第100話 緊張も甘さが溶かして
――そして、その時は遂に訪れる。
『やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい』
心臓がバクバクと早鐘を打っている。今にも
一足先にシャワーを浴び終えた俺は、シャツとパンツを着た状態で藍李さんのベッドの端に腰を掛けて待機中していた。そして、この部屋の主は今、シャワーを浴びている。
「心臓がはち切れるっ⁉ 頭がふわふわしてる⁉ 寒い⁉ 熱い⁉ どっちだよ⁉」
落ち着つけと自分に言い聞かせるも身体は言うこと聞いてくれない。自分の意思も、脳も、主の命令を無視して逸るばかりだった。
「やばいっ。このままだと息子が絶対に元気になってくれない⁉」
そんな俺の一人息子をパンツ越しに確認すると、懸念した通り微塵もテントを張る気配をみせていない。ここで先走って暴走されるのも困るが、大人しいのもそれはそれで不安が募る。今はまだ大人しくしてくれても構わないが、大切な人の裸体を見てもそれが継続したままだと最悪彼女を失望させかねない。
「心頭滅却っ。心頭滅却っ。頼むから落ち着け心臓!」
そんな気持ちとは裏腹に、心臓は相変わらず
こうなれば最終手段、気分転換に動物系の動画でも観て気分をほっこりさせようかと、テーブルに置いてあるスマホを取りに腰を浮かせた直後だった。
「お、お待たせしました」
「――ぁ」
ガチャリ、と部屋の扉がゆっくりと開いて、そこからシャワーを浴び終えた藍李さんが現れた。
その、バスタオル一枚を
湯に浸かった熱がまだ余韻を魅せているように紅く染まっている肩に、バスタオルだけでは覆いきれず露出してしまっている両腕と両足の艶めかしく色白な艶肌。
そして、いつも見るサラサラな黒髪は、たっぷりと含めた水分を拭き取り切れずまだしめっけを残していた。しかし艶やかさは依然保たれたまま、そして今はそこに艶めかしさが加わって、彼女をより扇情的に魅せた。
「あはは。そんなにまじまじと見られると、覚悟はしてるもののやっぱり緊張するな」
「ご、ごめんなさい」
まさしく女神が降臨したかのような神々しい光景に魅入ってしまっていると、そんなカレシからの視線をカノジョは気まずそうに受け止めた。
慌てて視線を俯かせると
「改めて。お待たせしました」
「俺としてはもうちょっと時間かけてくれてもよかったです」
「むぅ。それはどういう意味かな?」
俺の隣に腰を下ろした藍李さんは、咄嗟に口からこぼれた
追求の視線を注いでくる彼女に、俺は慌てて首を振ると、
「いや違くて! その、まだ全然緊張が収まってないから、もうちょっと時間が欲しかったという意味で……」
「私だって緊張してるよ。今にも心臓がはち切れそうなくらい」
どうやらお互い、今にも心臓が爆発しそうなのは同じらしい。
それがちょっとだけ嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。
「でも、この緊張も私は好き。これから、しゅうんと愛し合えるって心臓が教えてくれてるみたいだから」
「あはは。その捉え方はいいな。……うん。それなら、俺もこの五月蠅い心臓が好きになってきた」
不思議だ。さっきまで騒がしくて煩わしいかったはずの、全身を支配する心臓の鼓動に嫌気を差していたのに、藍李さんのその言葉を聞いた瞬間。一気に思考がクリアになった。
未だに心臓の鼓動は五月蠅い。けれど視界は、最愛の人をしっかりと鮮明に捉えている。緊張に妨げられることはなく。
彼女の言葉のおかげで冷静さを取り戻すことができた。ようやく緊張を飼い馴らせた反動か、自然と手が彼女の赤く染まった頬に手が伸びて、胸に込み上がる感謝を伝えるように触れた。
「伝わってくれてますか? 今、すごく藍李さんに触れたいって気持ち」
「伝わってるよ。私を愛してくれてるっていうしゅうくんの想い。だからもっと触って」
不思議だ。頭は熱に浮かされたままなのに、我欲に支配されず眼前に映す女性の願いに応じている。
「どこ、触って欲しいですか?」
「その質問ずるいな。まるで自分からしゅうくんにえっちなことを要求するみたいで」
「藍李さんえっちじゃないですか」
「あははっ。そうだね。否定はできない」
「否定しましょうよそこは」
「無理だよ。だってしゅうくんのことが好きだから。早く私の隅々を味わって欲しいって身体が疼いて仕方ないの」
そんなことを言われてしまっては、男としては嬉しい限りでその想いに応えたくなってしまう。
「藍李さんは俺を狂わせる天才ですね」
「ふふ。しゅうくんの男心よく分かってるでしょ」
