第33話 生まれた闇
しばらく泣き続けた僕を、黙ったままメイデンは抱きしめてくれた。
だが、ヘルダの声に僕は我に帰る。
「聖様っ!仮面が湖にっ!」
僕はその言葉に慌てて湖に手を伸ばす。
「ダメっ!これはドレイクさんとシリルさんが、僕の為に作ってくれた物なんだ!」
そう言いながら、湖に手を入れた瞬間、仮面は湖の奥へと沈み、代わりに映像を映し出す。
「これは・・・・」
僕の漏らした言葉に、みんなが湖を覗き込む。
そこに映し出されたのは、数人のフードを被った男達が、シャベルを手に何かを掘っている。
そして、その穴から何かを取り出すと、また画面が変わり、男達は小さな墓を掘り起こしていた。
その風景に見覚えがある僕は、すぐに立ち上がり、ある場所へと駆け出した。
「聖!どこへいくんだ!」
メイデンの声を振り切り、僕は一目散にその場所へと走っていく。
いつも果実を取りに行く出口を出て、釣りをしていたあの泉のそばへ・・・
息を切らし、その場所へ辿り着くと、変わり果てた姿に僕は膝を落とす。
「そんな・・・」
「聖、急に走り出してどうしたんだ?」
後ろから着いてきたメイデンが僕へ駆け寄る。
その後ろからヘルダ達も駆け寄ってくる。
「聖様、ここは・・・?」
ヘルダの問いかけに、僕は力無く答える。
「・・・ルさんの・・・シリルさんのお墓・・・どうして・・・」
そう呟いた瞬間、どこからか懐かしい声が聞こえる。
(聖・•・)
「ドレイクさん・・・?」
(そうだ。ほんの少し神の力を借りた。時間がないからしっかりと聞くんだ)
「なんだ・・・?この声は?」
ダンが腰元の剣を握りながら辺りを見回すが、姿などは見えるはずもなかった。
(聖・・・そして、メイデンと仲間達よ。そなたらに頼みがある)
「何故、俺の名を・・・?」
急に名前を呼ばれた事に、不審な表情を浮かべ、姿なき声にメイデンは問いかける。
(そなたはシリルの友であろう?よく知っている。それよりあのドラゴンの話だ)
「ドレイクさん、あのドラゴンを知ってるんですか?」
(あぁ。かつては私の仲間であり、友だった。だが、いつしか知性を失い始め、幾度となく人を殺めた。だから、私が直接手を下した。闇に堕ちたドラゴンは消える事なく、普通の獣の様に屍になる。私は人知れずの場所へ友を埋葬した。だが、邪な人間がそれを掘り起こし、魔力を与えた。それだけでは事足りず、シリルの遺骨まで盗んだのだ)
「そんな・・・何故、そんな事を・・・?」
(ドラゴンを蘇らせるのに、ただの魔力だけでは足りなかったのだ。聖なる地ならシリルの墓は守れると思っていたが、私が浅はかだった。私が消えた事で、力が弱まってしまった。聖、このままではシリルの魂まで汚れてしまう。あのドラゴンは人間の闇を持って生まれた。その一部にシリルの体が混ざってしまっては、魂も穢れ、地獄へと堕ちてしまう)
「そんな・・・やっと、ドレイクさんとの幸せを取り戻したのに・・・やっと、心安らかな時を手に入れたのに・•・」
ドレイクの話に、僕は悲しくて、悔しくて涙がとめどなくこぼれ落ちる。
「おい、ドラゴン。どうすれば、シリルを助けられる?」
低く冷たいメイデンのその声は、怒りに満ちた声だった。
(まずは聖の力を解放する)
「なっ、どう言う意味だ!?」
(解放した後、聖にはあのドラゴンを消滅して欲しい)
「ダメだ!危険すぎる」
(私の力とシリルの力がないと、あのドラゴンは倒せない。それは、メイデン、そなたもうすうす気付いているのではないか?そなたの力だけで足りないと・•・)
「なんだとっ!?」
(自分の力を過信するでない。シリルがそなたを見守ってきたように、私もそなたを見てきた。そなたの戦い方は自虐そのものだ。まるでいつ死んでも構わないような、そんな戦い方だ)
「・・・・」
(あの火事で仲間をちゃんと助けてやれなかった事、シリルを助けてやれなかった事を悔いて、そのような闘い方をしているのであろう?だが、それは誰の救いにもならない。逆に周りの者を信頼していないと傷つけているようなものだ)
「そうだ。ドラゴンの言う通りだ。メイデン」
ドレイクの言葉に、黙り込むメイデンにヘルダが言葉をかける。
「もうお前に守ってもらうほど、俺は弱くない。それに守るべき物はほかにある。その為にも、お前は生きていかないといけない」
ヘルダ言葉に、メインデンは小さく頷ずく。
(メイデン、聖の力は解放するが、聖は魔法にも戦にも慣れていない。それをそなたが支えてやってくれ。開放後は、しばらく体調を崩すはずだ。その間は、聖の気配を消して欲しい。それから後ろにいる人間の騎士達、そなたらは一刻も早く掘り起こした者達を捉えるのだ。あの者達は未だに術を使い、ドラゴンを操っている。このままでは他の魔物に影響を与え、大きな被害となる)
「すぐに手配します」
ダンは頭を下げて、すぐに返事を返した。
(聖・・・そなたには厳しい頼みとなるが、やってくれるか?)
「はい・・・正直怖いけど、僕はドレイクさんとシリルさんに、沢山心を救って貰いました。それに・・・僕はもう1人ではありません」
僕はそう言って、メイデン達に視線を向ける。
(そうであったな・・・。聖、シリルをどうか救ってくれ。頼んだぞ)
その言葉を最後に、ドレイクの声は途絶えた。
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