第12話 美人先輩からのお誘い
緋奈先輩と連絡先を交換してから、時々メールのやり取りするようになった。
――ポコン。
『雅日くんてカエルが好きなんだ⁉』
驚いた絵文字とともにメッセージが返ってくる。
『はい』
『……意外』
『カエルというより動物が好きって感じですかね』
『ネコとか?』
『ネコよりかはハリネズミ派です』
『珍しい』
姉ちゃんからもアンタがそういうの好きなの意外とよく言われるから、たぶん緋奈先輩も画面の向こうで驚いてるんだろうな。
自分を知ってもらえることが嬉しくて、思わずニヤケてしまう。
「先輩と話すの、めっちゃ楽しいな」
乙女みたいに足をパタパタさせちゃう。
高揚感に浸っている間にもやり取りは続き、
『カエルが好きでハリネズミが好き……独特ね』
『周りからもよく言われます……でも可愛いんですよ?』
『カエルを可愛いと思ったことないわ』
まぁ、道端にたまにいるカエルに愛着なんて湧かないわな。それに緋奈先輩は女子だしな。そういう系は苦手かもしれない。
エサとかあげてる動画を見るだけでも可愛いと思える要素は詰まっているのに、と一人唸っていると、
『それじゃあ魚は好きなの?』
『魚も好きですよ。ジンベエザメが好きです!』
『男の子ね~』
あの巨体でまったり泳ぐところがいいんだよな。一度でいいから沖縄の美ら海水族館に行って生ジンベエザメを拝んでみたい。
その時はカノジョと一緒に観たいなー、などとおそらく永劫叶わないであろう夢にトリップしていると、また次のメッセージが返ってきた。
『そんなに動物が好きなら何か飼ってるの?』
『いえ。何も飼ってません』
『魚も?』
『はい。やっぱり飼育が大変なので』
『あぁ。そうだよねぇ』
『なので動画見たり、たまにペットショップに行って眺める程度です』
『分かるわ。私も同じ』
生き物を飼うとは大変なのだ。子どもの頃に縁日で掬った金魚を飼ってみたり、小学校の生き物係で飼っている鶏の世話をしたことがある者は少なからずいるだろう。 俺は寿命を迎えた動物たちの死に耐えられず飼うという選択を止めた。何かしら動物を飼っている者なら誰もが通る道とはいえ、やはり別れは辛い。今はこういうやり方でいいと思っているし、満足もしている。
『ところで雅日くん。今度の休みの日って空いてる?』
「今度の休み?」
唐突に緋奈先輩からそんなメッセージが送られてきて、それに思わず眉根を寄せる。
『はい。俺は年中暇です』と返せば十数秒後、
『そう。なら次の土曜日、一緒にお出掛けしない?』
「――は?」
再び返ってきたメッセージに、俺は一瞬目を疑う。
『あの、俺柊真ですけど』
遊びに誘う相手を誰かと間違ってないか? もしくは姉ちゃんと間違えているのかと思ってそんなメッセージを送れば、
『? うん。雅日くんよね』
知ってる、と伝えたいようなアイコンがメッセージとともに返ってきて、俺は猶更目を疑った。
夢じゃない?
緋奈先輩と、出掛けられる?
尽きぬ疑問と邪推が脳内で反復している。
何度メッセージを見ても、目に焼き付くほどそれを確認しても、緋奈先輩が誘っている相手が俺であると事実を突きつけてきて――。
『いいんですか?』
『うん。雅日くんと一緒にお出掛けしたいな!』
トドメの一撃にそんなメッセージをもらってしまえば、もう躊躇いなんてなくて。
タタタッ、と目にも止まらぬ速さで文字を打つ。
『是非!』
『じゃあ決まりね! ……詳しいことはまた今度にしよっか』
提案に乗ってしまったことにわずかな後悔と後ろめたさはありながら、しかしそれ以上にやはり、この感情が勝ってしまって――
「こんなのこと、あっていいのかよ」
ぽふん、と枕に頭を埋めながら、俺は抑えきれない高揚を熱い吐息にしてこぼした。
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