第106話  女子会は色々暴露するイベント

「第一回! 藍李と弟くんはどこまで行ったのか進捗報告会~!」

「イエーイ! パフパフゥ!」

「「…………」」


 ある日の放課後。心寧と鈴蘭に半ば強制的にファミレスに拉致された私と真雪は、二人のハイテンションについていけずにため息を落としていた。


 ファミレス行かない? と軽く誘われた時から邪推な笑みを浮かべていて何か裏があるのは分かっていたけど、やっぱり私としゅうくんの進展具合を聞きたかったらしい。


「えー、本日は弟くんのお姉さまであるまゆっち殿がおりますが、変わらず進行を続けて参ります」

「まゆっちも実は気になってるんじゃないのぉ? 親友と自分の弟がどこまでいったのか?」

「いや全然」

「「全然なのかよ⁉」」


 いつもハイテンションな二人だけど、今日は一段と上上機嫌だ。一方で真雪は平然とした面持ちのまま、なんなら少しだけ乗り気じゃないように見えた。そんな真雪から私たちの交際関係について関心がないことを聞いた二人は、盛大にテーブルに倒れた。


「そもそも二人が所構わずイチャイチャしてることなんて私たち……というより全校生徒が知ってることじゃん」

「えへへ。正々堂々と付き合えるっていいね! おかげでしゅうくんと思いっ切りイチャイチャできてるわ!」

「ほらまた隙あらば惚気」


 しゅうくんといられる幸せに頬を緩める私に、真雪はやれやれと肩を落とす。


 それからテーブルに設けられている電子パッドから各々メニューを注文すると、一度乾いた喉を潤すべくドリンクバーへと向かいつつ、私たちは会話を続ける。


「まぁ、藍李が弟くんと甘々でイチャイチャな恋人生活ライフを送ってることは私たちも知ってることだけどさ。でも気になるじゃん! キスのその先をしたのかどうか!」

「そこを今回は深堀したくて拉致らちしたわけよ!」

「女子会なら私の家でやればいいのに」

「じゃあ今日はこのまま藍李の家でお泊り会しようぜ!」

「賛成!」

「お泊りに一番食いつくのは真雪なのね」

「将来の義姉おねえちゃんが義妹ぎまいの家にお邪魔するぞぉ?」

「はいはい。しゅうくんと同じくらいお義姉ちゃんも可愛がってあげるわよ」

「やったあ!」

「「……雅日姉弟が藍李に見事に手懐けられている」」


 人懐こい猫と犬を同時に飼い慣らす私の手腕ぶりに、心寧と鈴蘭がなんとも驚嘆とした顔で見ていた。


 ドリンクバーでの賑やかな一幕は、テーブルに戻っても続いた。


「なーんかあれだよねぇ。藍李の甘やかしっぷり、益々拍車が掛かってない?」

「そうかな?」

「そうだよ。弟くんと付き合い始めてから、藍李めちゃくちゃ変わった」

「まぁ、それを自覚かしているか否かと問われれば、前者になるかしらね」

「本当にぃ? 絶対自分じゃ気付いてないと変化あると思うよ?」

「例えば?」


 ずずず、とストロー越しにレモンティーを含みながら眉根を寄せると、対面席に座る心寧と鈴蘭も同じようにグラスに注がれた飲み物をすすりながらジト目を向けてきた。


「まず笑顔が増えたよね!」

「それは自覚あるわ」

「ただの笑顔じゃないよ。こう、ふにゃっとした笑顔」

「ふにゃ?」


 心寧の指摘にはて、と小首を傾げる私。

 それはどんな笑顔だろうか、と思案していると、心寧がにまにまと口許を緩めながら言った。


「いかにも私は今幸せですっていう笑顔だよっ」

「……ふむ。自分ではよく分からないけど、心寧が言うならその通りなのかもね。実際、今私は物凄く幸せだし」

「溺愛されてますなぁ」

「溺愛してもらえるよう尽くしてますから」

「出た藍李の恐ろしい一面」

「まだ弟くん堕とし足りないんすか?」

「うん。私無しじゃ生きられない体にしないといけないから」


 にこっと笑いながら答えると、心寧と鈴蘭だけでなく、隣に座る真雪までも顔をしかめた。


「うへぇ。あれで序の口なの?」

「もちろん。たぶん、真雪がしゅうくんと同じくらい私に愛情注がれたら、すぐにダメ人間になっちゃうかも」

「どんだけうちの弟愛してるのさー」

「死ぬほど愛してるわ」

「恥じらいゼロっすか」

「こういうのさらっと言うの流石だよねぇ。私が弟くんだったら軽く5回は惚れてる」


 心寧は煽るようにひゅーと口笛を吹きつつ、


「でも、どんな風に藍李に愛されるのか気なるなぁ」

「ごめんね二人とも。私のこの特別な愛情はしゅうくんにしか見せないし与えるつもりもないから」

「「私も弟くんになりたかった‼  ちくしょぉ!」」


 ぺろっと舌を出しながら謝ると、心寧と鈴蘭は悔しそうにテーブルを叩いた。


 お店の迷惑になるからやめなさい、と注意がてら二人の頭に軽く手刀を入れると、丁度そのタイミングで注文した一品目の料理が運ばれてきた。


 揚げたての香ばしいポテトの匂いに最初に飛びついたのは食欲旺盛な真雪だった。


「ぽってと、ぽってと~」

「まゆっちはいいなぁ。いくら食べても太らない体質で」

「それなぁ~」


 真雪が鼻歌をうたいながらさっそくポテトを一つ抓んでぱくっと頬張る。その後に続くように私たちもポテトを抓んで口に運び始めた。


