第41・5話  追いつきたい人

「だっはー! ちょっと休憩ー!」


 ある日の放課後。

 机に倒れ込むように項垂うなだれた柚葉に、僕はくすくすと笑う。


「あと10問解いたら今日はお終いにしようか」

「うん。あと、ごめんね。神楽だって忙しいのにこんなのに付き合わせちゃって」


 こんなの、とは勉強会だ。僕は最近、柚葉の勉強に付き合っている。


「僕も復習になるし気にしないで」

「そう言ってもらえると気が楽になります!」

「でも報酬のジュースは忘れないでね?」

「それはもちろん!」


 互いに貸し借りなしが一番気負わなくて済む。という訳で僕は柚葉の勉強を見る日は報酬としてジュースをおごってもらってる。


「それにしても意外だね。まさか柚葉が僕に勉強を教えて欲しいなんて頼み込んでくるだなんて」

「えへへ。まぁ、ちょっとね」


 本人はそんな風にはぐらかすけど、僕はもう分かっている。というより、柚葉と柊真は本当に判りやすい性格をしている。


「柊真が頑張ってるから自分も離されないよう必死なんでしょ」

「……うっ」


 悪戯いたずらな笑みを浮かべながら指摘すれば、柚葉は露骨に顔を赤くした。


「分かってて言うのはデリカシーないんじゃない?」

「ごめんごめん。一途だなと思って」

「むぅ! バカにしているな!」

「してないよ。応援してるだけ」


 本当かね! と柚葉は腕を組んでぷりぷりと頬を膨らませた。


「そうじゃなきゃ勉強なんて付き合わないよ。これが柚葉の頼みじゃなかったら猶更ね」

「うぅ。面目ない」

「だから気にしないでよ。僕はいつだって柚葉の味方だから」

「神楽様ぁ~~っ!」


 努力する柊真に必死に置いて行かれないよう藻掻もがく柚葉の姿は尊敬の念を抱くほどだ。この子には報われて欲しいと、心底そう思わさられる。


 けれど、柊真も柚葉に負けないくらいあの人に一途というのが実に皮肉の効いた話だと、僕は歯噛みせずにはいられなくて。


「絶対にしゅうに追い付いてみせるんだから、次の期末テスト見てなさいよね」

「気合十分だね」

「もちろん! アイツの度肝抜いてやるんだから!」

「その気概のまま柊真を押し倒しちゃえばいいのに」

「そんなの恥ずかしくてできるかあ!」


 柚葉も柚葉で、中々に遠回りして好意を伝えるんだもんなぁ。こういう努力こそ僕にじゃなくて柊真にみせるべきだと思うのに。

 思いっ切り顔面を狙ってくる腕を華麗かれいに避けながら、僕はぱんぱんと手を叩く。


「ほら、そろそろ休憩終わりにして勉強再開しよ」

「う、うん! ラスト10問ぱぱっと解いてやるんだから!」

「焦らず一つずつ解いていこうね」

「はいっ。先生!」


 頭を抱える柚葉に、僕は苦笑を浮かべながら見守る。


 本当に、皮肉の効いた話だ。


 柊真の恋を応援したい。けれど、柚葉の恋も応援したい。


 あの人を道化師と心の中で罵倒ばとうておきながら、僕もそれと同じ真似をしているのだから。


 それを自分自身で理解しているからこそ、机の下で強く拳を握った。


『ごめんね。柚葉』


 これくらいしかキミにできない僕で、ごめん。





【あとがき】

昨日は4名の読者様に★レビューを付けていただきました。

そして、本作のフォロワーも1100を超えました。

今後は★500以上、フォロワー2000を超えられるよう、本作の魅力を読者さまにお届けできるよう尽力していきます。

そして、次話から本作の雰囲気が一変する予感?

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