第77話  緋奈藍李さん。俺と――付き合ってください。


 昼休みになるといつも賑わう中庭は、今日はいつにも増して騒がしかった。


「……はぁ、やっぱこうなるよなー」

「何かご不満でも?」

「緋奈先輩が決めることに俺はいつだって不満はありませんよ。ただ……」

「ただ?」

「ギャラリー多いなぁ、と」


 既に俺と緋奈さんは中庭に居て、対面する形で佇んでいた。


 そして、そんな俺と彼女を囲むように、大勢の生徒ギャラリーが中庭を埋め尽くしていた。


 いや、それも誤謬ごびゅうがある。ここに集まっている生徒ギャラリーは中庭だけでは足りず、校舎の廊下の窓辺から見物している生徒までいる。


 ここまで中庭が大勢の生徒で埋め尽くされるのは、当然と言えば当然だった。


 本来であればこの儀式は、学校では定番の告白スポットで行われる。しかし本日、彼女がセッティングした舞台が〝中庭〟という異例の事態が起こっていた。校内一のマドンナがわざわざ場所を変えて一人の男子生徒と対峙している。そんな状況、イベントに目聡めざとい生徒たちならば是が非でも見物したいに決まってる。


「……公開処刑には打って付けですね」


 これで緋奈さんに本当にフられたら、俺は確実に学校中から笑い者にされるだろう。分不相応な男が緋奈藍李という高嶺たかねの花に手を出すことへの愚かさ。その見せしめとして。


 あるいは、分不相応な、それこそ学年カースト最下位の男が、校内一の美女を落とす決定的な瞬間の目撃者として。


 俺としては後者であって欲しいと願いながら、緋奈さんと会話を続ける。


「曲がりなりにも、キミは私を二ヵ月楽しませてくれたから。最後・・は盛大な幕引きを降ろしてあげるわ」

「お気遣い感謝しますよ」


 不敵な笑みに軽口で応じて、俺はそろそろ始めるかと息を吸った。


 この距離ならお互いの声を十分拾えるが、それでもこれから一大決心して告白するというのにその舞台が喧噪まみれではムードの欠片もない。


 なので、


「すぅ……」

「?」


 肺いっぱいに酸素を貯め込む俺を見て、緋奈さんが眉根を寄せる。

 そんな彼女には一瞥もくれることなく、俺はカッと目を見開くと、肺に溜めた酸素を今度は一気に放出した。


「うるせえ――――――――――――――――っ!」

「――っ!」


 中庭で木霊する喧噪。それを黙らせるべく、俺は校舎に響き渡るほどの大声を上げた。


 突然叫んだ俺に緋奈さんは目を剥き、周囲も中庭中央で上がった怒声にビクッ、と肩を震わせた。


 魂の雄叫びからおよそ20秒後。ようやく静まり返った中庭で、ついに最初で最後の告白が始まった。


「ふぅ。これでやっと始められる」

「びっくりしたよ⁉」

「あはは。驚かせちゃってごめんなさい。でも、緋奈さん・・に気持ちを伝えるんだから、誰にも邪魔されたくなくて」

「――っ!」


 俺が二人でる時の呼び名に戻したからなのか、それともこの告白に対する想いに反応したのかは分からない。

 ただ、息を飲んだ緋奈さんが、ゆっくりと表情を引き締めていく。


「まぁ、この場所を選んだのは緋奈さんですけど」

「ひょっとして怒ってる?」

「全然怒ってませんよ。――俺も男なら、アナタの前に砕け散った男たちと同等の舞台に立って勝負しないと」

「……威勢だけは立派ね」


 たしかに、と緋奈さんの言葉に俺は肩を竦める。


 図らずも他の男たちと同様に、俺も彼女に告白するという舞台に上がってしまった。少し舞台背景が違うのが気になるが、いずれにせよ彼らと同じ舞台に立ったことに変わりはない。それを少しだけ、誇りに感じている。


