第78話  正式なカップルへ

「はぁ、久しぶりにしゅうくんとこうしていられるの幸せぇ」

「ちょっと寄り過ぎじゃありません?」

「いいでしょ。今はもう正式な恋人カップルなんだから」

「……まぁ、俺もしばらく藍李さんに触れられなくてストレス溜まってたから、今日はべつにいいか」

「うんうん。このままくっ付いてようよ」


 あれから時はしばらく経ち、現在は緋奈さんの自宅。


 中庭で行われた告白はその後学校中で話題騒然となり、遂に我が校のマドンナに恋人ができてしまったとそれはもう大騒ぎだった。


 放課後は生徒会である姉ちゃんの特権を使わせてもらって、そこで友人たちにこれまで俺たちの関係を秘密にし続けたことへの謝罪を改めて行った。


『私はもう知ってるし、それにスタパも奢ってもらえるから気にしてないよ。ちゃんと緋奈先輩を幸せにするんだぞっ!』

『僕の方もおおむねね把握してたから今更って感じかな。でも、これからはもっと友人を頼るべきだね。そうすればこんな面倒ごとにならなくて済んだかもしれないのに』


 というのが俺の謝罪に対する二人の返答だった。柚葉も神楽も特に不満はないらしく、これから大変だろうけど頑張れ、と背中を押してもらった。


 本当に、俺には勿体ないくらいよく出来た友人たちだ。感謝は尽きない。


 そして一方で藍李さんの友人たちの反応はというと、


『私たちの方も前に藍李と弟くんがデートしたとこ目撃した時からだいたい勘付いてたし気にしなくてオッケー』

『それよりも本当にごめんね弟くん! なんか色々と覚悟決めてたのに女の都合で振り回しちゃって』


 既に事情を藍李さんから聞いてたらしい心寧さんと鈴蘭さんは、そう言って逆に俺にあやまって来た。その事に関しては後で緋奈さんと改めて話し合うと伝えて、互いの罪悪感に区切りをつけた感じで謝罪は終わった。


 そして、最後の一人、お互いにとっての大切な存在、姉ちゃんはというと、


『いやぁ。まさか二人が付き合っていたとはねぇ。二ヵ月全然気づかなかったのは私なんだし、そこは気にしなくていいよ。……でも! しゅうは漢気なさすぎ! 女からの告白を保留にするなんて軟派野郎のすることだぞ! アンタは後で姉ちゃんが直々に説教してやる!』


 俺はガッツリ怒られ、藍李さんの方は、


『藍李は藍李で、もうちょっと私を信用してくれてもよかったんじゃないかな。私は二人がどんな関係でも、きっと応援できたと思う。しゅうは別としてね』


 親友を憂いた、咎めるような視線に、緋奈さんは姉ちゃんに深々と頭を下げた。その後、姉ちゃんに『これから弟をよろしくね』と優しく抱きしめられた緋奈さんは、皆の前でぼろぼろと泣き崩れた。


 そうして関係者各位への贖罪しょくざいも済ませ、その後は全員から『恋人としての時間を今は存分に楽しんでほしい』という配慮をもらい、今はこうして緋奈さんの自宅でゆっくりとしているわけだった。


「――というか、やっぱ俺を一度フったのは演技だったんですね」

「うん。しゅうくんを発破掛ける為にって、四人でそういう計画を立てたんだ」


 俺を告白させるのにどうやら色々と綿密な計画を練っていたらしい緋奈さんたち。


「じゃあ、俺は見事に緋奈さんたちの術中にはまったってわけだ」

「やっぱり怒ってるよね?」

「まぁ、多少やりすぎだろとは思いますけど、でも今はこうして緋奈さんの手を握ってられているから結果オーライです」

「うぅっ。キミはなんでそんなに優しいのよぉ」


 そういう所が大好き! と感情を抑えきれない緋奈さんが抱きついて来る。


「……本当に、ごめんね」

「――――」


 俺の胸に顔を埋めたあと、語勢の落ちた声音が謝罪の言葉を呟いた。


「謝らないでください。べつに、緋奈さんだって覚悟決めてやったことなんでしょ」

「でも、一時でもキミを苦しめたことに変わりはないよ」

「苦しいか苦しくなかったでいえば、そりゃ確かに苦しかったですよ」


 今はあれが嘘だと分かっているが、当時の俺にはやはりアレはかなり精神的に効いた。

 しかし、そのおかげで自分を取り戻せたというのがなんとも皮肉な話であるが。


「俺は、他人に認められれば緋奈さんと正々堂々と付き合えるって思ってましたけど、でも違ったんですよね。本当は、そんなもの必要なかった」

「――――」

「俺にとって本当に認めらなきゃいけなかった人は緋奈さんだけで、誰に何を言われようとアナタといることを望んでいれば、それでよかったんですよね」


 俺たちは創作物の主役なんかじゃない。この世に生を受けた、雅日柊真という一人の男性で、彼女は緋奈藍李という一人の女性なんだ。

 

 そんな二人が出会って、惹かれ合って、こうやって愛し合えていれば、それだけで十分だったんだ。


「うん。それでいいんだよ。私がキミ以外を望まないように、しゅうくんも、私以外を望まないでくれたら、それでいい。それだけで、私は幸せなの」


 簡単なことに気付かなかった。いや、気付いていたのに、気付けなかった。


 最上の幸せを求めすぎて、足元がおろそかになっていたのだ。いつの間にか。


 でも、今はちゃんと、大好きな人の瞳を真っ直ぐに見れているから。


「約束します。これからは、アナタが飽きるまで、ずっと傍にいます」

「ふふ。それじゃあ、ずっと傍にいてくれるってことだね」


 俺の卑屈な宣誓せんせいに、緋奈さんはくすっと笑ってそう言った。その言葉が意味するのは即ち、彼女が俺のことを思い続けてくれるという宣言で。


 あぁ、やっと。


 やっと、やっとだ。


 手を伸ばし続けて、ようやく――


「俺の初めてのカノジョがこんなに美人で可愛い人とか、感無量すぎて言葉が出てこないです」

「ふふ。それを言ったら私だってそうだよ。初めてできた恋人がこんなに優しくてカッコよくて恋人想いの人なんて、私には勿体ないくらいだよ」


 強く抱きしめ合って、互いの恋人に対する賛美を送り合う。


 もう既にバカップルになる気配に、俺と緋奈さんは見つめ合って笑った。


 ようやく届いた。


 ようやく、アナタの隣に立てた。


 今はそれが、何よりも嬉しくて。


「今日からもう、好きなだけ緋奈さんのこと抱きしめていいんですよね」

「うん。そうだよ。しゅうくんが満足するまで、私を力いっぱい抱きしめて。私も、これからは好きな時に好きなだけしゅうくんに抱きつくから」

「あはは。愛情表現つよ」

「覚悟してね。私、重いんだから」

「あははっ。――はい。ちゃんと、受け止めてみせます」


 カノジョから贈られる愛情を受け止められるよう、俺もこれからもっと頑張らないと。自分を見失わないように、ちゃんと、足元と緋奈カノジョさんを見て。


「――大好きです。緋奈さん」

「――大好きだよ。しゅうくん」


 俺と緋奈さんは、次の一歩を共に歩き始める。




【あとがき】

さぁ第2章も次回でいよいよ完結です。

第79話・更新は11(木)17時頃。

蛇足2・更新は19時頃を予定してます。こっちは間に合うか分からん。



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