第36話 告白
地下への準備をしている間、世話係にとカーターがメイとやってきた。
カーターには魔力が備わっており、他の子供達より知識は長けている。
逆にメイさんには魔力がない。だから、多少魔力に臆する事はあっても鋭く感知して憔悴することはない。
膨大な魔力が流れている空間で、互いにできる事を補いながら僕の世話をしてくれるとメイデンが言った。
2人に仮面の無い僕の素顔を見せる事を躊躇ったが、2人は怖がるどころか、メイは目に涙を浮かべてカーターと一緒に僕を抱きしめてくれた。
そのことに、僕はまた涙した。
メイデンが魔法でベットを移動させてくれたおかげで、僕は数枚の服だけ持って身軽に移動できたが、その頃には体は燃えるように熱く、意識も朦朧としていた。
地下に着くなり、用意されたベットに倒れ込むように寝転ぶ。
メイデンは心配しながらも、頻繁に来れないであろう自分の代わりにとカーターに指示を出す。
カーターの役割は、僕の体内で魔力が暴走しないようにマナの流れを巡回させる事だった。
膨大な魔力を子供が抑えられる訳もないので、カーターには魔法石が渡される。
「いいか?無理だけはするな。二、三時間に一回位でいい。流れを巡回させるんだ。出来るだけ俺もここへ来るようにする」
メイデンは何度も無理をするなとカーターに言い聞かせ、メイには熱が下がるまでの看病をお願いした。
メイにも疲れを感じたらすぐ休みように言い聞かせる。
それから、ベットに横たわる僕のそばに歩み寄った。
「二時間程ここを離れるが、すぐに戻ってくる。敷地内の結界を二重に貼り終わったら、今日は俺もここで過ごす」
「僕は2人がいるから大丈夫です」
力なくそう答えると、メイデンはダメだとすぐに言葉を返した。
「普通、魔力は備わって生まれて、訓練することで体に馴染ませながら魔力を上げていく。だが、聖は違う。シリルの加護がドラゴンの魔力を馴染ませ抑えていたが、それが跳ね返され、一気に上がるんだ。魔力の暴走は命も脅かす」
メイデンの言葉に、これから起こりゆるかもしれない事に僕は身震いする。
すると、メイデンがそっと僕のおでこにキスをする。
「大丈夫だ。天才魔術師の俺がついている。何も心配せず、今は魔力が体に上手く馴染むように身を任せるんだ」
不思議とメイデンの言葉が僕に勇気をくれる。
いつもそうだ。
メイデンの言葉には、いつも勇気付けられる。メイデンの偽りのない力強い言葉達が僕を救ってくれる。
「メイデンさん・・・早く戻ってきてくださいね」
僕はそう言って微笑む。メイデンもそれを見て、わかったと微笑み返してくれた。
それからの僕は熱で上がる息苦しさと、体内をうごめく得体の知れない物の気持ち悪さに何度も嘔吐を繰り返した。
カーターが言うには魔力酔いらしい。
たくさんのマナが一気に溢れ出て、体内を巡っている事による一種の船酔い状態だ。
カーターは額に汗を浮かべながら、必死に僕の体に手を翳す。
メイは嘔吐する僕の背中を摩り、口元を拭い、汗を拭いてくれる。
途中何度も意識を失いながらも、気持ち悪さでまた目が覚める。
その繰り返しの中、どのくらい経ったのか、ふと目を開けるとカーター達の姿はなく、僕を抱きしめながらベットに横たわるメイデンの姿があった。
「冷たくて気持ちいい・・・」
ポツリと呟いた僕の声に、メイデンがニコリと微笑みながら僕を見る。
「体を冷やしながら、魔力をなじませている」
「ありがとうございます・・・だいぶ、楽になりました」
「そうか・・・朝には、また結界を確認しにいかないといけないから、いまのうちに寝ておくんだ」
メイデンはそう言いながら、僕の前髪を指で掬う。
「聖・・・・」
「はい・・・」
「全てが終わったら結婚しよう」
「・・・ふふっ。こんな時に何を言ってるんですか?」
「嘘でもいいから頷いてくれないか?」
「・・・・どうしたんですか?」
「希望を持ちたんだ」
「希望・・・?」
「あぁ。これから起こる事は聖にとってとても危険な事だ。悔しいが、あのドラゴンが言うように俺には力が足りない。だが、どんな事をしてもお前を守ってやりたい。
その為にも、2人で乗り越えて、生きて共に生きるという希望が欲しいのだ」
「メイデンさん・・・・」
「聖がまだ俺の事を好きではない事はわかっている。だが、俺は今、聖まで失うのではないかと不安でたまらないのだ」
メイデンは苦しそうな表情で僕を見つめ、情けないだろ?と苦笑いした。
僕は、小さく首を振り、メイデンを強く抱きしめた。
「メイデンさん、僕と一緒に生きましょう。これからもずっと仲良くみんなと笑いながら生きましょう」
「あぁ・・・そうだな。聖、ありがとう」
メイデンはそう言うと、強く強く僕を抱きしめた。
ペルソナ 颯風 こゆき @koyuichi
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