第135話  変態

「~~~~♪」


 順風満帆なしゅうくんとの同棲生活もそろそろ二週間が経過しようという頃、私は今日も幸せな一日なることを予感しながら溜まった洋服を洗濯機へと入れていた。


 多少干す時間が遅れても夕方には濡れた服が渇くのが夏のメリット。おかげで朝からしゅうくんの可愛い寝顔を存分に堪能することができたし、我慢できなくて今朝はその寝顔に五回くらいキスをしてしまった。全く以て夏様久ね。


 ちなみに、しゅうくんとの同棲してからは、彼よりも朝早く起きて無防備な寝顔を堪能してから支度に取り掛かるというのが朝のルーティーンになっている。


 目を醒ました瞬間から最愛の人を視界に映すことができる。それが私の胸に言葉には形容し難い多幸感をくれて、心の底から|安寧(あんねい》をくれる。それが同時に私の活力にもなって、こうして日々を楽しむ力を与えてくれた。


 同棲期間はもうあと三週間ほどなので、元の生活に戻った時の反動が今からちょっと怖くもあるけど。


「すんすん。ふはぁ。しゅうくんの匂いやばぁ」


 そんな、漠然とした不安を掻き消してくれるのは、昨日彼が脱ぎ捨てた衣服。


 まだほんのりと残り香があるシャツに顔を覆えば、不安な気持ちを興奮が一気に上書きしてくれる。この瞬間のドーパミンが放出される感覚を他の人にも味わってほしいくらい、大好きな人の『匂い』というのはそれだけで興奮材料になる。


 しゅうくんのことを匂いフェチの変態さんなんて罵ってるけど、恋人である私はその軽く十倍は変態だった。まぁ、私はしゅうくんと違って自分を変態だと認めてるけどね!


「くぅ。しゅうくんとの同棲が終わっちゃう前に何着かお家に残しておかないと」


 一番欲しいのは『パンツ』ね。これは絶対に外せない。


 だってこれは、私の際限ない『欲望』を一番掻き立ててくれる超重要アイテムなのだから。


「ふへ……ふへへ。背徳感堪らないっ⁉ 男の匂いがするぅ」


 あぁ。なんて変態女へと変貌してしまったの、私。


 純情可憐だった頃の私はもう見る影すら微塵もない。ここにいるのはただ、カレシが昨日履いたパンツを嗅いで興奮する、超変態でヤンデレな女だ。


 私がこんな変態になってしまったのも全部、しゅうくんのせいだ。


 私の初恋を奪って、私の処女を奪って、私を細胞レベルまで惚れさせる、しゅうくんが悪い。


 こんなところ見られたら、さぞかし引かれるんだろうなぁ。なんて思いながらも、


「でも、いつかしゅうくんに変態って罵られながらパコパコされたいかも」


 ドSになったカレシに言葉攻めされる妄想をして、私は歪な笑みを浮かべる。


「あぁ。洗濯する前に、もうちょっとだけ堪能しよぉ」


 頬を朱くしてまたカレシの残り香に鼻孔を震わす姿は、まさに痴態。それを自覚していながらも止められないから、変態なのだ。


「――同棲生活。ほんとサイコぉ」


 今朝からカレシのパンツを握り締めながら、私は今日も今日とて幸せな同棲生活に心から感謝するのだった。



 ***



 藍李さんは恋人の営みを求めてくる回数が尋常ではないけど、だからといってアレが〝ない〟がないというわけではない。


 昨日はただ一緒に寝たい日だったらしく、すやすやと心地よさそうに眠っている寝顔を拝んでから俺も就寝した。


 アレがない日は必然と朝の倦怠感も緩和されて、今朝はアラームの音に嫌悪感を抱くことなく目を醒ませた。


 大きな欠伸をかきながらリビングに向かえば読書に勤しんでいる藍李さんの姿を見つけて、おはよう、と微笑みを交わし合う。


 最近は優美な印象よりも可愛い女の子という印象が勝る彼女だが、やはりこうして凛々しい姿を見ると人間離れした美貌は健在で、彼女の隣に立てる存在でなければと自然に気が引き締められる。


「すぐに朝ごはんの準備済ませるから、しゅうくんは顔洗って待ってて」

「ありがとうございます。でも、今日は俺が作るから、藍李さんはそのままゆっくりしてて」

「え。でも……」

「いつも作らせてばかりでは婚約者としての面子が立ちませんから、それに、たまには魚料理以外の味も評価してください」

「きゅん! ……朝からイケメン過ぎるよしゅうくん」

「俺は藍李さんのカレシですからね」


 この世に数多いる、緋奈藍李を求める男性の中から、彼女は俺を選んでくれた。その事実はいつだって俺に自信をくれるし、胸を張って生きる勇気をくれる。


 俺を求めてくれる彼女を裏切るような予定は今後もないし、この左手の薬指に填めたペアリングに誓ったように彼女を死ぬほど愛す。『つもり』ではなく、愛すと言い切ろう。


 これからも二人で一緒に未来を歩んでいく。だから今の内に、婿修行を積んでおくのだ。


 最高のお嫁さんになる人に、最高の旦那だと言ってもらえるように。


「ね。しゅうくん」

「? なんですか?」

「ありがと」

「――。ふふ。こちらこそ」


 支え合っていく。今はまだ、それを意識しないとできない俺たち。


 でもいつか、それも自然にできるようになったら、俺と藍李さんはきっと互いを想い合い続けるあの二人のような夫婦になれる気がする。





【あとがき】

昨日も☆レビュー付けていただきありがとうございます。書籍化してくれぇ、という読者様の期待に応えられるように、これからも更新頑張ります。


……まぁ、個人的な意見をいえば、ひとあま書籍化勝負できそうな内容ではあるけどな。藍李さん可愛いしエッチだし尊いし、甘さだけは他にも引けをとってないはず!

読者に感動を与えるような文章表現はまだまだだけどねっ! (それは自覚ある)

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