第126話  この夏は緋奈藍李に堕とされていく

 そういえば藍李さんと『恋人の時間』を堪能するのは久しぶりだなと、激しいキスの応酬を交わしながら述懐じゅっかいする。


「――んふぅ」


 お風呂で我慢させたせいもあるのだろう。絡み合うというより、貪るように赤い舌がうねり、俺の咥内をひたすら蹂躙じゅうりんしてくる。


 結構な頻度でキスをしているおかげか息継ぎも大分練達して、今では唇と唇のわずかな隙間で十分な息を確保できた。そうなると必然とキスの継続時間も増えて、どちらか一方(主に藍李さん)が満たされるまでこの濃厚なキスは続く。


「ぷはぁ……しゅうくん。キス上手になったね」

「あはは。ほぼ毎日のようにしてますからね。慣れてくるし、それに、藍李さんとキスするの好きだから」

「ふへへ。私もしゅうくんとキスするの好きぃ」


 はにかんだ笑顔があまりに可愛くて、天使の笑みに魅了される俺は本能が望むまままた口づけを交わした。


「「――んっ」」


 何度しても、何度交わしても、彼女とのキスには飽きが来ない。


 重ねた唇から愛しさが。絡み合う舌から欲望が。触れ合う肌と肌から、言葉にはし難いほどの幸福を感じる。


 藍李さんに触れる度、この鼓動は弾む。

 

「……しゅうくん。もっと気持ちよくして?」

「……うん」


 熱を灯す瞳にそう促されて、俺はその意思に応えていく。


「はは。藍李さんの、もうすごいことになってる」

「それを言うならしゅうくんだって」

「お風呂で散々弄ばされましたからね」

「一週間もお預けだったんだもん。しゅうくんのが早く欲しくて、頭がどうにかなりそうだった」

「高校生とは思えない発言ですね」

「しゅうくんが私をこんなえっちな女にさせたんだよ」

「えぇ。悪いの俺ですか? 藍李さん、元々痴女気が強かった気がするんですけど?」

「心外だね。……まぁ、たしかに一人で自慰することはよくあったけど、私がこんな風に発情するようになったのはやっぱりしゅうくんと付き合い始めてからだよ。キミが好きすぎて、もうどうにもカラダの疼きが止まらない」

「じゃあこの一週間は大変だった?」


 わざとわらしく問いかけてみれば、藍李さんは熱の籠った吐息をこぼしてその問いを肯定した。


「うん。すごく大変だった。正直、何度か押し倒したい時もあったけど、でもペアリングを決めるまでは我慢しよって思って……自慰も、今週はしてない」

「だからカラダがこんなにすごいことになってるんですね」

「しゅうくんに触れらてるから余計にすごいことになっちゃってる」


 火照る彼女のカラダは俺を求めるように震えていた。それだけで彼女が相当我慢していたことを用意に察することができて、俺に愛してもらう為に欲求を満たす行為を我慢していた事実に場違いながらも嬉しさを覚えてしまった。


「ごめんね。我慢させちゃって」

「えへへ。大丈夫。我慢した分は今からしっかり満たしてもらうので」

「うん。張り切って応えるよ――俺も、今週は一人でするの我慢してから」

「――――」


 少し照れくさげに告白すれば、藍李さんはわずかに驚いたように目をぱちぱちと瞬かせた。


 藍李さんと結ばれて以降、なるべく一人で性欲を処理する行動は避けている。


 一つは性欲の権化である藍李さんにしぼり取られて精気はおろか気力すらを失くす事態を回避する為。それともう一つは、


「やっぱりこういうのは、お互いが満足しないと意味ないから」

「……ふへ。そっか。私のために、ずっと我慢してたんだ?」

「うぅ。やっぱこれ言うのハズイな」


 俺の告白を聴いて藍李さんは嬉しそうにはにかむ。


「嬉しいな。しゅうくんが私に全力で応えようとしてくれるの」

「応えて当然でしょ。俺は藍李さんの忠犬なんですから」

「あはは。しゅうくんは従順で可愛いぁ」


 藍李さんの従僕ペットはいつだって本気でご主人様の願いに応える。それが愛情であれ、性欲であれ。


 だって俺は、アナタの望みを叶える為に存在しているのだから。


「――それじゃあ、可愛くて健気でカノジョ大好きなキミにお願い」

「はい。なんですか」

「その一週間貯めた性欲。全部私にちょうだい」


 とびきりに甘く、とびきりに色香を放つ声音が耳朶を震わせて命令してくる。


 見下ろしているのに見下されているような感覚に、背中に怖気が走って心臓がドクンと跳ね上がった。


 これこそ、緋奈藍李なのだ。


 俺を懐柔かいじゅうし、夢中にさせ、虜にさせる、愛する男をひたすらに堕と画策し続ける、俺だけの魔性の女。


 ただ偏に恋人の熱を求めてくる女性に、俺は口許を緩めて、


「手加減してくださいね」

「ふふ。やーだ」

「言うと思った」


 そんな会話の直後に、ベッドがギシッ、と軋む音が部屋に響く。


 こうして同棲初日の夜から俺の精気は最愛の人に搾り取られたのだった。


 ちなみに、これがまだ序の口だったことは、この夏休みに嫌というほど思い知らされるのだった。


「――あはっ。また明日もいっぱい愛し合おうね、しゅうくん」

「ぜぇ、ぜぇ……こんだけして、明日もやるのかよ……」

「うんっ。そ・れ・と――今日はまだ終わりじゃないよ。あと五回戦くらいはできるよね?」

「明日の分まで枯らそうとすんのマジでかんべ――んっ⁉」

「ほーら。休む時間なんて与えないよ。まだまだしゅうくんの元気みたいだし、お昼寝で快復した分の体力全部使って私を満足させてね」

「なんで昼寝しちゃったんだ俺‼」

「んふっ。夜はまだまだ長いよ、しゅうくん」

「ああくっそ! こうなったらとことん付き合ってあげますよ!」

「それでこそしゅうくんだね。それじゃあ、もっとお互いを満たし合おうか。愛してるよ、しゅうくん」

「――。はぁ。全く仕方がない人だなぁ。なら俺も、藍李さんのこと死ぬほど愛してあげるよ」

「うん。いっぱいしゅうくんの愛情ください」

「……可愛いサキュバスめ」


 緋奈藍李という底なし沼に、俺はどんどん嵌っていく――。





【あとがき】

サブタイが同棲編の全てを物語っているのである。これこそ、同棲生活ならぬ、性生活。


Ps:回を重ねる毎に藍李さん可愛さ増していきます。もうすでに十分可愛いが。

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