第1章―2 【(仮)恋人生活スタート 】
第20話 しゅうくん
緋奈さんと付き合う(仮)にあたり、
1・正式に付き合うまで、お互い友達や知り合いにこの関係を口外しないこと。
2・学校ではお互い今まで通りに接し、呼び名も『先輩』か苗字にすること。
3・二人きりの時以外は無暗なボディタッチや接近を避けること。
4・二人きりの時は上記のルールの一切をなくし、恋人らしい行為をしていいこと。
5・ただし、正式に付き合うまではキスや性行為を断固禁ずる。
が、以上のルールである。
二人で決めたルールではあるが、しかし緋奈さんは最後の項目、つまりルール5に関してはかなり不満を露にしていた。「仮とはいえ付き合ってるんだからキスくらいしていいじゃない」というのが彼女の見解だったが、付き合っているとはいえ正式ではないのにそんなことをしてしまえばこの関係が
まぁ、そこは俺が気を付けていれば大丈夫だろう。結局緋奈さんの告白を受け入れてしまった軟派者に果たしてそれができるかはさて置きとして。
とにもかくにも、こうして本格的に緋奈さんと俺の(仮)付きの交際が始まった。
「文句ないですよね、このルールに」
「うん。異論ないよ。真雪に言えないのはちょっと不誠実な気もするけどね」
今日は平日。つまり俺たち学生は普通に学校がある。にも関わらずこんな二人きりみたいな会話をしているのは、ここが空き教室で、現在は緋奈さんと二人きりだからである。そして今はお昼休みだ。
「姉ちゃんに言えるはずないでしょ。緋奈さんと仮でお付き合いしてるんなんて。俺が殺されます」
「それは私が発端でもあるからちゃんと説明するわよ? 私が言えば真雪も納得するだろうし」
「だとしても姉ちゃんは俺を責めますよ。男のくせに責任から逃げるような真似してどうするんだ⁉ って」
「ふふ。似てる」
俺の姉ちゃんの真似に緋奈さんはくすくすと笑う。
「でも分かりました。雅日くんがお姉さんにお説教されるのは可愛そうなので、今はまだ秘密にしておきます」
「納得してくれて助かります」
「でも正式にお付き合いすることになったら私から説明させてね?」
「俺からした方がいいんでしょうけど、分かりました。緋奈さんに任せます」
「ありがとう」
緋奈さんはほっと胸を撫でおろした。……本当に姉ちゃんのこと大切に想ってくれてるんだな。
弟として
「そういえば、ルールに書いてないけど、学校でこうして二人きりでいる時は何してもいいのよね?」
「怖いのでルール追加していいですか?」
と神妙な顔でお願いすれば、緋奈さんに「だーめ」と可愛く却下された。
「何する気ですか⁉」
「べつに何もしないわよ。ただ、学生同士が付き合ってるのに学校でイチャイチャできないのはちょっと惜しいと思っただけ」
「まさか緋奈さんの口からイチャイチャという単語が出てくるとは」
「意外?」
「意外です」
こくりと頷けば、緋奈さんは可笑しそうに「大袈裟ね」と淑やかに笑った。
「私だってそういうのに憧れてたのよ。特に他の女子の話を聞くとね。あー、羨ましいなーって」
「緋奈さんにもあるんですねそういった気持ち。恋愛関係なのが意外だったけど」
「皆が思っているより私って等身大の女の子よ?」
こうして会話していると確かにそう思えてくる。容姿や立ち振る舞いが常人と住む世界を
「でも俺にとって緋奈さんはいつでも憧れの先輩です」
「ふふっ。そう思ってくれるのも嬉しいけど、やっぱり女の子だから男の子に甘えたくもなるな」
「しょ、精進します」
「真面目ね」
ぎこちなく頭を下げれば、そんな俺を見て緋奈さんはくすくすと笑った。
「でも私の方が年上だから、甘えてほしい欲の方が強いかも」
「それは……そっちの方がハードル高いかもしれないです」
緋奈さんに甘える想像がうまくできない。例えば、なんだ? 膝枕とかか? そんなの恐れ多くてできるかっ。
と脳内一人ツッコミしていると、緋奈さんが悪戯顔で俺を見つめていることに気付いた。