「本当によく分かってらっしゃる」
だから、その微笑みに応えてあげる。
「タオル。剥いでいいですよね?」
「うん。どうぞ」
静かな問いかけに藍李さんが短く顎を引いたのを見届けて、俺はゆっくりと艶やかな肉体美を隠す邪魔なバスタオルを剥いでいく。
そうして露になったのは、下着以外は何も纏っていない、ほぼ生まれたばかりの赤ん坊の姿をした――否、その表現は彼女に失礼だ。
なんとも艶めかしく、そして甘い色香を放つ恋人の姿だった。
「……綺麗だ」
「ふふ。ありがとう」
思わず口からこぼれた賛美に、藍李さんは少し照れながらくすくすと笑った。
小さな明かりが一つだけの部屋の中でも、藍李さんの
贅肉のない、引き締まったウエスト。さらにそこから上――俺がずっと今日という日を楽しみにとっておいた、生おっぱいはやはり豊満な果実のごとく実っていた。
「やっぱり。藍李さんの胸大きいですね」
「あはは。しゅうくん胸ばかり見てくる」
「だって本当に立派なんですもん。何カップあるんですか?」
「Fカップだよ」
「F⁉ ……って、絶対に大きいですよね?」
「うん。私の友達や学年でも、これくらいのサイズはたぶん私くらいじゃないかな。あってEとかだと思う」
「じゃあ俺はこの最高のお胸をカレシ特権で揉み放題ってわけですねっ!」
「あはは。うん。そうだよ。好きなだけ触って堪能していいの。カレシの、しゅうくんだけの特権」
アニメや漫画なんかではよく聞くバストサイズだが、どうやら現実では希少なものらしい。そこに緋奈藍李というバフも掛かれば、彼女の恋人である俺の理性はもう持たない。
目の前に垂涎ものの二つの果実があって、それを好きなように触っていいと許可が降りてるんだ。据え膳食わぬは男の恥だ。
ゆっくりと、しかし興奮気味に手が豊満な双丘に伸びていく。以前はここで一度躊躇ってしまったが、二度目は逡巡なく柔らかな肉を掴んだ。
「やば。藍李さんの胸最高すぎる」
「うふふ。ようやく触れた生のおっぱいの感触はいかがですか?」
「理性がぶっ飛びます」
「あははっ。ならよかった」
指先に軽く力を籠めれば、そこに沈むような柔らかさと適度な反発を感じた。それが藍李さんの胸を至極の一品だと頭に理解させるのはそう難くない。
このメロンの柔らかさとハリはまさしく至極に尽きる。揉んでいて一生飽きが来ない。
「ブラ、外していい?」
「んっ……しゅうくんはそのまま堪能してていいよ。私が外すから」
「じゃあ、お願いします」
自分の胸に無我夢中になっているカレシを観て、短く甘い嬌声を上げたカノジョはそう言って自分からブラジャーのホックを外してくれた。
プツン、と金属が擦れる音がして、はらりとブラジャーが彼女の太腿に落ちていく。それに一瞥だけくれて、俺は布に隠れていた部分も露になったそれの感触に思わず息を飲んだ。
「すげ、また柔らかさ増した?」
「ブラ外したから。詰まってた分がなくなって、ハリが減ったんだよ」
「なるほど。どうりで揉み心地がよくなったわけだ」
パンをこねる時ってこういう感覚なのかな。そう思いながら俺は思う存分カノジョのお胸を堪能し続ける。
「……しゅう、くん。胸っばかりいじるの……嬉しいけど、寂しいな」
段々と熱を増していく吐息。その間に焦燥を覚えるような声が聞こえた。
潤み瞳が俺に何を訴えているのかが判る。判るから、顔と顔の距離を詰めた。
「じゃあ、キスしましょ」
「うん。キスしたい」
やはり正解だった。その正解のご褒美は軽く触れあうキス――じゃない。
ずっと興奮している
「んぅんっ……んむっ、れろぉ」
唇と唇を押し付け合う。わずかに口唇の隙間を空けると、赤い蛇がうねりながら咥内に侵入してくる。そして、俺の蛇と絡み合った。
「この頭がくらくらする感覚、さいこぉだね」
「頭、おかしくなりそうです……」
「私はもうなってる」
「ふっ」
熱い吐息が互いの咥内で混ざり合って、一つの吐息へと溶け合っていく。もうどっちが自分の吐息か分からない。それくらい、俺と藍李さんは無我夢中でお互いを貪り合った。
そうやって夢中でお互いを求め合うから、いつの間にか彼女の豊満な二つの果実から手が離れて、無意識に華奢な肩を掴んでいた。
そして、まだ脳が蕩けるキスを続けたまま、俺は藍李さんと共にベッドに倒れ込んだ。
「ふへへ。キスしたまま押し倒されちゃったぁ」
「興奮、しないで……変態ですよ……っ」
「そんなわらひは嫌い?」
「愛してる」
「じゃあもっとちゅぅしよぉ」
舌と舌が絡み合ったままだからお互いに上手く呂律が回っていない。それでも、この胸に際限なく込み上がる愛情はしっかりと伝える。