 美味しそうに食べる真雪を心寧が羨ましそうに眺めている拍子ひょうしに、女子会の話題テーマが恋愛話から少し逸れて体型維持の悩みに変わった。


「私なんか夏休みに向けて絶賛ダイエット中ですよ。ぱくぱく」

「そう言う割には食べてるじゃない」

「明日から始めまーす」


 口ではダイエット中と言いながらも指はしっかり揚げたてのポテトを抓んでいる鈴蘭。


 そんな怠惰なJKに頬を引きつらせていると、彼女の隣に座る心寧が私に嫉妬するような視線を向けてきた。


「まゆっちの体質も羨ましいけど、私が一番解せないのは藍李だよっ。しっかり食べてるくせに全然太ってない。それどころか超美ボディなのは反則だっ!」

「あのねぇ。私だって体型維持するのに毎日頑張ってるんだからね。入浴後のストレッチに定期的なランニングと筋トレ。努力なくして乙女の体型は保てません」

「正論きらーい」

「私からすれば真雪の方が羨ましいわよ。見てみなさいこの細い身体を。毎日ご飯お変わりしてるのにこの体型なのよ」

「もぐもぐ……私、お母さんと同じで食べてもあまり太らない体質なんだよねぇ」

「心底羨ましいに限るわね」


 しれっと羨ましいことを言いながらまたポテトを頬張る親友。適度な運動を続けるだけで健康的で滑らかなウエストが維持できてしまうのだから本当に妬ましい。

 

「皆それぞれ羨ましい相手がいるんだねぇ」

「むしゃむしゃ……私だって藍李のそのおっぱいは羨ましいけどね」

「「同感」」


 そこだけ異様に食いつかないでくれるかしら、陽キャギャル二人。


「べつに三人だって悪くないもの持ってるじゃない」

「まぁここにいる全員C以上はありますよ。しかぁし! それにしても藍李のぺぇは別格なわけですよ」

「ぺぇと言わないで。すごく不愉快」

「じゃあおっぺぇ」

「大して変わらないわよ!」


 なんだか嫌に神経に触る胸の呼び方に異議を唱えること数分、次の料理が運ばれてきたタイミングを抗議の着地点にして、心寧が頬杖を突きながらこう呟いた。


「……でも、藍李のカレシになれた弟くんがめっちゃ羨ましいなぁ。藍李のその狂気じみたお胸を好きなだけ堪能できるわけでしょ」

「それは……うん。カレシ特権だから」


 ほんのりと頬を染めながら心寧の言葉に頷くと、その様子を見ていたしゅうくんのお姉さんがけっと忌々しそうに唾を吐いた。


「あのおっぽい星人が」

「男は皆おっぱい星人ですよまゆっちお姉さん」

「だとしてもだよ! 私の親友のおっぱいを揉むなんてけしからん!」

「ステイステーイまゆっち。その親友は弟くんのカノジョなわけですよ。つまり、そういうことをするのは至って普通ってわけ。まゆっちだってカレシくんとそういうことしてるでしょ!」

「……ノーコメントで」


 困った時の反応は姉弟同じなようで、鈴蘭の言い分に真雪は顔を赤くして視線を逸らした。その可愛い反応に、私は思わずくすくすと笑ってしまう。


 それから何かを誤魔化すように無言で骨付き肉に噛みつく真雪を見届けながら、心寧と鈴蘭は本日の命題でもあった質問を私に投げかけてきた。


「でぇ、そこんところぶっちゃけどうなんすか藍李さぁん。弟くんとはもう済ませたの?」

「どうなんどうなん?」


 食い気味に訊ねてくる二人。私は答える前にちらっと隣にいる真雪を見た。彼女はこの話題に興味を示しつつも、家族と親友の生々しい話に深入りすることに抵抗もあるような目をしていて。


 だから、心の中でそんな将来のお義姉ちゃんに『ごめんね』と謝ってから、私は全員に告げた。


「――はい。私は無事、しゅうくんと結ばれることができました」


 やはりこの告白は勇気のいることで、ほんのりと頬を朱く染めながら私は頷いた。


 その肯定を受けて、対面席に座る親友二人は「マジか⁉」と大歓喜した。


「本当にしたの⁉」

「うん。ちゃんと、しゅうくんに愛してもらえました。相性も、バッチリでした」

「ど、どうだった! 初めてした感想は⁉」

「あはは。私はべつに言っても構わないんだけどね……ただちょっと、隣がね」

「「あ」」


 私が困った笑みを浮かべている理由。それを理解した二人も遅れて苦笑いを浮かべた。


 私が指さしている先。そこには、先程まで美味しそうに骨付き肉に食いついていた少女が今は顔をしかめながら耳を抑えている姿があって。


「弟と親友がセックスしたとか、衝撃えぐ」

「「あはは。……なんかごめん」」


 どうやらまだ、お姉ちゃんは私たちが結ばれた事実を受け止めきれていない様子で。


「この話は……うん。まゆっちがいない時にしよう」

「そ、そうね。今日は私たちが順調に交際してるってことだけで満足してちょうだい真雪の心の安寧のために」

「「うぃっす」」


 そういうわけで、今回のお泊り女子会は親友の心境を慮って中止となった。




【あとがき】

ひとあまはクリスマス編まで書きたい。まだ夏休み編に突入してないし、そこに辿り着くまでイベントめっちゃあるから途方もないと思ってる。


 



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