第29話 ドラゴン

ふと目を覚ますと、目の前には見知らぬメイドが側に立っていた。

「聖様、お目覚めになられたんですね!」

安堵の表情を浮かべたメイドは、慌てて通信機に向かって僕が目覚めた事を告げる。

「ここは・・・?」

「聖様がお使いになっていた部屋は、もう使えなくなってしまったので、急遽、メイデン様がお使いになっている部屋へ移動させていただきました」

メイドの返事に僕はぼんやりと天井を見つめていると、ふと急にドラゴンの事を思い出し、喉の奥がヒュッと変な音を鳴らす。

心臓が飛び出しそうなほど、激しく打ち鳴らす。

「聖・・・・?まぁ、どうしましょう・・・お医者様をすぐにお呼びしますね」

メイドが僕の怯えた様子を見て、慌てて部屋を出ようとした時、入れ違いにメイデンとヘルダが入ってくる。

「メイデン様、聖様がっ!」

メイドの慌てた声に、メイデンはすぐさま僕へ駆け寄り抱き上げる。

「聖、大丈夫だ。もうここにはいない。俺が側にいる」

優しいメイデンの声と、力強い腕に包まれながら、僕は少しずつ呼吸が落ち着くのを感じる。

「聖さま、ゆっくり息を吸ってください」

メイデンの隣でヘルダが心配そうに僕を見つめ、声をかけてくれる。

僕はその声を頼りに、必死に息を整えていく。

そうしている内に、何とか心を落ち着かせる事ができた。


「メイデン、いいか?」

しばらくして部屋にダンとクリスがやってきた。

「今日は無理だと言っただろう?」

「そうもいかなくなった」

睨みつけるメイデンを他所に、クリスが僕へと近づき、ベットの側にあった椅子に腰を下ろす。

「体調はどうだ?」

「クリス様・・・部屋を壊してすみません」

「君が謝る事ではない。それより、体調が良いならば、少し話を聞きたい」

「話は俺がしただろう!?」

クリスの言葉にメイデンが怒りの声を上げるが、近くに来たダンがメイデンの肩を叩きながら首を振る。

「お前は何かを隠している。それに、例のドラゴンが怪我で苛立っているのか、森の一部を焼き尽くした」

「え・・・・?」

「チッ、当たり散らすならあの時、丸こげにしてやれば良かった」

「そう出来なかったのだろ?お前の魔力を持っても、火傷程度しか負わせられなかったのだ。侮ってはいけない」

ダンの返しに、メイデンはまた舌打ちをする。

「聖殿、ここは私の領地だ。今はまだ森で済んでいるが、これが住民へと向けれれると困る。今後の対策も早急に立てねばならない。わかってくれるか?」

「はい・・・・」

「ふっ、聖殿はどこかの秘密主義者とは違う。本当にいい子だな」

クリスは微笑みながら僕の頭を撫でるが、メイデンがその手を払いのける。

それを見て苦笑いするクリスだが、すぐに真剣な表情で僕へと視線を向けた。

「君は、ドラゴンを知っているね?」

「・・・・はい」

「やはり・・・・どういう経緯で関わっているのか詳しく聞きたい。なんせ、ドラゴンはもう何百年も人の前に姿を現した事がないのだ。だから、その容姿も特性も遥か昔の秘伝書にしかない。それでこそ、民が知っているドラゴンは物語の空想の産物でしかないのだ」

「・・・・そうですか。でも、あれは僕の知っているドラゴンとは異なります」

「何が、どう違うのだ?」

「容姿から全てです。僕が知っているドラゴンは神に使える万能の生き物で、知性も能力も長けています。それに、心から民を慈しむ優しいドラゴンです。ですが、あれは違う・・・禍々しい闇そのものでした・・・・」

「闇・・・・」

「はい・・・言葉はかろうじて喋れるようでしたが・・・」

「魔物が喋るのか!?」

「はい・・・僕の知っているドラゴンは、言った通り知性あふれる方だったので、考える事も、人間と同じ言葉も話します。でも、あのドラゴンは、カタコトだった」

「・・・して、何と言っていた?」

「僕の・・・僕の力をよこせと・・・」

小さくなる僕の言葉に、誰もが言葉を失う。

「メイデン、聖は力を発現したばかりと言っていなかったか?」

ダンの問いかけに、メイデンはそっぽを向いて黙り込む。

そんなメイデンの手にそっと触れ、僕は諦めたような顔をして首を振った。

「メイデンさん、これ以上隠せません・・・いえ、僕が狙われている以上、隠してはいけないと思うんです。じゃないと、みんなに迷惑がかかってしまいます」

僕がそう告げると、苦虫を噛むような表情をしたメイデンが分かったと答えた。

「だが、聖、これだけは約束してくれ。1人で立ち向かおうとするな。お前には俺もヘルダもついている」

真っ直ぐな目で僕を見つめるメイデン。そのそばに立っているヘルダも微笑みながら頷く。そんな2人を見て、僕も小さく頷き返した。

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