第112話  ご褒美タイム


 待ちに待ったご褒美タイムに、俺はここまで揶揄い好きな年上カノジョによって蓄積されたフラストレーションを爆発させていた。


「「――んんっ」」


 長いキス。絡み合う舌と舌。頬を伝う汗は、俺がご褒美を満喫していることを如実に物語っていた。


「やっぱり、藍李さんと俺って相性いいんですよね」

「……そ、かもね。カラダを重ねる度に、私のカラダがしゅうくん専用になっていくのは感じるかも」

「それ、俺も感じてます」


 密接に肌と肌が触れ合う度に、相手の色に染まっていく感覚。それがもたらすのは幸福感と快楽で、つまるところ果てがなく相手を求めてしまう。


 嬌声の隙間から荒い息遣いを繰り返す藍李さんがその実感に嬉しそうに双眸を細めて、俺も釣られるように口許を緩めた。


「藍李さんのカラダ。やっぱり最高です。どこ触ってもすべすべで、肌なんて天女みたいに白くて綺麗で」

「んっ……褒められると、カラダが疼いちゃうなぁ」

「ふっ。知ってますか」

「なにを?」

「最近の藍李さん。俺に褒められるとカラダが反応するんですよ」


 悪戯小僧のような笑みを浮かべながらそう指摘すると、藍李さんは羞恥心に悶えるように顔を逸らし――逸らすことはなく、わずかに頬を朱くしながらはにかんだ。


「だってしゅうくんに愛してるって言われるの嬉しいんだもん」

「――っ。……あぁもう。ほんと可愛い人だなぁ」

「へへ。その言葉もうれし」


 俺も嬉しい。彼女といると常に心が他好感に満たされる。

 そのお礼はもちろん、


「「――んんぅ」」


 とびきりに甘く、とびきりに長い、愛情たっぷりのキスだ。


「ぷはっ。藍李さんとキスするの、何回やっても飽きません」

「じゃあもう一回。ううん。何度でもしよ」

「うん。気が済むまでしよ」


 息が続かなくなるほどに唇と唇を重ねて、互いの吐息を一つにする。


 絶え間なく続く濃厚な甘い時間に、思考はすでに蕩け切って相手を求めること以外の考えを放棄している。


「……俺たち、見事にハマっちゃいましたね」

「ハマちゃったねぇ」


 大人の階段を一緒に上って以降、隙あらばキスをしたり、カラダを重ねている気がする。


 回数を重ねる毎に緊張が解けて、カラダが相手に馴染んでいく。藍李さんも同じで……いや、俺よりも早くから余裕のあった彼女は、行為を解禁をしたことも手伝って非常にお盛んだ。今も俺からのアクションに物足りないのか、自分からもっと愛し合おうよとおねだりしてきている。


 この時の藍李さんが、すげぇ可愛い。


「あぁ。ダメだ。もっと藍李さんのこと気持ちよくしたい」

「ふふ。遠慮せずどーぞ」


 主導権を握っているようで、握られている感覚。俺が上なのに、ずっと見下ろされている気分だ。


 それに抗おうとする恋人の姿が、彼女にとってはたまらなく背徳的なのだろう。


 奥歯を噛みしめる俺を見て、藍李さんはその枷を外すように甘い声音で扇動した。


「私の全部がしゅうくんのものだから、しゅうくんの好きなようにしていいんだよ」

「――ぁ」

「恋人なんだからもっといっぱい愛し合わないと――もっとたーくさん、しゅうくんを感じさせてほしいな」

「藍李さん!」


 甘い声音が理性なんて軽く吹き飛ばして、剥き出しになった欲望にそう扇動した彼女は心底嬉しそうに口許を歪めた。


「ねぇ、しゅうくん。久しぶりにキスマーク付けて欲しいな」

「……そういえば、最近はご無沙汰でしたね」


 正式に恋人になるまではお互いの絆をそれで感じ合っていたのだが、付き合い始めてからはこうして存分にイチャイチャできるようになったので自然と相手の首筋にキスマークを付ける週間がなくなった。


「キスも〝これ〟も十分胸が満たされるんだけど、けどキスマーあれクはしてなくてもしゅうくんからの愛と熱を感じられるから、付けて欲しい」

「……ふっ。いいですよ。でも来週はまだ学校があるので、見えづらいとこにしておきますね」

「付けてくれるならどこでもいいよ」

「……へぇ。言質取りましたよ? なら、お言葉に甘えて見える所に付けちゃお」

「ふふ。お好きにどーぞ」


 どこでもいいなら、せっかくだからお気に入りの場所につけたい。

 

 その場所はもちろん首。ただ、今回は少し心境の変化もあって、以前よりも高い位置にキスマークを付けることにした。


 他の男にこの人は俺のものなんだと証明できる優越感に浸るために。――緋奈藍李のカレシとしての威厳とプライドを見せつけてやるために。


「――かぷ」

「あはっ。今回は久々に強めに付けるんだね」

「藍李ひゃんは俺のものってひょうめいしらいほ」


 藍李さんは俺のものだって証明するために、吸い付くように唇を首に押し付けた。


 舌で肌に触れるとしょっぱさを感じた。激しい行為によって体内から溢れた汗の味は、不思議なことに不快感よりも興奮が勝って。


「んくっ……しゅうくん。舐めすぎ」

「藍李さん……汗も美味しい」

「そのコメント変態だよ⁉」

「だって本当なんだもん」


 変態だと罵られてなお、それでも俺は藍李さんの首を舐め続けた。


 滑らかな舌触り。ボディーソープと藍李さんの体臭とそこに汗の味。それら全てが絶妙にマッチしていて、舌を離そうにも離せなかった。


「藍李さんの匂い。すげぇ興奮する」

「もぉ。しゅうくん。わんちゃんみたい」

「わんわん」

「……あはは。みたい、じゃなくて本当に私の飼い犬わんちゃんだね」


 ごめんね駄犬で。


 でも、そんな駄犬はご主人様のことが大好きだから。


 それを全身で表現すると、俺の飼い主藍李さんは嘆息を一つこぼしてから頭を撫でてくれて。


「まぁ、しゅうくんをこんな風にしちゃったのは私だから、その責任は取らないとね――いいよ。私をいつも満足させてくれるしゅうくんにご褒美。好きなだけ私を味わってどーぞ」

「やった……じゃなくて、わん!」

「あはは。無理に忠犬の振りしなくてもいいよ――さ、たぁんと私を召し上がれ」

「……わんっ」


 今日は藍李さんを俺の魅力でメロメロにさせようと思ったのに、けれど最終的にまた負けてしまった。この人はなぜこれほどまでに俺を手玉に取るのが上手いのだろうか。


 敗北と悔しさ。その心情を吐露するように鳴いたあと、俺は年上カノジョの優しさに便乗してもう一度首にキスマークを付けた。


「――そうそう。私に好きなだけ甘えようね。お姉さんがキミのこと、死ぬまで愛してあげるから」


 たぶん目がハートになっているであろう藍李さんの熱い吐息に俺は苦笑をこぼしながら、心行くまで彼女の味を堪能した。





【あとがき】

キスシーン多めにすることで甘さを表現しつつ絶妙なエロさを醸し出せるように工夫してます。これでアウトだったらこの話力技カットするから今のうちに脳内記憶に焼き付けておいて。


Ps:おっ、そろそろ☆1000だな!

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