第128話  藍李様のお考え

『しゅうくんの欲望も性癖も全部――この同棲で私が曝け出してあげる』


 そんな宣言を藍李さんにされてからの同棲生活の数日間は、ひたすらに藍李さんに甘やかされる日々だった。


 朝のゴミ出し、部屋の掃除、洗濯ものを一緒にたたむ、そういった家事をこなす度に頭を撫でられ、「よくできました」と過剰なほど褒められる。


 なんだか子ども扱いされている気分だが居心地悪さというものはなく、むしろ頑張った分だけ褒められて気分が良くなった。我ながらに単純だとは思いながらも、しかし藍李さんに甘えるのが好きな俺にとって、彼女がくれる称賛は貴重な活力源なので漏れなく受け取ることにしていた。


 勉強面に関しては意外というか藍李さんが邪魔してくることはなく、課題も予習も順調に進められている。ただ、やはりこちらも前述した内容と同様で、勉強が終わると手厚いアフターサービスが行われた。


 気の利くカノジョは勉強が終わるタイミングを見計らって飲み物を用意してくれて、さらには「今日も一日よく頑張ったね」と思いっ切り抱きしめてくれる。それもただ抱きしめるだけじゃない。身体の柔らかい部分――端的に言えば『胸』を思いっ切り当ててくるような抱擁。わざとらしく顔を胸に埋まらせて、強制的に柔らかくて適度に弾力がある胸を堪能させる。それがまるで、『襲うならいつでもどうぞ』とでも言いたげで。


 その誘惑に負けて何度襲ってしまおうかと意思が揺らいだかはもう覚えてない。


 耐えても耐えても。俺を甘やかしたい藍李さんの猛攻は続く。

  

 それは夜になってもだ。


「しゅうくんの背中逞しねー」

「……あっざす」


 こんな感じで一日に掻いた汗を洗い流す時は毎回一緒に入り、背中を洗う――という名目で超密着してくる。胸も、腕も、ほぼセックスしてる時と同じだろと言わんばかりの肌と肌の密着具合に、俺の一人息子の制御が効かずに常時元気だった。後半はもう痛いくらい元気だった。


 どうにかカノジョを襲ってしまう一歩手前で踏みとどまると、入浴後は藍李さんが髪の毛を乾かしてくれる。これは代りばんこでやるので、慣れない手つきながらも藍李さんは俺に髪の毛を乾かされるのを心底嬉しそうに頬を緩めてくれていた。それが、続く彼女からの猛攻の中で俺にとっての唯一の休息時間だった。

 

 その後は自由時間(その間もスキンシップ激しめ)を経て、二人で寝室へ。


 言い忘れたけど、俺は藍李さんのベッドで彼女と一緒に寝ている。敷布団もあるみたいだけど、同じベッドで寝たいという藍李さんからの要望に応えた結果、敷布団は押入れに眠ったままになった。


「…………」

「? どうしたの? しゅうくん」

「いえ。なんでもないです」


 同じベッドでペアパジャマ。初日に精気をこってり搾り取られて『毎日ヤろうね♪』みたいな宣言をされてからこちらはベッドインする度に覚悟して身構えているのに、しかしここ数日、藍李さんから俺を求めるようなアクションは見受けられなかった。


 本当にただ一緒に寝るだけで、あると思っていた〝アレ〟がない。


 なんだか拍子抜けというか、少しだけ安堵したような――けれどやっぱり、どこか不完全燃焼感は拭い切れなくて。


 俺だって毎晩ヤリたい訳じゃないし、年中発情期の猿になりたいわけじゃない。でも、せっかくの同棲で、時間はたっぷりとあって、求めればいつだって応じる覚悟があるのに、藍李さんに求められないのはそれなりに――いや、正直に言えばかなり堪えた。


「……〝明日も楽しみ〟だね、しゅうくん」

「……うん」


 やっぱり、今夜もない。


 キスもしてない。


 スキンシップは多めで、あれだけ煽られたのに、まるでご褒美はお預けみたいな感じ。


 藍李さんがいる手前、一人で満足するわけにもいかず、結局上手く寝付けない悶々とした夜を過ごすことになる。


『――いつになったらしてくれるんだろう』


 少しずつ、けれど確実に、思春期男子の欲望が溜まっていく。


 そんな荒い息遣いを繰り返す恋人を、彼女はうっすらと目を開けながら愉しそうに覗いていたのだった。




【あとがき】

ひえぇぇ。藍李さん。今度は何企んでるですか~

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