第114話 親公認の仲なので
さっそく同棲の許可を勝ち
「――夏休み。藍李さんと同棲したいんだ」
「「……うわぁ」」
「なにその顔?」
神妙な面持ちで両親へ相談内容を切り出すと、返って来たのはしかめっ面と大仰な嘆息だった。
「遅かれ早かれそう言い出すとは思ったけど、あまりに早くてちょっと引いてるのよ」
「言い出すのは分かってたのかよ」
「だってアナタ、藍李さんと将来結婚するんでしょ」
「小学生の夢みたいなテンションで言うなよ。そんな荒唐無稽なものじゃないし、夢物語でもない。俺は今藍李さんと付き合ってる。それと、二人には俺が本気だってこと伝えただろ」
「高校一年生で〝結婚〟すると宣言された親の身にもなってちょうだい」
「それは……ごめんとしかいいようがない」
「謝らなくていいわよ。認めたのは私たちだから。それに関して私たちからいうことはもう何もない。……ただ、同棲ねぇ」
「やっぱダメっすか?」
婚約者という前提もあって『同棲』すること事体は視野に入れてたそうが、まさか息子が高校一年生のタイミングでそれを切り出してくるのは流石に予想外だったらしい。
難色を示す母さんに代わるように父さんが会話のバトンを継いで、俺ではなく藍李さんに問いかけた。
「藍李さんはもうご家族にはこの事を相談しているのかな?」
「はい。父からは既にこの件については許可を得ています。あとは柊真くん本人の意思とご両親次第です」
なるほどね、と父さんは腕を組みながら苦笑をこぼした。
「つまりあとは
「はい」
藍李さんの手際の良さ、あるいは狡猾さに舌を巻く父さん。
裏で画策するという点においては他者よりも一枚上手の彼女は、自分よりも一回り以上年上の相手を脱帽させてみせた。
既に自分の父親の許可を得て、恋人である俺の意思も掌握済み。残すは対面する夫婦を説得するだけ――それも〝婚約者〟という前提を武器に話を進めているからこちらが圧倒的に有利な状況下を形成している。
まさしく用意周到の一言に尽きる。彼女のその徹底ぶりに、父さんは白旗を挙げるように微苦笑を浮かべて、
「いいんじゃないかな」
「いいのっ!」
根負け、というよりかは最初から承認するつもりだった雰囲気を感じる首肯に、俺はぱっと顔を明るくした。
「うん。藍李さん側のご家族が許可を下したのなら父さんはやってみてもいいと思うよ。母さんもさっき言ってたけど、どうせいつかはこの家を出て藍李さんと一緒に住むつもりなんだろう?」
ちらっと横を見れば、藍李さんが自信満々な顔で首を小さく、しかし激しく首を縦に振っていて、俺は堪らず失笑をこぼした。
「うん。たぶん、一人暮らしはしないと思う」
「……しても押しかけるから」
「ひえっ」
笑みは可憐なまま。しかし俺にだけ聞こえる声量で恐ろしいことを呟く藍李さん。
一人暮らしというものに憧れはあるが、そんなこと藍李さんが許すはずもないのはこの交際期間でなんとなく察している。
藍李さんの愛が重たいということは、彼女の恋人である俺が一番よく知ってる。
けれど、それら全部をひっくるめてもお釣りがくるのが緋奈藍李という女性で、俺の婚約者だから。
「高校卒業したら、藍李さんと一緒に暮らす」
『つもり』でも『予定』でもない。これは、確約された俺の未来だ。この人の傍にいることを誰よりも望む、俺の意思だ。
それを聴いた母さんと父さんは、まるで主人に忠実な
「そういうことなら猶更、だね。本格的に同棲する為の予行練習って意味なら、父さんは賛成するよ。何事も経験が大事だしね」
「どうせ止めろと言っても聞かないんでしょうし。お母さんも用意する食事が一人分減るって意味ではたしかに有難いからもう好きにやりなさい」
父さんは俺たちの将来を慮って、母さんは不安はありつつも俺を信じる形で納得してくれた。
「それじゃあ! 夏休み、藍李さんと同棲していいんだな⁉」
「あぁ。ただし、完全な同棲ってわけでもないんだし、藍李さんのご家族にくれぐれも迷惑を掛けないようにしなさい」
「それは心配無用!」
「お母さんからも一言だけ。……週に一度はお家に帰って来なさい」
「――ん。分かった。藍李さんも連れてきた方がいい?」
「ふふ。そうね。皆で夕飯食べましょう」
「よろしいんですか?」
「えぇ。私も夫も大歓迎よ」
「……っ。ありがとうございます」
父さんの注意には深く頷いて、母さんの言葉には強く頷いた。
母さんの言葉を理解できないほど、俺も浮かれているわけじゃない。
俺はまだどうしたって半人前で、一人で生きていけるほど立派に育っちゃいない。
そんな子どもを憂うお母さんの心情に気付いてしまったから、俺は
だから、
「ありがと! 父さん、母さん!」
まずは同棲する許可をくれた両親に向かって、俺は心からの感謝を伝えたのだった。
それから、俺はこの嬉しさを誰よりも共有したい人の手を取って、
「やりましたよ藍李さん! これで夏休みはずっと一緒にいられますね!」
「うん! たーくさんお世話してあげるから覚悟してね」
「……なんかちょっと怖くなってきたな」
「それはどういう意味かなしゅうくーん?」
共に喜びを分かち合って笑みを浮かべる二人。その睦まじい光景を、母さんと父さんは双眸を細めながら見守っていた。
「「――しゅうのこんな笑顔。初めて見たな(見たわね)」」
【あとがき】
しゅうくんは藍李さんと付き合ってからすごく明るい性格に変わりました。その変化を感じ取ったお母さんとお父さんだからこそ、最後にそんな感想がこぼれたんしょうね。
……☆1000記念は柚葉としゅうのifルート書こうか悩んでるんだけど、果たして何人が読みたいものか。
読みたいって思う読者さんが多ければ書きます。少なければ3・5章行きです。遅かれ早かれ書くんかーい。
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