まだこのままキスを続けていたい。けれど息が続かず、二人揃ってもどかしさを覚えながら唇と唇を離した。
「はぁ、はぁ、はぁ……しゅうくんの、もうすっかり元気だね」
「あはは。ですね」
荒い息遣いを繰り返す中で藍李さんが視線を下げた。そして、俺の下半身を見た瞬間、嬉しそうな、ほんの少し安堵したような柔和な微笑みを浮かべた。
「藍李さんがシャワーから戻って来るまでは全然元気になる気配をみせなかったんですけど、これだけやれば流石に元気になりましたね」
大好きな人の胸を堪能して濃密なキスもすれば、いくら沈黙を貫いていた息子も反応せずにはいられなかったらしい。今は元気過ぎて痛いくらいだった。
「それだけ元気なら、もう、本番いけそう?」
「いつでもいけます」
期待とわずかな不安。その二つの感情を宿して揺れる瞳が問いかけてきて、俺は首肯した。しかしその後に、俺はこう続けた。
「でも、俺まだ藍李さんのこと全然触れ足りてないので、もう少し藍李さんの身体を堪能させて欲しいです」
「――――」
俺のその懇願に、藍李さんは一瞬呆けたように目をぱちぱちと瞬かせた。それから数秒かけて俺の言葉の意味と意思を理解すると、淡桜色の唇から「ぷっ」と可愛らしい吐息を
「おねだり、上手になったね」
「カレシ特権乱用していいんでしょ?」
「うん。いいよ。私もしゅうくんに触ってもらって、もっと感じたい」
「頑張って藍李さんのこと気持ちよくさせます」
「頑張らなくていいよ。私はしゅうくんに触られるだけで、それだけで気持ちいいから」
「じゃあ。たくさん気持ちよくさせてあげなきゃ」
お互い初めてで、ここから先に進むのに覚悟はしているけどやはり恐怖や不安はある。
それをもう少し紛らわせてからでも、本番は遅くないと思う。
『なんて思ったりするけど、本当は俺が単純にもっと藍李さんに触りたいだけだったりして』
その思惑も否定できない。だって俺はまだ、藍李さんの触りたい所がたくさんあるから。
「――ひぅ⁉ ……しゅうくんのすけべ」
「藍李さんが言ったんだよ。好きな場所触っていいって」
「むぅ。……たしかに、許可しました」
女性にとって一番大切な箇所。そこにそっと優しく触れると、それまで余裕の笑みを浮かべていた藍李さんが女の子らしい可愛い悲鳴を上げた。
びくっと肩を震わせて、いきなり触られたことにびっくりしたのかわずかに潤んだ瞳が半目で睨んでくる。
「する前にちゃんとここをほぐしてあげなきゃいけないってネットの記事で読んだから、ちゃんとリラックスさせてあげないと」
「ま、真面目なのは勉強だけじゃなかったんだね」
「これも勉強といえば勉強じゃないですかね。保健体育の」
「――あはは。そうだね。たしかに、これは保健体育の実習になるのかな?」
この状況の比喩に『保健体育』という単語を使うのは
くすくすと笑う女性のリラックスした表情を見届けながら、俺は彼女の大切な部分に触れる指先に神経を注いでいく。
「――んっ」
「……藍李さん。もう濡れてません?」
「あ、あれだけえっちなキスして、大好きな人に胸を揉みしだかれて興奮しない女はいないよ」
部屋に木霊する水音に眉根を寄せれば、藍李さんが恥じらいをみせながら本音を吐露してくれた。
そして、自分の想像している以上に興奮している事実が恥ずかしいのか、藍李さんは真っ赤に染まった顔を両手で隠した。
羞恥に染まる大好きな人の顔―それを見てしまった瞬間。俺の中の
「藍李さんはどんな表情も素敵ですけど、その顔見るとすげぇぞくぞくします」
「み、見ないでぇ」
「だめ。見せて」
片手は下半身に。もう片方の手は、恥ずかしがって顔を隠す両手を退けるのに使った。
そして露になる赤く染まった顔に、俺の心臓がドクン、と跳ね上がった。
「――やば。今の藍李さん。超可愛い」
「うぅぅぅ。しゅうくんのいじわるぅ」
小さな悲鳴を上げるカノジョは、反抗的な目で俺を睨んでくる。今はその目すら愛しくて、欲情を
「ねぇ。もっと俺に見せて。俺がまだ見たことがない、藍李さんの表情」
「ひゃう⁉ ……も、好きなようにしていいよ」
抵抗することを諦めたような、俺に快楽の全てを預けたような、諦念を悟った声がそう言った。
「――私の全部しゅうくんに曝け出してあげる。その代わり。たくさん愛してね」
「――うん。めちゃくちゃ愛してあげる」
期待と興奮を宿した紺碧の双眸に、俺は契約の証としてカノジョと甘い口づけを交わした。
【あとがき】
久々の本編はやっぱ気持ちがいいですなぁ。ゆっくり更新していきますっ。
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