第19話 カレシ(仮)として
――間もなく本日が終わろうとする、その深夜。
『今日はデートしてくれてありがと!』
「……やっぱ今日のお出掛けはデートのつもりだったのか」
おやすみのアイコンに同じくおやすみのアイコンを返して、俺はベッドに仰向けになった。
「結局、緋奈さんと付き合うことになってしまった」
正確には(仮)だが、それでも付き合うという行為事体に変わりはない。
自分の意思の弱さに呆れたくもなるが、この現実味のなさのせいでそれすらもできなかった。
「付き合うっていうのは……緋奈さんが言ってたことを実際にやるってことでいいんだよな?」
これまでカノジョはおろか恋愛すらしてこなかった俺が、突然校内一の美女と付き合うことになったとか、とんだラブコメ展開である。ラノベの主人公かよ。
誰もが
「男からすればまさに
つまり、俺は呪われる側になったわけだ。そりゃ身震いもしたくなる。
「頷いた手前やっぱすいませんとも言えなくなっちゃったし、やり切るしか、ないよなぁ」
やり切るって何をだよ、と自問自答する。
この(仮)の恋人ライフを? それともカレシ面を? たぶん、全部だ。荷が重い。吐きそうだった。
「俺、ちゃんと務められるかなぁ。緋奈さんのカレシ」
不安しかなかった。あの人に幻滅されることを想像すると、身の毛がよだつ。
嫌われたくない。好きだと言ってくれたんだから、好きでいてほしい。けど、好きでいてもらうには、それ相応の努力が必要不可欠だ。
「とりあえず、筋トレとかしてみるか。勉強もちゃんとやんないと」
あの人は理想そのものみたいなものだ。他人から認められる『理想』の相手をするには、同じにはなれずともそれに近い存在になる必要がある。そうじゃなきゃ天秤はずっと傾いたままだ。これを平等にするには……俺はいったいどれほど努力すればいいのだろうか。
一朝一夕じゃ到底足りない。一ヵ月、いや最低でも数か月は掛かりそうだ。ストレスで痩せないか不安だ。
「まぁ、それを差し引いても緋奈さんの手料理が食えるのは役得だよな」
友達という関係に甘えるなら作ってあげないと脅されてしまえば、頷かずにはいられないだろ。あの人の作るご飯、俺が今まで生きた人生の中で一番美味かったんだから。
ご飯で釣られるとか犬より情けないな、と自分を憐れみながらスマホを弄っていると、今日の疲労がようやく眠気に転換されてきた。
「くあぁぁぁ。そろそろ寝るか。……今日の出来事が夢じゃないことを祈りながら」
スマホの電源を切って、部屋の証明を落とす。空間が真っ暗になると、すぐに瞼が重くなった。
「……緋奈さんを好きって気持ちは、俺も嘘じゃない」
最後にそんなことを呟いたのは、今日の自分が取った選択肢を肯定したかったからかもしれない。
いずれにせよ、微睡の気配は段々と近づいて、今日という日に終わりを告げさせる。
「……好きです、せんぱいぃ」
余談になるが、今日見た夢は緋奈さんが裸エプロンで手料理を振舞ってくれるという夢で、それはそれは刺激的だったということはここだけの話にしてほしい。
【あとがき】
昨日は5名の方に★レビュー頂きました。
もっとたくさんの方に応援して頂けるよう、1話1話丁寧に描いていきますので、今後もお頼みください。……エチチな話は待っててね。あるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます