過去話5 梓川神楽の憂鬱
――柊真に仲の良い女の子ができた。
世話の焼ける僕の友人こと雅日柊真は、何事にも無気力な少年でとにかく愛想が悪い。
他人と関わることを煩わしいと感じているのか、口調も淡泊で表情の変化も乏しく、その不気味さから積極的に彼に話しかけようとする者は少ない。
ただ、話してみると結構会話が弾んだり、慣れると気の抜けた口調も妙に心地よく感じたり、
だからか、そんな不器用な友達のお世話をつい焼いてしまうのは。
庇護欲をそそられるといえばいいか、無気力な彼を見るとついつい介護心が疼いてお世話をしてしまうのだ。柊真には他人に自分の世話をさせる隠された才能があるのかもしれない。
そんな彼のお世話係に就任してから早一年。学校ではほとんど一緒に行動している友人に最近、新しいお世話係ができた。
「ほら、いつまでも机にくっ付いてないで部活行くよ」
「なんで今日も部活があるんだぁ」
「行かないと監督に怒られるよ。最悪遅刻した罰で校庭10周走しることになるかもしれないよ?」
「それだけはマジ勘弁。柚葉ぁ。俺をグランドまで引っ張ってくれぇ」
「はいはい。連れて行ってあげるから。ほらっ、いい加減立ち上がる!」
相も変わらず気怠げな柊真を甲斐甲斐しくお世話する一人の女の子。
その子の名前は清水柚葉。茶の短髪が特徴的で猫のように丸い瞳と愛らしい顔立ちをした彼女こそ、前述した柊真の『仲のいい女の子』の正体だ。
どうやら半年ほど前に部活内で知り合いになり、そこから少しずつ会話を交わすようになり、最近ようやく『友達』と呼べる仲になったそうだ。
…………。
恋人じゃなくて、友達だそう。
たぶん運命的な出会い方をして、距離の縮め方なんか絶対にアオハル的なもののはずで、日頃のやり取りなんかラブコメでよく見るやる気のない幼馴染とそれを甲斐甲斐しくお世話する幼馴染の甘々な構図そのもので、それなのに、二人曰くまだ『友達』らしい。
傍から見れば二人は相思相愛に見えるし、柊真は分からないけど清水さんは絶対に柊真に好意を抱いているように見える。そうじゃなきゃあの性格に難がある男子の相手なんか絶対にしない。
おそらく、清水さん本人がその恋心を自覚していないパターンだ。あるいは、柊真に寄せる感情を理解していないパターン。
柊真も中学で初めてできた女友達だからか、清水さんのことを大切な存在として接している。本人は無意識だろうけど、清水さんといる時の柊真の顔は少しだけ柔らかくなるんだ。口調も若干優しくなる。
ここまで説明すればもう僕の心情は察してもらえるんじゃないかな。
非常に、非常にじれったいのだ。
さっさとくっついちゃえよ、と二人のことを遠く見守る度に何度発狂しかけたことか。
僕としては早く二人に付き合ってもらいたいんだ。いや、正確には清水さんに柊真を貰って欲しい。押し付けるようで申し訳ないけど、柊真の性格を理解してそれでも一緒にいようとしてくれるのはきっと世界中探しても清水さんくらいな気がする。
柊真の面倒を見るのはきっと大変だろうけど、けれど柊真は付き合ったら絶対に自分を変える男だ。性根が優しくて本当は真面目な柊真が恋人のヒモになるような真似は絶対にしない。したら僕がぶっ飛ばす。
それに柊真は実は顔がいいんだ。長い前髪と死んだ目のせいで不気味に見えるけど、顔立ちは僕より整っている。あと二年もしてちゃんと
とにかく、柊真は絶対にカレシとして捕まえておいたほうがいいんだ。なんだかんだで友達想いなヤツだから恋人もちゃんと大切にすると思う。というかめちゃくちゃ愛情注いでくると思う。なんとなくだけど、そんな気がする。
『……清水さんが柊真のカノジョになってくれれば、僕も安心できるんだけどなぁ』
清水さんが柊真に寄せている気持ちが分からない以上、下手に手を打つこともできない。いや、仮に清水さんの恋慕を知っても、僕が彼女にできることはせめてその背中を押して応援してあげるくらいだ。
僕の方から二人をくっ付けるような画策はしたくない。僕はできれば、二人のペースで恋を育んで欲しいんだ。そうじゃないとあの二人は長続きしない気がするから。
清水さんは見て分かったけど奥手で、柊真の方は相手を慮り過ぎてぎこちなくなる気がする。
もし、二人が今のまま恋人になったら、終始初々しいままで何の進展もなく、やっぱり友達同士の方が気楽だったね、みたいな終わり方を迎えてしまう気がするのだ。それだけは絶対に避けなければならない。無気力&めんどくさがりな柊真が恋人をまた作ろうという
故に、清水さんが柊真に好意を寄せている(かもしれない)現状が僕にとっては最大の好機であり、本人は気付いてないけど柊真にとっても人生最大の
もし、清水さんんか柊真、どちらかが相手への恋慕を自覚したなら、その時こそ僕の出番だ。僕は、全力でその恋を応援しよう。
いつか二人が仲良く手を結び合って歩く未来に辿り着くまで。その時が訪れるまでは、
「――はぁ。やっぱり今日も進展はなさそうだなぁ」
僕はこうして、影から二人のことを見守り続ける。
【あとがき】
柊真のことが放っておけない神楽は、中学時代はこんな感じでずっと柊真と柚葉の二人を陰から見守り続けてました。
亀よりも進展が遅い二人をずっと傍で見守っていた神楽の忍耐力を褒めてあげてください。
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