第35話 乗り越える時
「ここでシリルさんの記憶は途絶えています。恐らく、魂としてここへ戻った事で記憶を止める事ができなかったと思います」
そう話して2人に視線を向けると、怒りに満ちた目で拳を握り、湖を見つめるメイデンとヘルダの姿がいた。
「シリルさんの悲しみも怒りも、ドレイクさんが全部背負って持って行きました。
僕は2人を怒らせる為に見せたわけではないです。シリルさんが、どれだけ残してきた子供達を・・・メイデンさんを想っていたのか知って欲しかったんです」
僕の話を聞いているのかすらわからない2人の表情に、僕は戸惑いながらも小さなため息を溢した。
「シリルさんは最後の最後まで心配していました。そして、メイデンさんを救って欲しいと懇願していました。・・・・正直言うと、僕はシリルさんが言うメイデンさんの孤独とは何なのか、わからずにいました。でも、ドレイクさんの言葉と、この記憶を見返してわかったんです」
そう言いながら、僕はそっとメイデンの手に触れる。
「メイデンさん、今でもシリルさんの側に行きたいですか?」
「・・・・え?」
「そばに行きたいから、あんな闘い方をしてるんでしょ?仲間達を救う為だと言い聞かせながら、本当のメイデンさんは死に急いでいるように見えます」
「それは・・・・」
「言ったはずです。シリルさんは貴方の幸せを願っているんです。幸せに生きて行く事を・・・隣を見てください。あなたを大事な仲間だと思っているヘルダさんがいます。邸宅を思い出してください。あなたを家族だと思って慕っている人達がいます。
あなたは1人ではないんです。みんなの為にも、自分の為にも生きてください。
・・・もう罪の意識を持たないで下さい」
僕の言葉に静かに耳を傾けていたメイデンは、ずっと項垂れたまま邸宅に戻るまで言葉を発する事はなかった。
「ヘルダさん、僕は数日、地下で過ごします」
邸宅に戻るなり、僕はヘルダに向かって力強くそう言い放つ。
「聖様・・・何を・・・?」
突然の言葉にヘルダとメイデンが、きょとんと僕を見つめる。
「多分、力の解放が始まっています。体が熱いんです」
僕はそう言いながら、汗ばむ掌を見つめた。
「2人も気付いてますよね?このままだと、ドラゴンに感知されます。だから、二重に結界を張っている地下に僕は行きます」
「だが・・・」
戸惑っているメイデンに僕は大丈夫と答える。
「それでも、魔力が溢れるかもしれません。だから、お二人はここでダンさん達と連絡を取りながら、敷地内を守ってください。そして、力が落ち着いたら、僕はまた洞窟へ戻ります」
「何故っ!?」
「敷地内を・・・子供達やメイさんを危険な目に合わせたくないんです。だから、洞窟に行きます。そこで、僕に魔法の使い方を教えてください」
「聖様がそこまでしないといけないんですか?」
「僕にしか出来ないのであれば、やるしかないんです」
そう返してから、僕はそっと自分の傷を触りながら俯く。
「今まで僕はずっと隠れて生きてきました。何の役にも立たない疫病神だと身を潜めてきたんです。だって、僕には償い切れない罪があったから・・・でも・・・でも、僕はここで生きていたいんです。明るい光の下で、みんなと一緒に生きたいんです。
ヘルダさんやみんなが、メイデンさんがそうしてもいいと教えてくれたから、シリルさんとドレイクさんが、そのための力をくれたから、僕はやってみたいんです」
力強く答える僕の言葉を、最初は戸惑っていた2人が、苦笑いしながら受け取ってくれる。
そして、小さく頷き、メイデンがポツリと溢す。
「罪悪感というしがらみの罪を取り払う時なのかもな・・・」
小さな声ではあったが、その言葉を聞き漏らさずにいた僕はメイデンに抱きつく。
「僕と一緒に乗り越えましょう」
「・・・そうだな」
メイデンはそう返しながら、僕を抱きしめ返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます