第16話 デートの邪魔禁止っ!
昼食も済ませ、その後はぶらぶらと周辺施設を散策していた途中で一度手洗いに向かい、急ぎ足で帰ってきた俺に待ち構えていたのは、
「あ、お帰り雅日くん」
「おやおやぁ。その子は一体誰かなぁ?」
本日二度目となる、全く見知らぬお姉さんたちとの
ただし一度目とは異なるのは、そのお姉さんたちと緋奈さんが交遊的だったということだ。
「あの、どちら様……ぐぇぇ」
「ふむふむ。中々悪くない顔だ。全然可愛くないけど端正じゃないか。俗にいう塩顔イケメンというやつだね」
「ちょっと! 雅日くんに抱きつかない!」
徐に腕に抱きついてきた人との距離感がバグってる女性に、緋奈はさんぷりぷりと怒りながら引き剥がした。
それから緋奈さんは「ごめんね」と俺に謝り、
「紹介するね。この子たちは私の友達で……」
「
「
「……よ、よろしくお願いします」
名前といいオーラといい、明らかに陽キャ側な人たちというのが第一印象だった。
「それでぇ、この子はもしや
「違うわよ。この子は雅日柊真くん」
「おや? 雅日ってことは?」
「うん。そうだよ。雅日くんは真雪の弟くんなの」
「まゆっちの弟⁉」
驚く二人に、俺はビクッと肩を震わせながら、
「は、はい! 真雪の弟の柊真、です。お二人は姉ちゃんの友達、ですかね?」
「うん。藍李の友達ってことは、必然とまゆっちの友達にもなるよね!」
「まゆっちとは全然印象の違う子だねぇ。なんというか、すごく礼儀正しい」
「そうなのよ。真雪とは大違いよね」
全然違う、と二人声を揃えて肯定する。たしかに俺と姉ちゃんは性格も趣味も真逆に等しいけれど。
「でも言われてみれば、たしかにどことなく顔は似てるかも?」
「雰囲気もちょっと似てる?」
「どう、ですかね。活発な姉ちゃんと違って、俺は内向的ですから」
「そんな弟くんを振り回すなんて、藍李も罪な女ですなぁ」
「あはは。雅日くんとお出掛けしてみたいなって思って」
「男の誘いなんて今の一度も受けなかったアンタがまさか自分から誘うなんてねぇ」
初耳だ。
驚く俺に、鈴蘭さんが振り向いて、
「よかったね弟くん。藍李に気に入られて」
「ワンチャンあるかもよぉ?」
「もうっ。雅日くんに変なこと吹き込まないの! 気に入ってるのは本当だけど」
「「本当なの⁉」」
まさかの肯定に驚く二人。俺も驚愕に目を剥く。
「うん。本当だよ。じゃなきゃお出掛けになんか誘わないもの」
「本当に意外だぁ。……キミ、藍李に何かした?」
「何もしてないですよ!」
催眠でもしたか? と疑いの眼差しを向けられて、即座に否定する。つか、催眠が成功するなんてフィクションの世界だろ。
そうしてハイテンションなギャルお姉さんたちの圧に呑まれていると、心寧さんがニマニマと口を歪ませながら俺に忠告してきた。
「なんせよ弟くん。この偶然を逃しちゃいけないよ~。今まで数多の男子が藍李様の気を引こうと
「今もだけどなっ」
「下心しかない人たちなんか興味ないわよ」
「と本人は申しておりますが」
「雅日くんはそんな人と違うわ。私を〝私〟として見てくれるいい子よ」
「マジで何をしたんだ弟くん」
気になる、と二人に好奇の眼差しを向けられる。俺としては本当に何もしてないのだが。ただ、強いていえば、緋奈さんが風邪を引いた時にお見舞いしたくらいだ。けどそれで好感度が爆上がりするほどチョロい人ではないはず。
あとは、そうだな。姉ちゃんの弟だから、くらいか。
なんにせよ、二人が期待しているような関係ではないのだ。俺と緋奈さんは。
「あまり雅日くんを困らせないでよね。それと、今日のことも誰にも口外しないこと。もし誰かに話したら……分かってるわよね?」
