第103話 期末テストの順位
「何度見ても納得できない」
「おいっ。人の輝かしい成績に対して失礼すぎるだろ!」
期末テストも無事乗り越え、夏休みも目前といった頃、廊下に貼り出された横断幕を俺の親友、柚葉は忌々しげに見ていた。
どうやらこの結果に納得していない様子の柚葉に、俺は地団太を踏みながら自分の名前が刻まれた箇所を強調するように指を突き立て告げた。
「ふふん。誰が何と言おうが結果は変わらない。――学年7位様をもっと崇めたまえ」
「うるせー! 中間から順位上げ過ぎなのよ! なんでしゅうがそんな上にいるのよ! 何かの見間違い……いやカンニングしたでしょ!」
「人聞きの悪い事言うな! 本人のたゆまぬ努力の成果だわ!」
「それなら猶の事ムカつくんですけど!」
「なんでだよ! そこは素直に「すごいね」って褒めろよ!」
「この裏切者!」
柚葉が納得していない現実。それは、俺が期末テストで【7位】という快挙を成し遂げたという事実だった。
中間テスト以降。次回の期末では10圏内に入るという目標を立てて勉強を続けてきた。時に自分を見失いながらも懸命に努力を積んだ末に、俺は遂に自分史上最高順位を獲ることができた。
他人に自分を認めさせようと
柚葉も内心ではたぶん褒めてくれていると思う。ただ、それを本人に面と向かって言うのは照れくさいのか気恥ずかしいのか、こうして俺の順位に顔をしかめていた。
いつまで経っても素直じゃない親友に肩をすくめていると、そんな
「おめでとう柊真」
「へへ。おう」
穏やかな笑みを浮かべながら拍手をくれる神楽に、俺は少し照れくさくなって鼻を掻く。
「でも、ちょっと悔しいな。これからは柊真が先生役に回るのは」
「何言ってんだよ。神楽だって順位上がってんじゃん。これからも分からない所があったら教えてくれよな、先生」
「ふふ。それじゃあ、これからも三人で頑張っていこうか。もっと上を目指せるようにね」
「学年主席獲りたいからこれからもよろしくな」
「大胆になったねぇ」
中学では俺と柚葉の赤点回避を一人で担ってくれていた神楽。その親友は悪戯小僧のような笑みを浮かべると、おもむろに拳を突き立ててきた。それに俺は不敵な笑みで返して、神楽の拳に自分の拳を当てた。
これからもよろしく、そう伝えるように交わされる拳に感慨深さを覚えて、俺たちは互いに無邪気な笑みを交換し合った。
これこそまさしく男同士の熱い友情。感動的な一幕……だというのに、
「ありえないありえないありえないありえない……」
そんな熱い友情の裏側では、未だにこの結果に納得できずにいる柚葉が爪を噛みながら俺の順位を睨んでいた。
「あのしゅうが7位とか絶対ない。私と同じく万年赤点回避勢だったくせに……カノジョも出来てイケメンになってそのうえ成績も学年上位とか……ハッ⁉ 分かった。これは夢だ! 私はきっと悪夢を見てる!」
「そんなに信じられないなら俺の順位を納得するまでその目に焼き付けてやるよっ、51位様!」
「うおお! やめろぉぉぉ! 私はこの現実を信じないからなぁぁぁ! ……てかしれっと私の順位を暴露するな!」
そんなに信じられないなら嫌でも理解させてやろうかと51位様の頭をガッチリホールドして無理矢理現実と向き合わせていると、
「うわぁ。すごいしゅうくん! 学年7位だなんて」
「藍李さん!」
「「緋奈先輩⁉」」
「ふふ。こんにちは」
突如、何の前触れもなく降臨した女神――ではなく、この高校一の美女にして俺の自慢の恋人である藍李さんの登場に、それまで賑わっていた周囲が一斉に驚愕の声を上げた。
