第30話 異なるドラゴン
「僕はある日を境に、タナダル国の外れにある洞窟でドラゴンと暮らしていました」
「国の外れ・・・あの聖なる土地の事か?確か、あそこは・・・」
そう言いかけて、ダンは口を閉ざし、メイデンとヘルダへと視線を向ける。
その様子に僕はあっ・・と小さな声を漏らした。
「シリルさんを知っているのですか?」
僕の問いかけに、ダンは視線を僕に向け、目を大きく見開いた。
「何故、その名を・・・・。いや、シリル殿とは直接関わった事はないが、あの事件を帝都で知らぬ者はいない。そして、その後にあった火事の件も・・・」
そう言って目を伏せるダン。
「いや、帝都どころかここに住む私の所まで話は届いたんだ。それだけ、あの侯爵家の話題は有名だった。幼い頃に魔力が暴走するなど、よく聞く話だ。それも、家族がしっかり見ていれば防げたはず・・・」
クリスが目を伏せながらそう話すと、僕は静かにシリルさんの身の上を話し始めた。
「皆さんが・・・どこまでシリルさんの事を知っているのかわかりませんが、シリルさんは精霊の加護を生まれながらに授かっていました」
「何だと!?」
僕の言葉にメイデンが驚きの声を上げた。
「シリルさんは、暴走するまでその力をコントロールできていたんです」
「では、何故・・・?」
「シリルさんは、新しく来た継母から奴隷のように扱われ、生まれてきた兄弟達に暴力と暴言を浴びせられながら育ちました。食事もままならいほど軟禁されていたのです。それでも、何も知らない大好きな父親を悲しませたくなくて、父親の前では笑顔でいたそうです。ですが、その大好きな父親が亡くなった事で、悲しみから力が暴走してしまったんです」
僕が話し始めた真実に、誰もが口を閉ざす。
それでも、僕はありのままを伝える。
「その後、侯爵家を完全に自分の物にするために、シリルさんを闇魔法の使い手などとでっち上げ、供物として差し出したのです。幸い、ドレイクさん・・・そのドラゴンはドレイクというのですが、ドレイクさんは人間を食べません。
それは神の使いとして誇りを持ち、人間を慈しむドラゴンだったからです。
もう人間の世界で生きたくないといったシリルさんは、ドレイクさんと生きていく事を決め、長い年月を一緒に過ごす内に、互いに愛し合うようになったのです。
ですが、またシリルさんは人間の手によって今度は命を落としたんです。それに怒ったドレイクさんは村を壊滅状態にした・・・」
「・・・聞いた事がある。魔物によって一夜にして全滅した村があると・・・その村だったのか・・・」
僕の話に、眉を顰めながらダンがボソリと言葉を漏らした。
「罪のない人間まで殺めたドレイクさんは罰を受け、神に残りの寿命を取りあげられました。でも、その側には魂になったシリルさんがいて、最後の時まで寄り添っていました。僕は2人とは数日しか過ごせませんでしたが、深い愛情を頂きました。
そして、旅立つ時にシリルさんは精霊の加護を、ドレイクさんは僕の身を守る魔法と魔力を授けてくれたんです」
「なるほど・・・だから、君から特別な魔力が感じられるのか・・・」
クリスは顎に手を当てながら、僕をまじまじと見つめた。
「でも、ドレイクさんは確かに言ったんです。自分が・・・神の使いとしてのドラゴンは自分が最後の生き残りだと・・・だから、他にドラゴンがいたなんて、信じられないんです。それに、あのドラゴンからは、ドレイクさんのような神聖な気配ではなく、禍々しい闇の気配を感じました。ドレイクさんとは似ても似つかない姿です」
必死にそう訴えると、クリスとダンは互いに顔を見合わせ、ヘルダへと視線を向ける。ヘルダは、その視線に頷きながら口を開いた。
「闇の気配なら、誰かが作り出した可能性がある」
その言葉に皆が静かに頷くが、メイデンはずっと項垂れたまま言葉を発しなかった。
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