間章 【 在りし日の思い出 】

過去話――無気力な少年

【まえがき】

こちらの過去話は3章改稿までの更新でしたが、無事に3章の改稿が完了したので本編を楽しみたい方は下記のリンクから100話へ移動してください。過去話が気になる方は引き続き本話をご拝読ください。↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330666273354994/episodes/16818023213748051508

――――――――――



「なぁ、雅日って好きなやつとかいんの?」

「ん?」


 中学に入学し、学校の伝統か暗黙の規則ルールなのかは知らないが部活動に入部してざっと三ヵ月が過ぎた頃、俺は専攻している競技の同じ一年生とのアップ中にそんな質問を受けた。


「いるわけないだろ。そもそも、俺は女子と関わりすらないからな」

「お前クラスで浮いてるんだっけ?」

「浮いてるんじゃない。孤高なだけだ」

「陰キャ過ぎて気味悪がられてるんだろ」


 くつくつと笑いながら悪罵を吐いてくる男子――皆瀬みなせに、俺は図星を突かれて口を歪ませる。


「べつに普通に過ごしてるだけなんだけどな」

「お前基本何事もやる気ないだけだもんなぁ。先生に怒られても真面目にやらないのはある意味天才だわ」

「好きじゃないことにやる気だしても苦しいだけだろ」

「気持ちは分かる。でも、お前のやる気のなさは異常だよ」


 苦笑気味に口許の端を吊り上げて言う皆瀬に、俺ははて、と小首を傾げる。


「頑張って結果が出るならまだしも、そうじゃないならやるだけ無駄じゃね?」

「俺らまだ中一よ? 最初から才能ないからって吐き捨てるのは時期尚早だと思うけど」

「いいや。俺は自己分析が得意なんだ」

「そんな自己分析得意マンが弾き出した結果は?」

「すでに俺に陸上で結果を残す事はできないと算出した。俺はお前と違って走り幅跳びをやりたくて決めたわけじゃないしな」

「じゃあなんで幅跳びにしたんだよ?」

「そんなの一番サボりやすそうだったからに決まってるだろ」

「お前すげぇな。そんな理由で決めたって監督に知られたら間違いなく長距離に異動させられるぞ」

「チクったらお前を一生恨むからな」


 にらみながらそう言えば、皆瀬は「言わねぇよ」とくつくつと笑った。


 そもそも、俺は部活動になんて入りたくなかったんだ。面倒めんどうだし疲れるし、やりがいも感じてない。こんなことに時間を費やすくらいならゲームして漫画読みたい。


 俺は、興味のないことにはとことんやる気が出ない性格タイプなのだ。


 他人に興味がなくて、自分にも興味がない――万人を明るくさせるような人をずっと身近で見てきただけに、何をやるにも平凡な自分自身がどうしても好きになれなかった。


 だから、誰かを好きになるなんてもってのほかで。


「恋とかもどうでもいいな。モテたくて部活やってるわけでもないし、付き合う暇があったらゲームしてたい」

「雅日ってそう聞くと超ゲーマーだよなぁ。そんなにゲーム好きなら将来は実況者にでもなれば」


 こんちゃーす雅日でーす、と共通認識しているゲーム実況者の真似をする皆瀬。どこか俺を小馬鹿にしている友人に顔をしかめると、そんな俺を見て皆瀬は腹を抱えて笑った。


「恋愛も面倒で部活も面倒。学校も退屈とか、雅日の人生って面白いこと何もなくね?」

「そんなことはない。何度も言ってるけど、俺は興味ないことに無関心&無気力なだけだ」

「じゃあ雅日って何が好きなの?」

「ゲー……」

「ゲームはもう知ってる。他は?」

「釣りが好きだ」

「へぇ」


 そう答えると、皆瀬は関心を惹かれたような吐息をこぼした。


「雅日が釣り好きとか少し意外だわ。俺も何回かやったことあるけど、暇な時間多くね?」

「その暇な時間がいいんだろうが」

「理解できねぇ」

「無理に理解できないこと理解しようとしなくていいぞ。俺はお前の質問に答えたまでだからな」

「雅日はほんと淡泊だなぁ」


 呆れた風に肩を竦める皆瀬。俺は知ったことかと鼻息を吐いた。


 千差万別。十人十色。人の価値観なんて人それぞれだ。俺は自分の趣味を無理に共有したいと思わないし、価値観を押し付けることもしない。それを共有したいと思える相手とだけすればいいと思ってる。


「皆瀬もゲーム好きだろ」

「おう」

「じゃあそれで例えさせてもらうけど、ゲームにだって好みがあるじゃん」

「そりゃな」

「お前はきっと、自分が好きなゲームを友達にも好きになってもらう為に面白い所を伝えて共有したい性格なんだと思う。でも、俺は違う。俺は自分が好きなゲームがあっても、それを誰かと共有したいとは思わない。端的にいえば、お前はマルチプレイが好きで、俺はソロプレイが好きなんだ」

「あー。その例えめっちゃ分かりやすいかも。つまりあれか、雅日は黒の剣士なんだな」

「スターバースト〇トリーム打てるなら俺も打ってみたいしデスゲームもちょっと面白そうではあるけども、でも俺はあんな風にカッコよくはなれないよ」


 水瀬の喩えに苦笑しながら言い返せば、またくつくつと笑い声が聞こえてくる。


「その黒の剣士だって恋人がいるし、仲間がいる。でも、俺は違う」

「?」

「俺は――たぶん、どこまでいっても孤独ソロプレイだ」


 自分の価値感を相手に押し付ける勇気がない俺は、きっとどこまでいっても真に互いを理解し合える人とは巡り合えないんじゃないかと思う。


 それを人は臆病者と言うのだろう。


「――――」

「? なんだよ。人の顔じっと見て」

「いいや。べつに」


 俺とは性格が真反対もいいところの陽キャを見つめると、ソイツは不愉快そうに顔をしかめた。そんな皆瀬に俺は「わりぃ」と謝って視線を外す。


「――柚葉ちゃーん。メディシンボール持っていくよー」

「は、はいっ!」


 視線を外した先で、一人のちっちゃい女の子が慌ただしく走っていく姿を捉えた。

先輩の後ろを必死についていく様が子ガモのように見えて、楽しそうに部活に励んでいる姿がなんとも眩しく見えた。


 きっと彼女も隣にいる皆瀬と同じ側の人間なんだろうなと思うと、途端に興味が薄れていく感覚を覚えて。


「――はぁ。早く部活終わんねぇかな」


 どこにも居場所なんてない俺は、いつまで経っても変化が起きない退屈な日々にため息を落としたのだった。


「……雅日にも早く好きな人ができるといいな」

「たぶん無理だな」

「無理かぁ。……ま、気楽にやってこーぜ」

「言われなくとも俺は気楽にやるよ。皆瀬は頑張って一年生の期待になってくれ」

「はは。それは雅日にも言えることだと思うけどね……絶対俺より才能あるのに」


 小さく零れ落ちた、友人からの嫉妬。それに気付かないまま、俺の三年間は過ぎていく――。





【あとがき】

修正というよりセンシティブ判定された部分は削除したからたぶん本作は公開停止にはならないと思います。それでもなったら別サイトで連載します。


Ps:いったいどこまでがセーフなんだカクヨム運営さん。。。

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