 自分も今、一人の男として、真っ向から惚れた女性と向き合えているのだと、それを実感すれば、武者震いせずにはいられなかった。


 それに、この大勢に見守られている舞台なら、俺がずっと悲願としてきたことが叶いそうな気がした。


 もしかしたら、それを含めてこの舞台を用意したのかと思うと、目の前の女性の知謀さに思わず苦笑が浮かび上がってしまって。


 その笑みも今は場違いだと慌てて引っ込めて、俺は緋奈さんに向き直った。


「想いを伝える前にまず、緋奈さんに謝らせてください」

「謝る?」


 神妙な顔つきでそう切り出した俺に、緋奈さんはどういう意味かと眉根を寄せる。

 どうやらその言葉に見当がついていない彼女に、俺はそれに構わず頭を下げた。


「俺、他人を認めさせるのに夢中になって、本懐を忘れてました」

「――――」


 告白の前に始まった謝罪に、緋奈さんはきゅっと唇を結び、静かに元恋人(仮)の懺悔ざんげに耳を傾けた。


「ずっとアナタに笑って欲しくて、アナタの泣いた顔を見たくなくて、それで他人に認められれば誰にも邪魔されずアナタと一緒にいられるって、ずっと勘違いしてました」


 呪いを希望へと変えるはずの行動が、いつからか呪いへと変わってしまった。


 幸せにするという誓いが己を苦しめる呪縛じゅばくへと変わり、幸せにすることに固執こしつして周りが見えなくなってしまった。


「ずっと。緋奈さんは俺を認めてくれてた。友達も家族も、皆、俺を認めてくれてたのに、それなのに俺は、他の周りの目ばっか気にしてそれに気付かなかった」

「やっと気づいたんだ?」


 遅いよ。そう言いたげな声音に、俺は返す言葉もなくただ真摯しんしに受け止める。


「緋奈さんに一度フられて、その後になってようやく気付かされたんです……いや、違うな。教えてくれた人がいたんです」


 顔を上げた。見れば、正面。緋奈さんの背後に、こちらを心配そうに見つめている姉ちゃんの姿があって。


 そんな姉ちゃんが、俺の世界でたった一人の大切な姉が、教えてくれた。


「俺が誰よりも、何よりも向かい合わなきゃいけなかったのは、緋奈さんだったんですよね」

「――うん。そうだよ」

「アナタはずっと俺を見てくれてて、アナタも俺と同じ未来を望んでくれてて、一緒に幸せになりたいって願っててくれてたのに、俺はそれにずっと気付かなかった」

「うん。そうだよ。私は、ずっとキミと一緒にいる未来を望んでた」

「努力する俺を、いつも見守っててくれたんですよね」

「うん。頑張るキミを、私の為に懸命に努力してるキミを、私はずっと見続けてた」

「それに気付かなかったとか、緋奈さんが怒るのも無理ないですね。呆れられて、見放されて当然でした」

「後悔しても遅いよ?」

「重々承知してます。こんなに可愛くて美人な人に認められてたのに、それよりも周囲の評価を気にするとか、とんだ凡愚ぼんぐですね」


 きっと緋奈さんは、俺が想像している以上に俺を見続けて、そして想ってくれていたのだろう。


 それを、今となってやっと気付くとは。


「はは。やっぱ俺は、大馬鹿野郎だな」

「集中しすぎて回りが見えなくなっちゃう癖は直さないとダメだね」

「ですね。以後、気を付けます」


 自嘲する俺に緋奈さんは微笑を浮かべながら叱責しっせきした。とがめているはずなのにその声音は穏やかで、怒りよりも憂慮を感じた。やっぱり彼女はずっと俺のことを心配してくれたんだと、冷静さを取り戻した今なら知ることができて。


「改めて。本当にごめんなさい。ずっと、緋奈さんの気持ちをないがしろにしてて」


 自分のあやまちを素直に受け入れて、そして謝罪する。緋奈さんが許してくれるかどうかは別としても、告白の前にどうしてもこれだけは済ませておきたかった。


 そうしてみそぎも終えれば、いよいよその時が訪れる。


「さっきの謝罪にゆるしはいりません。あれは、俺のけじめみたいなものなので」

「分かった。でも、ちゃんと受け取ったからね」

「それだけで十分です。アナタを蔑ろにした分は、これからきっちり返していくつもりですから」


 大切な人を蔑ろにし続けた自分への戒めとして。意気地なしな自分への区切りとして。


 そして、未来へと一歩を踏み出す自分へ餞別せんべつとして。


 背負った後悔と共に、彼女と向き合う。


「俺、緋奈さんと約二ヵ月。仮ではあったけど恋人でいられて幸せでした」

「大変じゃなかった?」

「大変はといえば大変でしたよ。緋奈さん、すぐに俺を揶揄ってくるし、周りに付き合ってること秘密にしてるのにバレかねない行動取るし」

「恋愛にスリルはつきものでしょ?」

「俺は出来る限り安全な恋がしたかったです」


 くすくすと笑う緋奈さんに俺は辟易へきえきとした風に肩をすくめる。それから、俺はこの二ヵ月、彼女と仮の恋人となった日々を思い返していく。


 それまでは姉ちゃんを挟んだだけの顔見知り程度だった自分たちが、見舞いの日をきっかけに不思議な縁ができた。互いの距離が縮まったきっかけは姉ちゃんが緋奈さんとの約束を忘れて家族で出かけてしまった日。あの日、緋奈さんが振舞ってくれた料理に俺は胃袋を鷲掴わしづかまれ、そして緋奈さんは俺に興味を抱いてくれた。


「緋奈さんに告白されたのは初めて一緒に出掛けた時でしたね」

「そうだね。結局保留にされたけど」

「うっ。意気地なしですんません」

「気にしてないよ。仮の恋人としての生活も、あれはあれで満喫まんきつできたから」


 仮の恋人生活が始まってから、緋奈さんは急に俺との距離を縮めてきた。事あるごとに俺を揶揄って、甘えさせて、誘惑してきて。


「キスマークつけられた時は心臓止まりかけましたよ」

「キスマーク如きで狼狽うろたえるなんて、しゅうくんはまだまだお子様だね」

「悪かったですね初心で」

「ふふ。そういう所も可愛いんだけどね」


 一つだけ歳が上なだけなのに、緋奈さんは俺をてのひらで弄ぶ。それにまんまと転がされてる俺も俺だが、不思議とこの人には抗えなかった。むしろ、それが心地よくさえあった。


「ほんと、緋奈さんと一緒にいた時間は全部が楽しくて、幸せだったな」

「私もだよ。キミといる時間は、私を普通の女の子にしてくれた。当たり前の幸せを私に教えて、そして与えてくれた」


 互いの想いを織り合わせるように、言葉を重ねる。


「これまで、俺はずっと緋奈さんのことを遠い雲の上の存在だと思ってました。でも、一緒に過ごしてみたら全然そんなことはなくて。勿論女神のような美貌はそのままですし、可愛さも天使級ですけど、デートする時に魅せてくれる無邪気な笑顔とか、嫌なことが合った時に悲しくなった顔とか、納得のいかないことで拗ねた顔とか……遠くからアナタを眺めていた時には見れなかった表情を間近で見て、緋奈さんも普通の女の子なんだなって気づかされたんです」

「私は『お姫様』じゃないよ。どこにでもいる、普通の女の子だよ」

「知ってます」


 よく、知ってる。

 一度はそれを見失ってしまったけど、思い返せばその言葉にすぐに肯定できて。


「緋奈さんも、俺や他の人たちと何も変わらない。――弱い一人の人間なんですよね」

「――うん。そう。私は弱い。弱くてすぐ泣いて、年下の男の子に縋る情けない女なの」


 俺はそれをよく知っている。――いや違う。俺だけが、それを知っている。


 彼女はとても弱くて、もろくて、とても危うくて、それ故に傷ついて欲しくないと、その顔を悲しませたくないと思った。


 その想いは、気持ちは、覚悟は今も何一つ変わっていない。


 緋奈藍李を悲しませたくないという気持ちも。


 惚れた女にはずっと笑顔でいて欲しいという願いも。


 大好きな人を幸せにしたいという想いも。


 ――目の前のアナタを好きだという、この恋慕も。


「俺は『お姫様』じゃない。アナタが好きです」

「――――」


 きっと、彼女の恋人になるということは、苦労が絶えない日々なのだろう。


 だって、そうだ。彼女はこんなにも美しくて、綺麗なんだ。一度街を歩けば老若男女問わず振り向かせ、数多の男を一目見ただけでとりこにさせる。彼女は『お姫様』ではないけれど、周囲は彼女のことをそうだと思い込む。それはこれからも変わらないだろう。彼女が『緋奈藍李』で在り続ける限り。


 彼女は皆の憧れで、常に周囲の羨望を浴び続ける人――そんな人に、俺は惚れた。


「一回フられても、それでもこうやって諦め悪く想いを伝えようとするくらい、アナタに惚れています」

「――――」


 きっと、俺より素敵な男性なんて、星の数ほどいる。俺を早々に捨ててそんな男性と出会う未来に希望を持つ方が彼女にとっては幸せなことなのかもしれない。


 それでも、俺は諦めたくない。


「一目見た時から、俺は他の男よりもアナタに夢中でした。学校で見かけたら思わずアナタを目で追ってしまうくらい、少し話せたことを友達につい自慢してしまうくらい、それだけ毎日アナタのことで頭がいっぱいでした」

