めて身体をもじもじさせている。


「ねぇ、しゅうくん」

「だめ」

「まだ何も言ってないよ⁉」


 いや、その甘えたがりな声と甘えたそうな表情で分かりますよ。


「さっきも言ったでしょ。俺、朝からヤる気ないって。するならせめて昼からにしてください」

「じゃあ私が動けば問題ないよね?」

「……昨日も後半藍李さんめちゃくちゃ動いてたよね? なんでそんなに元気なんですか?」

「え? だって七時間きっちり寝てるから」

「その理屈で言ったら俺も元気なはずなんだよなぁ」


 まぁ、アレを出すのって想像以上に体力使うからな。藍李さんと結ばれて初めて知ったけど、アレって一人の時より二人の時に出す方がよっぽど体力消耗するんだよな。そして、昨夜はそれを四回。ラスト一回はほぼ無理矢理藍李さんに搾り取られて終わったけど。


 そして休眠を経てまた新しい生命の源が生成されたわけだが、それも今吐き出される窮地に陥っている。


 ……少々ヤり過ぎというか、このままいくと俺の命が危うい気がする。


「今日の夜じゃだめ? いっぱい愛してあげるからさ」

「違うよしゅうくん。今日の夜と今、いっぱい愛して」

傲慢ごうまんだなっ!」


 脅迫というか命令に近い声と圧を孕んでそう言った藍李さんに、俺は胸裏で『そんなできねぇよ』と頬を引きつらせる。


 どうにかして引き下がって欲しいが、完全に獲物を襲う目になっている彼女を見て俺は早々に諦観を悟る。


「ね。いいでしょ。一回だけ。今日はお休みだし、私が上に乗ればしゅうくん動かなくて済むし、出すだけでOK!」

「そんなファミレス付いて来てみたなノリで言われても……うがっ」

「もうっ! ぐだぐだうるさい!」


 中々首を縦に振らない俺に痺れを切らしたのか、頬を膨らませた藍李さんが乱暴に掛布団を剥ぎ棄てるとそのまま強引に俺の身体に跨った。


「んふっ。やっぱりこの構図。征服感があって堪らない」

「……ちょ、ぐりぐり押し付けるの止めてっ!」

「やだぁ」


 俺の拒否権を強制的に剥奪して、数秒前よりもさらに肌と肌を密着させる彼女は、興奮を抑えきれないとでも告げるようにぺろりと舌を舐めずった。


「ふふ。しゅうくんの息子くんはすごく素直だね。私と朝からいっぱいイチャイチャしたい~って全力で叫んでるよ」

「……息子のばか野郎ぉ」

「あはっ。だいじょーぶ。しゅうくんの息子さん共々、お姉さんが優しく介抱してあげるから」

「本当に優しくしてくださいね⁉ 朝から激しいのとか、そんなのされたら一日の予定潰れちゃうから⁉」


 本気で懇願するも、それが藍李さんの心に届いているかは分からない。だって、見上げる女性は、ふっくらと焼き上がったウィンナーをいかに美味しく頂くか考えるのに夢中になっているから。


 藍李さんは早く欲しくて堪らないんだ。


 膨張するウィンナーの中から弾ける濃厚な肉汁を、自分の身体なかで味わいたくてうずうずしている。


「下のお口と上のお口……どっちで味わおうかなぁ」

「……もう好きにしていいけど、一回だけだからね」

「うん。残りは夜に取っておかないとだからね」

「明日死んでるな、俺」

「生き返ったらまた搾り取ってあげる」

「カレシを生と死の無限ループさせようとするのやめてくれます⁉」

「大丈夫。しゅうくん絶倫だから。4、5回くらい搾り取ったくらいじゃ死なないよ」



 勝手に絶倫野郎にしないで欲しい。


 俺は藍李さんの底知れない性欲に応えているだけで、本音を吐露すれば一回か二回くらいで終わらせたい。でも、それじゃあ藍李さんは満足なんてしてくれない。


 藍李さんは求めて続ける。その身を焦がすほどの情熱と愛情。恋人がくれる温もりと精気を。

 

 俺のカノジョは、愛情深い性欲魔人。


 故に、


「さぁ、しゅうくん。今日も私と一緒にたぁくさん快楽におぼれようね」

「朝から超濃密プレイはほんと勘弁――うぎっ⁉」

「朝からしゅうくんとイチャイチャできる。これぞ同棲の醍醐味って感じだねっ」

「こんなの醍醐味にしないで⁉」


 俺は今日も今日とて、美人で可愛くて、そして性欲が化け物のカノジョに振り回されるのだった。

 


「……も、もうらめぇ」

「あははっ。その蕩け切った顔も最高に可愛いよ。しゅうくん♪」


 

   

【あとがき】


昨日は10件目となるコメントレビュー頂けました! そしてやはり『甘い』と評価される本作! 今後とももひとあまを応援よろしくお願いします。


最近の日曜日は更新お休みにしてますが、猫耳藍李さんを早く公開したいので珍しく更新しました。肝心の猫耳藍李さんは早くて月曜日の夜、遅くて火曜日には公開されると思うのでお楽しみに。



Ps:余計なこと言うとあれだから一言だけ。断じてエロくない! ベッドの上でイチャイチャしてるだけだ!

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