第32話 懐かしい場所
「足元、気をつけて下さいね」
そう言いながら、ランプを手に暗い洞窟の中を先頭に立ち、歩いていく。
そして、湖の近くまでくると、慣れた手つきで残っていた燭台の藁と木屑に火を灯す。
「何と・・・こんな薄暗い所に、こんなか細い聖殿が1人住んでいたとは・・・」
灯された灯りに、周りを見渡しながらクリスがポツリと呟く。
数人の騎士を洞窟近くに待機させ、僕とメイデン、ヘルダ・・・そして何故かクリスとダンまで付いてきた。
クリスは当主だからこそ、この目でしっかり確認したいといい、ダンは外にいる必要はないと言い張り、こんなに多くの人数を入れて良いのか迷った僕は、小さなため息を吐いて、結局は強引な2人に負け、中に入るのを許可した。
「意外と住みやすいんですよ。それより、皆さん、湖のそばに来てください」
僕の声に促されるように、みんなは湖を取り囲む。
「まずは、ドラゴンの事を調べましょう」
僕はそう言って、湖に手を入れる。
すると水面が揺れ、光り輝いた。その事にみんなはびっくりしていたが、僕は気も止めず、ドレイクの記憶を辿る。
そして、数100年を遡った頃、数匹のドラゴンが空を飛ぶ姿が映し出された。
「一番大きな体をしているのがドレイクさんです。この頃はまだ、神の使い手が数匹いたようですね・・・・」
気持ちよさそうに空を飛ぶドラゴン達・・・その写し出されるドラゴン達が、場面を変え、消えていく姿が映し出される。
一匹・・・また一匹と消えていき、その姿をドレイクが見守っている。
恐らく若いドラゴンはドレイクだけだった・・・寿命と役目を終えた仲間を1人、また1人と見送ってきたのだと知って、僕は悲しさが込み上げてくる。
「あ・・・・」
僕は最後の一匹を見て、映像を止める。
「このドラゴンです!会った時とは違う容姿をしてますが、このドラゴンに間違いありません!ドレイクさんは瞳が金色に縁取られていました。他のドラゴンもドレイクさんと比べて色素は薄いですが皆金色です。ですが、このドラゴンだけ赤みを帯びています」
そういいながら、みんながその姿を確認したのを見て、また映像を動かせる。
すると、ドレイクとそのドラゴンが争い始めた。
激しいぶつかり合いの末、そのドラゴンは力つき、その場に倒れた。
互いに血まみれになりながらも、力尽きたドラゴンをドレイクは見下ろしながら、寂しそうな雄叫びをあげた。
そこで、映像が消える・・・。
「どういう事だ?この映像によると、あのドラゴンは死んだはず・・・なのに、何故、今になって蘇ったのだ?」
クリスの言葉に、ダンがボソリと答えた。
「誰かが復活させた・・・そう考えれば、そう難しい事ではない」
その答えに、誰もが納得し、頷く。
その瞬間、僕の仮面がバチバチッと小さく音を立てた。
「あっ!」
静電気のような痛みに、僕は仮面を押さえながら地面に膝をつく。
「聖っ!どうした!?」
「仮面が・・・仮面が熱い・・・」
「なんだと!?聖、仮面を外すんだっ!」
メイデンは僕を抱え起こし、仮面へと手を伸ばすが、僕は首を振り嫌だと拒む。
「聖、大丈夫だ。誰もお前の傷を嫌がる者はここにはいない」
「でも・・・でも・・・あぁっ!」
必死に仮面を掴みながら首を振る僕に、メイデンは僕を抱きしめながら囁く。
「ならば、他の者は外に追い出すから、仮面を取ってくれ」
「いやだ・・・メイデンさんも、見たら僕を嫌いになる・・・あぁっ・・痛い!」
「なるはずないだろうっ!頼む、仮面をとってくれ」
宥めるように大丈夫だと囁くメイデンの声に、僕は次第に強く掴んでいた手の力を緩める。メイデンの背中越しに、ヘルダ達の心配そうな顔が見える。
「お願い・・・嫌いにならないで・・・」
僕は涙を流しながら、メイデンから体を剥がすと、メイデンを見つめる。
「大丈夫だ。絶対に嫌わない。頼む、苦しがる聖を見るのは辛い」
顔を歪めながら心配そうに見つめ返すメイデンに、何度も嫌いにならないでと呟きながら、僕は目を閉じ、差し伸ばしたメイデンの手を受け入れた。
メイデンはそっと仮面に触れ、ゆっくりと仮面を外す。
僕はみんなの表情を見るのが怖くて、ぎゅっと目を閉じ続けた。
「聖・・・」
メイデンの声に体をびくつかせ震える。
「聖、やっぱりお前は可愛いな」
その声を聞いて、僕はゆっくりと目を開けると、いつもの優しいメイデンの笑顔がそこにあった。
僕はそのことに安堵して声を出して泣いた。
ドレイクやシリル以外に、初めて見せた素顔を怖がらずにいてくれた事が嬉しかった。
今まで浴びせれた憎悪の視線が嘘だったかのように、メイデンの眼差しは暖かかった。
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