第31話 あの場所へ

ずっと黙ったままのメイデンが心配で、僕は視線を外せずにいた。

するとヘルダがため息をついて、口を開いた。

「シリルさんは、本当に心優しく笑顔の似合う女の子だった。それだけ俺達にはいつも笑顔を向けてくれていたんだ。貴族なのに、平民の孤児を分け隔てなく慈しんでくれて、たまに食べ物を持ってきてくれた。

そんなに多くはない食べ物だったが、俺達はそれが嬉しくで無邪気に食べた。

今思うと、それはシリルさんが食べるはずだった食事だったのかもしれない。もし、こっそり邸宅から持ってきたのであれば、バレた時に折檻されていたもしれないと思うとやるせないよ・・・」

そう言いながら、ヘルダも項垂れる。

「あの日、シリルさんが供物にされる事は聞いていたが、あんなに早く連れ出されるとは思っていなかった。それに、あの火事で俺達はそれどころじゃなかった。

連れて行かれたのを聞かされたのは、怪我の治療から目を覚ました後で、その時はすでに洞窟へ向かって数日後だった」

ヘルダの話に、メイデンがぎゅっと拳を握る。

その手に僕はそっと触れ、優しく撫でた。

「シリルさんは、あの火事の事を知っています。物凄く心を痛めたと思います。そして、メイデンさんが洞窟に来た時、無事だった事に安堵したはずです」

僕の言葉にメイデンが一粒涙を落とす。

そんなメイデンの手をさすりながら、僕はヘルダへと視線を向ける。

「ヘルダさん、僕をあの洞窟へ連れてってください」

その言葉にメイデンが顔を上げる。

「あのドラゴンの狙いは僕です。僕が動けば、自ずとあのドラゴンも付いてくるはずです。それに、あの場所まで行けば、もし対峙する事になっても他の人へ被害が行くことはありません。きっと聖なる土地が力になってくれます」

「それはダメだ。危険過ぎる」

懇願するように僕を見つめるメイデンに、僕は微笑みながらメイデンの頭を撫でた。

「メイデンさん、覚えてますか?あの洞窟にあった小さな湖を・・・」

「・・・あぁ」

「あの湖はいろんな場所や過去を見せてくれます。洞窟に戻り、あの湖を見ればあのドラゴンの正体がわかるかもしれません。それに、メイデンさんに見せたい物があります」

「俺に・・・?」

「はい。過去といっても大まかな流れくらいしか見れませんが、あの湖にはドレイクさんとシリルさんの思い出が残っているのです。僕は1人になってから、よく2人の思い出を映し出して見ていました。だから、メイデンさん・・・ヘルダさんにも見てもらいたいのです」

「・・・・・」

「行きましょう、一緒に・・・」

僕の後押しに促されるように、メイデンは小さく頷いた。


それからの準備は早かった。

一部の騎士団を残し、ダン、クリスまで王都へ向かう事になった。

帰還の準備の間もメイデンは元気がなく、それを気にしながらも僕はとにかく一刻も早く洞窟へ行かなくてはと気を急いていた。

来たときと同じように、移動魔法を潜り、一旦王城での方向や会議の為にメイデン達と別れ、僕は1人で邸宅へ戻る。

久しぶりに戻った自分の部屋を見回しながら、何となく、もうここへは戻って来れないかも知れないと思う気持ちが、僕の中で湧き出ていた。

それを寂しく思うも、自然と受け入れている自分にびっくりするくらいだ。

洞窟への出発は翌朝・・・

何か糸口が見つかればいいと願いながらも、僕が見たあの過去を元気のないメイデンに早く見て欲しいと願っていた。

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