あ、何か企んでる顔だ、と直感した瞬間だった。
「ならさっそく甘えてみる?」
「―――っ!」
とんとん、と自分の太ももを叩いて甘い誘惑を放つ緋奈さん。まさか妄想が体現化するとは思いもせず、俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
スカートとニーソに隠れた
「今は食事中なので、遠慮しておきます」
「あら、残念」
どうにかギリギリで理性をカムバックさせることに成功し、魅惑の太ももから強制的に視線を切り離した。
後悔と欲望を飲み込むように白米を掻き込めば、とても残念そうには思えない笑い声が聞こえてくる。あぁ。また揶揄われた。
「それじゃあ、膝枕は今度お家に来てくれた時にしてあげる。今週末、私のお家に来てね」
「そこはいつになるか未確定にすべきでは?」
「遅かれ早かれ膝枕することは決まってるんだから、それなら一日でも早く堪能してほしいじゃない」
「だからって……というかそれって俺が今週緋奈さんの家に行く事が確定してるじゃないですか」
「お家デートしましょ!」
私お家デートに憧れたの! と目を輝かせる緋奈さん。そんな顔されてお願いなんかされたら、断る方が無理だ。
「分かりましたよ。今週末、緋奈さんの自宅にお邪魔させていただきます」
「雅日くんって私のお願い絶対断らないわよね」
「断ってもまた別のプラン出してくるんでしょ?」
「ふふ。言ったでしょ。もっと私を知ってほしいって」
「緋奈さんて大人しそうに見えて実はすげぇ強かな人ですよね」
そうなの、と緋奈さんは楽しそうに肯定した。
「雅日くんは強気な女性は嫌い?」
「……嫌い、でもないです」
相手が緋奈さんじゃなければ苦手かもしれないが、緋奈さんに強気に攻められるのは存外悪いものじゃなかった。俺ってもしかしてMなのかな?
嫌な想像に軽く背筋を震わせていると、緋奈さんはまた嬉しそうに口許を緩めていて。
「はぁぁ。やっぱり雅日くんといると楽しいなぁ」
「っ。……姉ちゃんと同じ波動を感じてるんじゃないですか?」
「それもあるかもしれないけど、でもキミといるとずっと心地いいの」
「俺、そんなこと友達はおろか家族にも言われた
「じゃあやっぱり相性がいいってことだ。私たち」
そういうの照れもなく直視しながら言わないでほしい。心臓がうるさくて仕方がない。
「……もうちょっと言葉オブラートに包んでください」
「嫌よ。キミを私のものにしなくちゃいけないんだから、遠慮なんてしないわ」
「心臓が持たなくなるのでお願いします!」
そう全力で懇願するも、緋奈さんは許してくれなくて。
「だーめ。雅日くんにはもっと私でドキドキしてほしいから、たくさん攻めないと」
もう十分過ぎるほどアナタでドキドキしてますよ。
その言葉でさらに跳ね上がる心臓が、騒がしさを超えて痛いほど鳴り響いていた。
硬直せずにはいられない俺に、不意に伸びてくる腕が見えた。
それが俺の口許にピタッと止まると、緋奈さんはくすっと微笑みながら、
「――ご飯粒、ついてるよ」
「――――」
取ってあげる、と伸びた指先はそのまま俺の口許についたご飯粒を取って、そして、そのまま自分の口に運び、
「ぱくっ」
「~~~~っ⁉」
「ふふっ」
何の抵抗すらみせずにそれを食べてみせた緋奈さんに、俺は声にもならない悲鳴を上げた。
金魚のように口をぱくぱくと
「もっとたくさん、私でドキドキしてね。――しゅうくん」
窓から吹かれる風が黒髪を
『あ、俺この人に沼るかも』
それは同時に、俺がこの人には絶対敵わないと悟った瞬間だった。
【あとがき】1/14改稿
あっま、といった方は是非☆レビューを付けて頂けると作者の叡智パワーが上昇します。
なにこれ神作の予感、と興奮を隠し切れない萌えブタ野郎どもはご感想をくださると執筆バカのやる気が上昇します。ただし過労死させないくらいにお願いします。
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