第25話 ある魔物の存在
割り当てられた部屋で荷解きを終えた後、メイデンとヘルダは会議へと向かった。
僕は部屋に1人残され、ソファに腰を下ろしながらぼんやりとクリスが言った言葉を考えていた。
新しい恋・・・メイデンは19だから、きっと初恋なんてものも済ましているだろう。それどころか、あの容姿で金持ちで大魔法使いだ。
嫌っているのは貴族で、平民や女性ではない。
もしかしたら、初恋どころではなく色々経験をしているのかもしれない。
僕は仕事が忙しくて、出会いはあっても恋などする余裕なんてなかった。
引退した後は、家に篭りがちだったから出会いなんてない。
普通の人が経験する恋も、そんな話をする友達すらいなかった。
それがほんのり寂しくもあった。
だけど、そんな事がこれほど気になる物なんだろうか・・・
経験のなさから自分の中にある気持ちがわからずにいた。
いつの間にかウトウトとソファーで眠りこけてしまった僕は、慌ただしく開けられたドアの音で目を覚ます。
「聖っ!」
「あ・・・メイデンさんとヘルダさん、おかえりなさい。会議はどうでしたか?」
「それより聞きたい事がある」
真剣な面持ちでメイデンとヘルダが、僕の目の前に腰を下ろす。
「ど、どうしたんですか?」
「聖様、今日の会議である魔物の話が出たんです」
真っ直ぐに僕を見つめ、低い声でそう告げるヘルダに僕は不安な気持ちになる。
「ま、魔物・・・ですか?」
「そうだ。その魔物が度々目撃されていて、その魔物が現れ始めた時期と、他の魔物が村を襲い始めた時期が重なるのだ」
「・・・・・その魔物って・・・」
「ドラゴンです」
ヘルダの口から出た言葉に、僕は息を呑む。
「聖は確かあの洞窟にいたドラゴンが最後の生き残りだと言ったはず。そもそもドラゴンなど、いたとしてもそうそう人前に現れない。それは、ドラゴンは昔から人々の守り神だと言われてきたからだ。なのに・・・」
「ドレイクさんは嘘はつきません!それに、僕はこの目でドレイクさんの最期を看取ったんです!」
「聖・・・」
声をあらげる僕にメイデンは困ったような表情をするが、ヘルダは落ち着いた表情でまた低い声で僕に問いかける。
「そのドレイクというドラゴンが、思い違いをしていたとは考えられませんか?それか、仲間がいる事を隠していたとかは?」
その問いかけに僕は急に腹が立って席を立つ。
「そんなはずはありません!ドレイクさんは500年も間、あの洞窟で最後の生き残りとしてずっと1人で人間達を見守ってきたんです!シリルさんの件がなければ、人を殺める事もなかったはずです!僕の目にはドレイクさんが、思い違いをするほど劣っていたとも、隠していたとも思えません!」
僕は息を切らしながらそう叫ぶと、今度は俯いて拳を握る。
「あの薄暗い所で、1人で居続けなければならなかったドレイクさんを侮辱しないでください・・・僕にはその寂しさが痛いほどわかるんです。それに・・・ドレイクさんにとって、シリルさんは暗闇に差した唯一の光でした。
人間を心から慈しんでいたドレイクさんだからこそ、シリルさんの事も心から愛して慈しんでいました・・・光の為に全てを捧げたドレイクさんは、とても聡明で気高い方なんです。それをわかっていたから、シリルさんもドレイクさんを心から愛し、後継者を残す為にも、ドラゴンの子を宿すという危険な行為を受け入れたんです。
メイデンさんも、ヘルダさんも2人の姿を見たらわかるはずです・・・。
光を失った後も、ドレイクさんは最後の最後まであの洞窟で、光を奪った憎いはずの人間を見守り、役目を果たしました。ドラゴンとしての誇りを持っていたから・・・それに、僕に対しても誠意を示し、労ってくれました。だから、ドレイクさんを悪く言わないで・・・」
いつの間にかポタポタと涙を落としていた僕は、俯いたまま頭を冷やしてきますと足早に部屋を後にした。
本当はヘルダがそう言う意味で尋ねていたわけではないと、心の奥ではわかっているものの、何故か僕はドレイクさんの事を悪く言われたような気がして、あんな風に怒鳴ってしまった。
それはきっと、仮面を通して2人が僕の側にいると感じているからこそ、ドレイク達に聞かせたくないと思う気持ちからかもしれない。
僕は仮面を撫でながら、邸宅の外まで足を動かし続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます