第111・5話 カノジョには一生勝てない。
昼休みに約束した通り、放課後はそのまま藍李さんの自宅に
我が家の女帝である母さんには既に連絡して許可を取っているので特に後顧の憂いというものはない。やはり両家公認の婚約者という身分は便利だなぁ、と電話の向こう側で嘆息を吐きながらも無理に引き留めはしない母親の態度でつくづく実感させられた。
電話の最後に『今度は藍李ちゃんも家に呼びなさい』と念押しされたので、それをカノジョの自宅の帰路に就く最中に伝えてみると、
「え、いいの⁉」
「はい。母さんももっと藍李さんと交流を深めたいらしいです」
「それじゃあ、次はしゅうくんのお家でお泊りだね」
藍李さんは我が家で宿泊することを心底楽しそうに微笑んでくれた。
俺としては藍李さんと一緒にいられるのならべつに何処だって構わないのだが、
「……でも、大丈夫ですか?」
「なにが?」
我が家に泊るにあたって懸念点がある俺は、不思議そうに小首を傾げる藍李さんにそれを伝えた。
「
「……あはは。だね。
そういえば、藍李さんは姉ちゃんを自宅に宿泊させることはあっても反対はなかった気がする。となると、藍李さんが初めて我が家に宿泊するとなれば、俺と同じく親友大好きなあの姉が大人しくしているはずがない。おそらく、我が家で俺と藍李さんが恋人の時間を堪能できる時間は少ない……いや、ない。
「むぅ。やっぱり藍李さんは
「えぇ。どうして?」
拗ねた風に頬を膨らませると、そんな俺を見て藍李さんは戸惑いを浮かべる。
俺は「だって」と口を尖らせて、
「藍李さんが俺の家に泊りに来たら、俺に構ってくれる時間が絶対に減るから」
「……ふふ。たしかに。真雪と李乃さんの相手で手一杯になっちゃいそう」
「でしょ。だから、藍李さんは家に来てほしくないなって」
カノジョに負けないくらいカレシも独占欲強めなので、できれば姉や母にもカノジョを取られたくない。無論、彼女の最愛の人が俺だということは理解しているが、それでもこの人を誰かに
我ながらに
藍李さんが俺に甘い蜜を与え続けるせいで、俺は立派なカノジョの
そんな忠犬こと俺を、
「大丈夫だよー。私はずっと、しゅうくんのものだからね」
「姉ちゃんよりも好き?」
「うん。真雪も大好きだけど、でも私が注ぐ愛情はしゅうくんの方がずっと多い」
「……はぁ。やっぱ藍李さん。俺の扱い方上手すぎるなぁ」
「しゅうくんがちょろいだけじゃない?」
そうかも、と苦笑すれば、藍李さんもおかしそうにくすくすと笑った。
ひとしきり二人で笑ったあと、俺は諦念するように肩を落として、
「しょうがない。一日くらい、姉ちゃんと母さんに最高のカノジョさんを分けてやるかー」
「しゅうくんは相変わらず優しいね。……まぁ、私はしゅうくんを誰にも渡すつもりはないけどね」
「……今せっかくいい雰囲気だったのに台無しにするの止めてくれます?」
俺の方は
俺よりも何倍も重いカノジョは、並大抵では動かない意思を吐露したあと、なんとも不敵な笑みを浮かべた。
「私はまだまだ足りてないからね。しゅうくんを堕とすこと」
「これだけ俺を懐柔させておいてまだ足りないんですか⁉」
「当然でしょ。まだしゅうくんは私色に染め上がってない」
そう言った藍李さんは、紺碧の瞳に狂気と妖艶さをはらませながら口許を歪めた。
その表情は背筋を凍らせるような気迫がありながらも、しかし同時に高校生とは思えない大人の色香も放っていて――、
「夜がすごく楽しみだね」
「し、搾り取るような愛情表現は無しでお願いします」
「じゃあ今日はしゅうくんの方から私をいっぱい愛してください」
「いいんですか⁉」
「あはは。しゅうくんは本当に素直だねぇ。……うん。いいよ。好きなだけ、私を堪能させてあげる」
艶やかな微笑みを浮かべながら挑発してくるカノジョに、俺の男心が火が付く。これだけカノジョに煽られて、興奮しないカレシは世の中にいないだろう。
この人は本当に、俺の欲望を刺激するのが上手だ。
「……今すぐ抱きてぇ」
――家に着いてもすぐには彼女を抱けないのは生殺しもいいところだと、俺はその心情を苦笑に象ってカノジョに伝えるのだった。
【あとがき】
ガイドラインに踏み込まないように色々と台詞調整してます!
読者さんの妄想を掻き立てられるようにもっと工夫しないとぉ。
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