「消される⁉」
「そんな酷いことしません。社会的に殺すくらいよ」
「ほぼ同じだよぉ⁉」
絶対に言いふらしません、と涙目で誓う二人に緋奈さんは「よろしい」と嘆息を吐いた。
「それじゃあ、私たちはこれで失礼するわね」
「私たちもまゆっちの弟くん気になるのでご同行しても……」
「何か言ったかしら?」
「「いえ⁉ 何も言っておりません!」」
緋奈さんの放つ威圧感に気圧され、怪しげな笑みを瞬く間に引っ込めて敬礼する二人。露骨に委縮する二人に苦笑していると――
「さっ、行きましょ。雅日くん!」
「あ、緋奈さん⁉」
唐突に緋奈さんが俺の腕に抱きついてきた。
「じゃあね二人とも。くれぐれも、私と雅日くんの楽しい
念押しするように言って、緋奈さんは俺の腕に抱きついたまま歩き始めた。歩き出すというよりは、俺を引っ張るように足を前へ進める。
「あ、緋奈さん⁉」
「どうしたの?」
「これは流石にマズいですって!」
「いいでしょ。デートならこれくらい普通よ」
「いつからただのお出掛けがデートになったんですか⁉」
「たった今からよ」
「急にも程がある⁉」
唐突にも程があるし、心の準備なんてできやしなかった。
頭が情報処理に追い切れず錯乱する俺に、緋奈さんは腕にしっかりと豊満な胸を押し付けながら、小悪魔的な笑みを浮かべて、
「私とのデートは嫌?」
「っ! ……嫌なわけ、ないじゃないですか」
「なら何も問題ないわね。引き続き、デートを楽しみましょ」
「……顔、あっつ」
少しだけ朱に染まった頬と高揚に揺らめく紺碧の瞳に、心臓がドクン、とこれまで感じたことのないほどに跳ねあがった。
***
友達が顔を真っ赤にする男の子の腕に絡みつきながら去っていく後ろ姿を、私と鈴蘭はただ茫然と立ち尽くしながら眺めていた。
「あー。あれは完全に乙女の顔ですなー」
「ですなー」
まさかこれまで一度たりとも男どもの告白を受け入れてこなかった藍李に春が訪れるとは。しかも、相手は年下。
「そういや、まゆっち弟がいるって言ってたっけ。同じ高校とも言ってたような?」
「となると弟くんは私たちの一つ下の学年か」
「我が校一の美少女様はまさかの年下好きだったかー」
まぁ、本人も付き合うなら年上は絶対に無い。あるとすれば同い年か、年下と言ってた気がしなくもないけど。
でも年下にだって告られてなかったっけ? それも全部迷う素振りなく一刀両断してたような。
となると、だ。
「あの弟くん。どうやら藍李にとって相当特別だな~」
「くあぁぁ。二人の馴れ初め知りたい~」
「それな。いつ尋問してやろうか」
少なくとも付き合い始めたら絶対尋問する。素直に吐くかは別としても。
「いやぁ。もし二人の関係が公になったら、学校荒れるだろうな~」
「だよねぇ」
「……言いふらしたら、私たちマジで藍李に抹消されるかも」
「……だろうねぇ」
それだけはマジで勘弁。しかしそうなると、私たちが今現状できることはさっきの光景を記憶から抹消するか、二人の関係を大人しく見守るかのどちらかだ。
「らんらん。あたしは
「同感。記憶から抹消するには勿体ない」
やはり私らはズットモ。永遠に親友だ。
「とりま、手は出さずに見守りましょか」
「さんせ~」
「「……頑張れよ、弟くん!」」
たぶん藍李に振り回されるであろう弟くんに向かって、私と鈴蘭は自衛隊に負けないくらい綺麗な敬礼で見送ったのだった。
【あとがき】
八弥心寧と志摩鈴蘭って名前閃いた時は脳汁半端なかった。とてもお気に入りの名前。無論、藍李も気に入ってる。
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