「――――」


 俺がアナタから告白されて、家でどれだけ浮かれていたのか知ってますか。飛び跳ね過ぎて姉ちゃんに怒られたくらい浮かれてたんですよ。


「アナタと過ごした一分一秒が、俺にとっては大切で幸せな日々でした」

「――――」


 アナタに触れる度に、愛情を確かめ会うたびに、誰にもられたくないというみにくい欲望がふくれていった。それ故に暴走してしまった。


 けど、それも間違いではないと、大切な家族から教えられて。


「こんな大馬鹿野郎を好きになってくれて、ありがとう。緋奈さん」

「――――」


 俺と一緒にいる未来を、今はもう望んでいないかもしれないけれど。


 それでもそう思ってくれていた時間が確かに彼女の中であったことが、俺は堪らなく嬉しかった。


 そして、もし、まだそんな未来をアナタも望んでくれているのなら――


「緋奈藍李さん。俺は一目見た時からアナタのことがずっとす――」


 はやる心臓に急かされるように、長年秘めた恋慕を告げようとした刹那せつな。その開いた口が途中で止まった。


 一世一代の大告白。一縷いちるの望みをかけた告白が中断を余儀なくされたのは――眼前、黒瞳こうどうに映す女性に思わず見惚れてしまったからだ。


「――――」


 それまで、顔色一つ変えずに俺の告白を受け止め続けた女性は、この恋の行方がもう間もなく終わることを察して笑みを浮かべた。


 その笑みはまるで、俺の胸襟きょうきんを全て受け止め、それからこの恋の行方、その結末を分かっているような――そんな、小悪魔な笑みを浮かべていて。


 それを見た瞬間。俺は思わず「フッ」と笑ってしまった。


 ――なんだよ。最初から、そのつもりだったのかよ。


 ようやく、点と点が繋がった気がした。それが一本の線になれば、それまで騒がしかった心臓が途端に正常に脈を打ち始めて、強張っていた頬も弛緩しかんした。


 そうして、自然といつも通りの表情を浮かべれば、緋奈さんもどうやら俺が気付いたことに気付いたようで。


『――本当に、遅いよ』

『あはは。ごめんなさい』


 そんな言葉を交わすように、お互いに微笑を浮かべた。


 どうやら最初から、この告白の結末は決まっていたらしい。


 それでも、この想いを言葉にしたい。言葉にして、アナタに伝えたい。


 俺がアナタへ向ける。この恋慕の全てを。


「――俺は、この世界で誰よりもアナタのことが好きです。まだまだ未熟で、半端者で、アナタとは不釣り合いな男かもしれませんけど、でもアナタを幸せにしたいって気持ちは誰よりも強いです」

「うん。知ってるよ」


 緋奈さんの声音が胸にあふれる想いを抑えきれずに震える。早くその先を言ってと、見つめてくる紺碧の双眸がそう急かしてくる。


 そんな彼女の想いを余すことなく受け止めて、俺はこの胸に溢れる想いを声に乗せながら告げた。


「緋奈藍李さん。――俺の恋人カノジョになってください」


 幸せにしたい人の、共に幸せになりたい人に向かって手を伸ばした。


 その手を彼女が握ってくれれば、この恋慕は成就じょうじゅする。


 緊張の瞬間。誰もが息を飲む。


 緋奈さんは沈黙したまま俺へと歩み寄ると、差し出す手に向かってゆっくりと左手を伸ばした。


 緊張で震える手。その手を緋奈さんは、強く握って――握らない。


 空振る手はそのまま虚空へ伸びて、伸び切ってそして――強く俺を抱きしめた。


「はい! 私を、雅日柊真くんの恋人カノジョにしてください」

「――っ! それじゃあ!」

「うん! やっと、正式な恋人になれたね、私たち!」


 両足で地面を蹴って飛んだ緋奈さんが、俺を力いっぱい抱きしめながら銀鈴の声音を弾ませた。


 ようやく聞けた、俺が大好きな彼女の明るい声音に胸が歓喜で打ち震える。そして、そんな想いを伝えるかのように俺は緋奈さんと同じくらい、華奢きゃしゃな身体を強く抱きしめ返した。


「本当に、俺でいいんですね?」

「うん。私が世界で一番大好きなのはしゅうくんだよ。キミ以外の恋人はありえない。私を幸せにしてくれるのは、しゅうくんじゃなきゃ嫌」

「あはは。なら、ちゃんと緋奈さんのこと幸せにしなきゃなぁ」

「大好きだよ、しゅうくん」

「はい。俺も、緋奈さんのことが大好きです」


 校庭の真ん中で、熱い抱擁ほうようを交わす二人の男女。それがもたらす意味は、この恋の行く末で。


 直後、校舎にどよめきが走る。男子は衝撃の瞬間に嘆き、女子は決定的瞬間に黄色い歓声を上げた。


 その間をうように、互いの親友たちがこちらに向かってくる。


「うおおおおお! おめでとー! 藍李ー! 弟くーん!」

「やっと弟くんとガチカップルになれたね!」

「うん! ありがとう。二人とも」


 興奮状態の心寧さんと鈴蘭さんが転びかけながらやってきて、抱き合う俺たちを盛大に祝ってくれた。


 やや遅れて俺の親友もこの場に到着し。


「おめでとう柊真。ようやく、念願叶ったね」

「正直二人の会話の内容は全然聞こえなかったけど、でも最後は超カッコよかったよ!」

「あぁ。二人とも、俺の背中押してくれてありがとう」


 俺の素直な反応が珍しいのか柚葉と神楽は照れて頬を掻く。微苦笑を浮かべる二人に俺も同じ笑みを浮かべていると、ようやく俺と緋奈さんにとって大事な存在――雅日真雪ねえちゃんが目の前にやって来た。


「おめでとう。二人とも」

「ありがとう。真雪」

「ん。色々助かった。ありがと、姉ちゃん」


 その目尻に涙を湛える姉に、俺と緋奈さんは心からの感謝を伝える。


「――うっ! うぅ!」

「泣くのは我慢しろよ」

「無理だよぉぉぉ! だって、ひぐっ! 二人がお互いを本気で想い合ってたの知ってる身としては、無事に結ばれてくれたのが何より嬉しいんだもーん!」


 感極まったのか、涙を堪え切れず泣き始めてしまう姉ちゃん。それに釣られるように心寧さんと鈴蘭さんも泣きだしてしまった。ちらっと見れば、柚葉も目尻に浮かび上がった涙を指ですくい取っていて。


『――あぁ、俺、こんなにも周りに恵まれてたんだ』


 自分たちの幸せを、まるで自分の幸せのように喜んでくれる人たち。俺と緋奈さんの為に嬉し涙を流してくれる人たちを見た瞬間、この胸が感謝で満たされた。


 皆への感謝を噛みしめながら、俺は抱き合う緋奈さんに言った。


「皆の祝福に応えられるよう、精一杯幸せにならないとですね」

「ふふ。そうだね。一緒に、幸せになろう」


 これがきっと、皆が思い描いていた最高の結末。

 理想ともいえる告白は、見事に成功に終わって。


「これからよろしくおねがいします。緋奈さん」

「うん。こちらこそよろしくね。しゅうくん」


 ――こうして遂に、俺と緋奈さんは正式な恋人となることができたのだった。





【あとがき】

昨日は2名の読者さまに☆レビューを付けて頂けました。


そしてそして、77話かけてようやく柊真と藍李が本物の恋人となることができました。仮の恋人から始まった恋が長い時間をかけてついに実を結びましたね。


柊真にとっては苦難と試練の連続だった第2章ですが、それも全てこの1話に至るためのものでした。ただ一つ、柊真と藍李のこれから紡がれる明るい未来の話の為に。でも作者からも一言、ごめんね柊真。無理させて。頑張ったキミにはこれから藍李とのハッピーイチャイチャライフが待ってるぞ。


そして第2章をここまで見限らずに見届けてくれた皆様。本当にありがとうございました。この1話が皆様の心にどう映ったかは分からないけど、それでもまずはここまでついてきてくれたことをお礼させてください。


たぶん、感情ぐちゃぐちゃにさせちゃいましたよね。それはコメント観てるのでよく分かります。ごめんね。


長いあとがきになってしまいましたが最後にもう少し。本日残りの2話+蛇足で第2章は無事完結となります。そして続く第3章は読者さまお待ちかねのボーナスタイム。つまり甘々で濃密で特濃なイチャラブ回のてんこ盛りです。電車や職場で読む男性の方は一人息子が元気にならないよう注意して読んでくださいね。


それでは皆様、次の更新をお楽しみに!


Ps:本話。執筆と改稿合わせて地獄の4時間越え編集。

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