どうやら少し前に一年生廊下に上がって来たらしく、それを如実に語るように彼女が廊下を通って来た道には生徒が避けていて、ないはずのレッドカーペットが見えた。
親友二人が音もなく登場した絶世の美女に驚愕している最中、俺は脊髄反射の如く勢いで最愛の恋人に声を掛けようとしたのが、しかし彼女の忠犬であるはずの俺よりもコンマ数秒ほど早く他の生徒(しかも男子)が藍李さんに声を掛けた。
「あ、緋奈先輩! ほ、本日もお麗しゅうございますね!」
「ふふ。ありがとう」
「トゥンク!」
恋人ができても藍李さんの人気は依然変わらず高いまま。一年生には相変わらず尊敬と崇拝されており、今まさにそれを顕著に感じるやり取りが行われている。
そんな光景をカレシである俺が当然面白いと思うはずもなく。
「……ガルルゥゥ」
めっちゃ嫉妬していた。
俺より先に藍李さんに挨拶した名前も知らない一年生を露骨に
とりあえず眉間の皺と犬歯は引っ込めつつ、しかし尻尾をぶんぶん振り続けている俺は半ば強引に藍李さんに握手を求めようとした男子生徒の間に割って入った。
「(俺のカノジョに気安く話しかけてるんじゃねぇ)」
「――ひっ⁉」
「?」
カノジョ大好きな男の独占欲を発揮させて男子生徒を睨みつけたあと、俺は何事もなかったかのように爽やかな笑みを浮かべながら愛しの恋人に振り返った。
「見てください藍李さん! 俺、やりました!」
「うん。ちゃんと見てるよ。一
「?」
微笑みながらスマホをポケットから取り出した藍李さんは、そのまま横断幕にレンズを向けた。
「しゅうくんの成長の証は、ちゃんとカノジョである私が見届けてあげないとね」
そう言った一秒後にカシャッとシャッター音が聞こえた。どうやら二年生の藍李さんが一年生の廊下に来た目的は
ちょっぴり恥ずかしいとは思いながらも、けれどカノジョがこんな風に俺の成長を見届けてくれるのはそれ以上に嬉しかった。
「本当に頑張ったね。偉い偉い」
「藍李さんに褒められる為ならなんでもやりますよ!」
今すぐにでも藍李さんに頭を撫でてもらいたいが、公の場ということもあり微笑みだけでお互い我慢していた。でも、彼女の家に着いたら思う存分頭を撫でてもらうつもりだ。
「頑張ったしゅうくんにはあとでカノジョがご褒美をあげないとだね」
「よっしゃ。……っとそうだ。藍李さんは何位でした?」
「私は3位だった」
「すげえ! じゃあ、俺も藍李さんに頑張ったご褒美あげないとですね」
「ふふ。それは期待していいやつかな?」
「うぅ。すいません。口走っただけでまだ何も考えませんでした」
「あっはは。素直でいい子だね。でも、しゅうくんがくれるご褒美なら私はなんでも嬉しいよ」
「~~~~っ! なら、猶更張り切ってご褒美考えないとだなっ」
そうして恋人の甘い雰囲気――というよりかは完全に犬と飼い主という主従関係に見える光景を、親友二人は頬を引きつらせながら眺めていて。
「……なんか。日に日に甘くなっていくんですけどあの二人」
「あれは完全に柊真が緋奈先輩に手懐けられてるせいだよ。僕の目には今、柊真が大型犬に見える」
「奇遇だね神楽。私も」
共に高成績。高順位にも関わらず、優等生であるはずなのに、醸し出す雰囲気はバカップルのそれで。
「ま。しゅうはやっぱり、思い詰めた顔よりも気の抜けた顔がお似合いだね」
「ふふ。同感。あの間抜け顔が僕らがいつも見てきた顔だからね」
そんな世話の焼ける親友の幸せそうな様子を、神楽と柚葉は呆れながらも微笑みを浮かべながら見届けてくれたのだった。
【あとがき】
あ~。早く柚葉メインの話が書きたいなぁ。
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