第34話 悲しくて優しい思い出

ドレイクの声が途絶えた後、ダンはあの男達に心当たりがあるとクリスと共に先に帰還した。

僕は、まだやる事があると、メイデンとヘルダを引き止めて、洞窟へと戻る。

そして、湖のそばまで来て、僕は仮面をつけてない事を思い出し、メイが結ってくれた前髪を慌てて下ろした。

すると、メイデンがすかさずその手を留める。

「言っただろう?聖はかわいい」

「でも・・・・」

「無理強いはしないが、隠さなくてもいい。ヘルダも気にしないさ」

「えぇ、聖様。傷を痛ましくは思いますが、怖いなどとは思いません」

「ヘルダさん・・・・」

「聖の人となりを知ってる者は、決して嫌ったりしない。聖は本当に心優しいいい子だ」

「メイデンさん・・・・慣れるまで・・・慣れるまでこうしてていいですか?僕は傷ができてから長い間、明るい場所で顔を見せて歩いた事がないんです。ずっと隠すように俯いて歩いてきたから・・・」

「そうか・・・わかった。だが、俺の前では見せてくれるか?」

「・・・・はい」

少し強引ではあるけれど、その言葉や行動には全て優しさが詰まっている事を僕は知ってる。だから、素直に僕は返事を返した。

「メイデンさん、ヘルダさん、湖を見てください」

僕はそう言いながら、湖に手を入れ、シリルの痕跡を探す。

しばらくすると、湖が光り、映像が流れ始めた。


まだ、小さな体のシリル・・・

それよりも小さな子供達・・・・

その中に以前は気づかなかったが、メイデンとヘルダらしき子供がいた。

「あぁ・・・懐かしい。思えば、シリルさんと会うのはいつも夜だった・・・きっと、こっそり屋敷を抜け、会いに来ていたんだな・・・」

ポツリと溢すヘルダ、何も言葉を発する事なく湖を見つめるメイデン・・・。

湖に映る光景は幾度となく場面が変わり、笑顔のシリル、その隣をいつも陣取っていたメイデンの姿があった。


場面は変わり、シリルが暴走した日が映し出される。

父親の葬儀の日、棺の前で泣き崩れるシリル、その体に風がまとわりついたかと思った瞬間、それが一気に塊となり、周りを巻き込み吹き荒れていく。

逃げ惑う人達、シリルへ立ち向かおうとする人、恐怖からかその場に座り込む人、色んな人の表情が映し出された。

そして場面は変わり、古びた馬車に両手両足を拘束されたシリルの姿が映し出され、その途中、御者達が話しているのを耳にし、シリルは突然泣きながら御者に縋り付く。

きっと、孤児院の火事の話を聞いたのだろう。

御者達に何度も無情に打たれ、泣きながら気を失ったシリルを、聖なる地へ捨てるように放り投げ、馬車は去っていった。

そして、洞窟から出てきたドレイクと出会う。


生きる希望を無くしたシリルは、ドレイクを怖がる事なく、しばらく見つめた後、そっと目を閉じた。

まるで、一思いに食べてくれと言わんばかりに・・・・。

だが、ドレイクは食べなかった。


また場面は変わり、今度はシリルとドレイクの仲睦まじい日々が流れていく。

まだ小さなシリルに次第に笑顔が戻り、ドレイクと寄り添いながら生活をしている。

そんな中、メイデンが来る日はドレイクが結界を張り中に入れないのにも関わらず、洞窟の奥底で涙しながら身を隠していた。

そして、メイデンが帰る時には決まって、洞窟の入り口でこっそりとメイデンの後ろ姿を眺めていた。

そんなシリルをドレイクは側に寄り添い慰めていた。

その後も、シリルが成長していく姿、毎年来るメイデンの後ろ姿が交互に映し出されていく。

そして、メイデンの様子を湖で眺めているシリルの姿も・・・。

そのうち、2人が愛し合っていく姿も映し出された。

自然に心を通わせ、見つめ合い微笑む姿が、本当に幸せなんだと語っていた。

そして、お腹が大きく膨らみ始めた頃、僕は一旦手を止める。

この先を見せていいものか迷ったからだ。

だが、メイデンが小さな声で最後まで見せてくれと呟いたのを聞いて、僕はまた映像を動かし始めた。


木の実を拾っていたシリル・・・後ろから男が何かを叫ぶ。

そして嫌がるシリルを無理矢理村へ連れて行き、小屋に閉じ込めた。

聖なる地のそばには村はない。

何故、あの男達がここにいたのか疑問が残る。

だが、場面は変わり、大勢に囲まれながらお腹を庇うように息絶えるシリルの姿があた。

そこで、映像は途切れた・・・。

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