第21・5話 母と娘の会話
「それにしてもしゅうがこんな朝早くから出掛けるなんて珍しいなー」
しゅうが玄関の扉を開けてしばらく経った頃、お母さんが用意してくれた朝食を食べながら私はふと脳裏に湧いた疑問を声にもらした。
「お母さん、何か知ってる?」
「んー。詳しくは聞いてないわ」
対面席に座るお母さんに
「ところで、まゆ。さっきしゅうが言っていた
「そだよー」
と肯定すれば、お母さんは何やら真剣な顔で「そう。彼女なのね」と呟いていた。
それが妙に気掛かりで、
「藍李がどうかしたの?」
「なんでもないわ。少し気になってね。ほら、あの子とても綺麗な子でしょ?」
「ねー! すっごい美人だよね!」
上手く話題を逸らされたことになんて気付かない私は、お母さんの問いかけにこくと頷くとそのまま会話を続けた。
「しかも美人なだけじゃなくて超可愛いの」
「あら。アナタも藍李ちゃんに負けないくらい可愛いわよ?」
「えへへ。そうかな?」
「えぇ。私の遺伝子を継いでるんですもの。綺麗で当然だわ」
「それは余計だよお母さん」
たしかにウチのお母さん、40代には見えないくらい肌綺麗だしシミも少ないけど。
たしか10代のころはモデルの仕事したことがあるんだっけ? 飽きたから辞めたらしいけど。
とにもかくにも私が綺麗な肌は母のおかげということに感謝しつつ、
「でも藍李にはやっぱり負けるなー。肌スベスベでもちもちなんだよ! 髪もサラサラでね~。あとなんといっても胸がデカイ!」
「羨ましい限りね」
「母さんも20代の頃なら藍李と何ら遜色ないと思うけどねー。でも藍李と同年代だと悔しい! って思うよ」
あれは天から与えられた
「……そんな子としゅうがねぇ」
「どうしたのお母さん?」
「何でもないわ。彼女と付き合う男性は苦労しそうだなって思っただけよ」
「それねー。藍李って毎日のように告白されるんだけど、お前らが釣り合う訳ないだろ! って傍から見ても思うんだよー」
「……ウチの子で本当にいいのかしら。いやまだ彼女と決まったわけではないけれど」
「お母さん? さっきからどうしたの? なんか変だよ?」
何か底知れぬ闇にでも触れているかのように顔を蒼白にさせるお母さん。
眉尻を下げる私に、お母さんは「何でもないわ」と何かを誤魔化すようにハーブティーを飲み込んだ。
今日は変なことが多いなー、なんて思いながらホットケーキを頬張る私の脳裏に、ふとこんな疑問が過った。
「そういえばしゅう、藍李のこと緋奈さんって呼んでたな」
いつもなら藍李のことを『先輩』呼びしているのに、今日は珍しく〝さん〟付けだったな。
「ま。そんなの気にする意味ないか!」
ほんのわずかな疑念。しかしすぐに『私が約束すっぽかした日に藍李がしゅうと少し話した』と語っていたことを思い出した私は、その時に仲良くなったのだろうと雑に結論づける。
今日のお出掛け相手ももしかしたら藍李かと思ったが、ウチの弟と藍李が釣り合うはずもなければ出掛けるような仲でもなかったことを思い出して、それまで抱いていた
胸にあったもやもやが取り払われれば、自ずとやってくるのは食力で。
「ん~! 今日もお母さんの作るホットケーキは美味しいなぁ」
「はいはい。ゆっくり噛んで、味わって食べてね」
「うん!」
実は私の懸念が当たっているということは、目下黄金のシロップが掛けられたパンケーキがなんとも巧妙に隠したのだった。
【あとがき】
ランキング伸ばしたいから今週はずっと2話行進かも~。往生際の際際で足掻いてます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます