第3章ー1 【 恋人。そして婚約者 】
第80話 皆。緋奈藍李の手のひらの上で踊らされている
――藍李さんと正式な恋人となってから、早数日が過ぎた。
校内一の美女であり、また人気者である藍李さんに遂に恋人が誕生したという話題は連日絶えず、学校新聞には告白場となった中庭で熱く抱擁する俺たちが表紙を飾った。……てかなんで学校新聞でそんなの載せられるんだよ!
俺の疑問はさておき。これまで校内で有名なイケメンや部活動のエース、天才と数多の男が彼女に告白し、そして
「くあぁぁ」
本日も晴れやかな晴天のもと、俺は呑気に大きな欠伸を掻いていた。
『思ったより見物客と質問者が来なくて安心したというか、拍子抜けというか』
その心境こそ、この事態の異質さを
当初、藍李さんに告白をしようと覚悟を決めた俺は、当然その後の展開と対応も視野に含めていた。
藍李さんと交際すれば、それを快く思わない生徒から疑念の声や非難轟々を浴びることは容易に想定できた。避けられない尋問を俺は覚悟をしていたわけなのだが……それは心強い先輩方のおかげで杞憂となった。
どうやら、俺に告白させる計画と平行して、藍李さんの親友、心寧さんと鈴蘭さんが裏で色々と奮闘してくれたらしい。
具体的な方法や詳細は聞いていないが、端的にいえば俺と藍李さんの関係を数名の生徒たちに露呈させたらしい。
その対象は主に女性生徒。それも藍李さんに匹敵する各学年の人気者たちだ。それと、心寧さんや鈴蘭さんが信頼している同学年の男子数名。
それだけでこの事態の収拾が早まるのかと初めは懸念したが、実際には二人の
そしてその一方で、現在学校は空前絶後の恋人成立ラッシュが巻き起こっているとか。
その理由は至って
失恋でぽっかり空いた胸を満たしてくれる女の子に単純な野郎どもが惚れない訳もなく、結果的にカノジョができた男たちは俺の下にケチをつける必要がなくなったのだろう。
これは俺の知らない話になるが、女性陣(特にニ、三学年の先輩方)は俺に感謝しているらしい。緋奈藍李という憎き恋敵の席を埋めてくれて、と。
心寧さんも鈴蘭さんもどうやらいいお相手を見つけられたようで、万事滞りなく順調に物事が動いている。皆幸せならそれが一番だ。
『はぁ。ほんと、上手くやってくれましたね先輩方』
偉業を成し遂げた先輩たちに感服させずにはいられない。ふと青空に視線を移すと、陽キャギャルの二人が『だろ☆』とドヤ顔を決め込んでいるイメージが脳に湧いてきた。
それに苦笑を浮かべる裏腹でこんな思案も過る。
『藍李さんはこうなることをどこまで予想していたんだろうか。……なぁんか、俺も心寧さんたちも、姉ちゃんも藍李さんのシナリオ通りに動かされた気がするんだよなぁ』
ここからは俺の推察。
この、学校一の美女をどこぞの馬の骨かも分からないモブ野郎が落としたのにも関わらず、意外にも平穏無事な学校生活を送れている理由は、才女の知謀が遺憾なく発揮されたことが起因していると思われた。
思えば藍李さんは、最初からこうなる展開を正確ではないが、しかしある程度は予測していたのだろう。
そう思わされるのは、告白の一件から約一か月前に起きた事件――俺と藍李さんが共に一緒に帰った日のことだ。
あの
それが若干トラウマとなって俺の意思が歪み始めたのだが、それはもう済んだことなので置いておく。――今思えばあれも、藍李さんがこの状況を完成させるために打っておいた布石だったのだろう。
あの事件があったおかげで、俺の名前は良くも悪くも大勢の生徒に認知された。
緋奈藍李の恋人かもしれない男、雅日柊真として。
なんとも嬉しくない覚えられ方だが、しかしそれが後に功を成す。
やっぱり緋奈藍李の恋人だった、雅日柊真、として。
あの事件は、藍李さんなりの俺の売名行為だったわけだ。意図的に公の場で俺の姿を晒させ、認知させ、そしていつか来る未来に備えてあらかじめ他の物たちに雅日柊真という存在を記憶に根付かせておく。
そうして大勢の者たちの頭に記憶された男が満を持して告白した時、胸を張ってこの人は自分の
――おそろしい。
「……おそろしい」
心の中の声が口からもぽろっと出てきてしまった。
まさに知謀者。
おそらく俺は、藍李との仮の恋人期間中からずっと彼女に密かに外堀を埋め続けられていたのだろう。
少しずつ周囲に俺を認知させていって、そうして逃げ場をなくしていく。そして檻が出来上がったタイミングを見計らって、満を持して俺に告白させる。――やべぇ女だった。
愛が重い。俺のこと好きすぎる――でも、でもだ。
そういう所が、藍李さんの多少強引で狡猾な所が、好き。
我ながらにバカだと思うし、少しは身の危険を感じた方がいいとも思う。あの人は想像以上に愛が重たい人だ。
でも、それがいい。
そこがたまらなく可愛い。
俺を好きでいてくれるあの人を、心の底から愛してる。
たぶん、俺も藍李さんと同じくらいヤバくて愛が重たいのだろう。
つまり、お似合いということだ。
今の俺は完全に浮かれている。気を引き締めようと自分を律しても、その一秒後には頬が勝手に緩んでしまう。
「あぁぁぁぁ。早く藍李さんに会いたいぃぃ」
現在は五時間目。藍李さんと会うには、次の六時間目を乗り越える必要がある。
でも、そこさえ乗り越えれば、放課後は藍李さんと一緒に帰れる。
以前とは違って周囲の目を気にせず、堂々と、恋人として、彼女の隣を歩ける。
手を繋いでいられる。
今は、浮かれてもいい。
これまで頑張った自分を、あの時勇気を振り絞って彼女に告白した自分を今は讃えてやろう。
これから、緋奈藍李という世界で一番好きな人と隣を歩く為に。
「……はは。やっぱ俺、超愛おめぇな」
【あとがき】
昨日は12名の読者さまに★レビューをつけて頂けました。第3章も変わらず応援お願いします。
第2章で回収し切れなかった伏線があるのでここで補足。
皆さん。地味緋奈藍李のことは覚えてますか? そう。第66話で登場した黒髪おさげで黒縁眼鏡姿になった、地味モードの藍李です。
藍李が地味になった理由は、自分の上がってしまった評価を少しずつ落とす為でした。あの時から既に自分が柊真の負担になっていることを理解していた藍李は、どうにかして自分の周囲の評価を落とすべく、まずは見た目から変えることを思いつきました。そして、その作戦は実はまだ継続中で、本話では語られていませんが時々地味モードで登校しています。そして、実は藍李本人もその姿を気に入ってたりしてます。
第3章のどこかでその話をうまく持って来れればいいなと思い、ここで補足させていただきました。
Ps:3章前半軽く見直したけど、結構序盤からギア上げてたわww
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