第24話 西の伯爵

王城へ着いた僕達は、騎士団と合流したのち、すぐに出発した。

王都から少し離れた丘に出入り口となるゲートが建てられている。

そのゲートは東西南北に設置されていて、王都がある南のゲートは厳重に監視されている。そのゲートを使い、まずは西の領地へと向かう。

そこで領地主である伯爵を交えて、より詳しい情報を得る為、会議が行われる。すぐさま調査に入るかどうかは、会議の内容によって決まるらしい。


ゲートを抜け、王都では見られなかった街並みの景色に僕は目を輝かせる。

まるで昔の海外映画のセットのような街並みに、僕は窓にしがみ付き目をキョロキョロと忙しく動かせた。

「メイデンさん、あれは何ですか?」

「あれは神殿だ。そうだ。早く仕事が終われば少し長めに滞在して、あそこにある劇場へ行くか?」

「劇場!?」

「あぁ。王都の劇場も素晴らしいが、ここを管轄している伯爵は芸術に力を入れていて、オペラや演劇などが盛んに開催されているらしい。展示場もあって、そこには見事な芸術品があるそうだ。俺はそう言うのに今まで興味がなかったが、聖が見たいのであれば一緒に行こう」

「本当ですか!?僕、演劇みたいです!」

「そうか。ならば、必ず行くと約束しよう」

メイデンが微笑みながら力強く応えてくれる。僕は絶対ですよ!小指をメイデンに突き出すと、戸惑っているメイデンの手を取り、無理やり小指を絡める。

「これは、僕の世界での約束の証です。約束を破ったら針千本の刑ですからね」

「そ、そんな恐ろしい刑の元にある証なのか?」

「ふふっ、約束を破らなければいいんです。この街でなくてもいいです。王都でもいいからメイデンさんが時間ある時に連れてってください」

「あぁ。約束する。俺が愛しい婚約者の約束を破るなど、あり得ないからな」

「なっ、フリだと言ったじゃないですか!?」

慌てて答える僕に、メイデンは聞く耳を持たないといったそぶりをしながら笑う。

それを見て、僕は呆れながらも釣られて笑ってしまった。



「ようこそ、我が領地へ」

そう言って出迎えてくれたのは、長い栗色の髪を束ね、綺麗な茶色の目を細める女性だった。

白いシャツに、タイトなズボン、まるで騎士を思わせるかのような姿だった。

他の騎士達が次々と荷解きをする中、メイデンは僕の手を握り、さっさと邸宅内へと歩き始める。僕は挨拶などしなくてもいいのかと戸惑いながら、手を引かれて歩くが、後ろからついてくるヘルダもさも当たり前かのように、皆をスルーして着いてくる。

そこへ伯爵と言われる女性が近づいてくる。

「メイデン、新しい弟子ができたと聞いたが、そちらの方か?」

女性と思えない口調で、僕を見下ろすその女性の出立に僕は見惚れてしまう。

姿は女性そのものだが、綺麗な顔立ち、すっと伸びた背筋、腰には剣が携えられていて、本当に騎士を想像させる姿そのものだった。

僕が見惚れているのに気付いたのか、女性がクスリと笑い、胸に手を当てお辞儀する。

「私はクリス・アルフォード。この西の領地をまとめている。可愛らしいお弟子さん、よろしければお名前をお聞きしても良いですか?」

急に声をかけられ、僕はハッとして慌てて頭を下げる。

「ぼ、僕は聖と申します。伯爵様、数日間お世話になります」

「ほう、捻くれ者のメイデンと違い、礼儀正しいのだな」

皮肉めいた言葉にメイデンがチッと舌打ちする。

「俺は貴族様とは戯れる趣味を持ち合わせていないので・・・」

「まったく・・・そのような態度だから、皆に嫌われるのだ。確かに貴族というのは厄介だが、少なくとも各領地を取りまとめる私達は偏見などない。共に王家や国に忠誠を誓い、討伐に連れ添った仲間だ。少しは信頼しても良いのではないか?」

「はっ!お生憎様ですが、俺は忠誠など誓っておりません。なので、気高い伯爵様達の仲間だと思っていません」

「そうか?私はそう思わないがな。まぁ、いい。可愛くない捻くれ小僧はほっとくとして、私は聖殿に興味があるな」

クリスは、にこりと微笑みながら僕の手を取る。それを、メイデンが引き離し、クリスを睨みつける。

「言っておきますが、聖は弟子である前に俺の婚約者です。二度と触れないで頂きたい」

メイデンはそう言うと、僕の手を掴み、腕にあるバングルを見せると、自分の腕にあるバングルも添えてクリスへ見せる。

その仕草に、クリスはまたクスリと笑った。

「ほう・・・あのメイデンが婚約者と言い、これほどまで大事にしているとは・・・ますます興味が湧くな」

「持たなくていいっ!」

睨みつけるメイデンをものともせず、クリスは小さく笑う。

「まぁ、いい。新たな恋がメイデンにとってどのようになるか、しばらくは観察しておこう」

クリスはそう言い残し、くるりと体の向きを変え、邸宅内へと歩いていく。

その後ろ姿を見つめながら、クリスの言った新たな恋という言葉を頭の中で繰り返していた。

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