第72話 女の勘
「……しゅう。今日来ないね」
「だね」
しゅうから間接的に『緋奈先輩と破局』した事実を聞いた翌日の休み時間。私は教室の端の机を見つめながら声を落とした。
いつもならそこには、鬱屈とした日々を憂いている男子が座っている。けれど、今日はそこに彼の姿はない。
「神楽、連絡したんだよね?」
「一応。でも既読もついてない」
「じゃあ、スマホにも触ってないってことか」
まさか緋奈先輩との破局でしゅうがそこまで憔悴するとは思わなかった――いや、最近の彼を思えば、そこまで
しゅうは、緋奈先輩の為に頑張っていた。
しゅうは緋奈先輩の本物のカレシになるために、無気力の塊みたいだった自分を変えて努力していた。
林間学校で私に言ってくれたように、しゅうは、ずっと
それなのに、こんな結末。
「――私も、納得できないな」
今のしゅうの心情を想像すれば、彼女の身勝手さに怒りすら覚えた。
あの人は結局、しゅうのことを遊び相手と思っていたのだろうか。
都合のいい男で、程よく虫除けになって、それなりに揶揄い甲斐があるいい玩具として、しゅうを
それならば、しゅうの彼女を心から慕っていた純真は、一体どこへぶつければいいのだろうか。
きっと、どこにもぶつけられる矛先なんてない。だから今、しゅうはあんなにも落ち込んでいるんだろう。
彼女へ抱いていた、向けていた純真。それが弄ばれたのだと分かれば、当事者ではない私でさえ胸が苦しくなった。
「放課後、お見舞いにでも行こうか」
「……ううん。今は、そっとしてあげようよ」
「柚葉がそう言うなら、僕はそれで構わないよ」
私もつい最近失恋したから分かる。この心の痛みはそう簡単に和らぐものではない。私は誠実に応えてくれたしゅうとその後励ましてくれた神楽がいてくれたから立ち直るのに時間は掛からなかったけど、きっとしゅうは違う。
その人を本気で好きになればなるほど、失恋の痛みは長引くし、重く苦しくなるのだ。
私はそれを、身を通じてよく知っている。
だからこそ、今のしゅうには時間が必要だと判断した。
「――うん。もうちょっと、様子を見よう」
私の中の何かが、
それに根拠もなければ証拠だってない。それでも、直感が囁いて止まない。
それでもし、本当にしゅうと緋奈先輩が別れたのだとしたら、今度こそ私がしゅうを奪う。
そう簡単に好きになった人を手放せるほど、女というのは綺麗にできていないのだから。
【あとがき】
昨日は11名の読者さまに☆レビューを付けていただきました……っておい! なんで甘々の展開より重苦しい展開の方が☆レビューもらえるんですか⁉
……そんな軽いノリは早々に引っ込めて、本話が前話までと比べて短いのは少し理由があります。その理由を次話でお話するつもりです。
次話は明日(1/10)でもいいかなと思ってるんだけど、やっぱり最新話を追ってる人はこの先が気になってしょうがないよね? 第73話、今日更新してくれっ! って思ってくれたら頑張ります。
Ps:第73話、感動不可避です。まだ改稿してないけど。
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