第23話 約束

あの後、メイデンは最終確認をしに行くと、王宮へと向かった。

メイデンが去った後、僕はメイデンの表情を思い出しながら、意を決してヘルダの元へと走った。

ヘルダも不在中の最終確認を使用人達と話し合っていた。

「ヘルダさん!あの、忙しい所、申し訳ないのですが、お願いがあります」

僕はヘルダに駆け寄りながら声をかける。

ヘルダはすぐに話を止め、僕へと体を向ける。

「あの、あのお金を貸してください」

「何か用入りなら、使用人に買いに行かせますが・・・?」

「あの、それではこのバングルと同じ物が欲しいんです。魔法はかけなくていいから、同じ形の・・・メイデンさんサイズの同じ物が欲しいんです」

僕の唐突なお願いに、ヘルダは何も聞かずニコリと微笑んだ。

「では、少し見せていただけますか?」

ヘルダの返しに僕は慌ててバングルを外そうとするが、どうやっても外れず、カチャカチャと動かす。

すると、ヘルダはバングルに顔を近づけ、ふむと呟いた。

「どうやらメイデンが外れないようにと、魔法で鍵をかけたようですね。ですが、形は把握しました。夜までにはご用意します」

そう言ってまた微笑むと、持っていた書類を使用人に渡し、部屋を出ていった。

僕は慌ててお願いしますと大きな声で声をかけ、頭を下げた。

その夜、約束通りヘルダは同じバングルを持ってきたが、メイデンは夜遅くまで帰ってくる事はなかった。


翌朝、メイに起こされ、メイデンの姿を確認するものの話しかけられないまま朝食を終え、30分後に玄関へ集合しましょうとヘルダに言われ、慌てて部屋へ戻った。

用意された服に着替え、バックを肩からかける。

ベストにあのバングルがちゃんと入っているか、確認するように胸元をポンポンと叩き、急いで階段を駆け降りていく。

既に待ち構えていたメイデンから、王宮まで転移魔法で行くと伝えられ、庭へ出る。

ヘルダが魔法陣を稼働される間がチャンスだと思い、僕はメイデンの服を掴んだ。

「メイデンさん、5分でいいです。時間をください」

僕の言葉にきょとんとするメイデンに、僕は懇願の眼差しを向ける。

「忘れ物か?」

そう問いかけるメイデンに、僕は慌てて内ポケットからバングルを取り出し、メイデンへと差し出した。

「僕、やります!メイデンさんの婚約者のフリ、します!でも、昨日話したみたいに、僕の気持ちがどうなるかなんて約束はできません。それでも、メイデンさんの事を知りたいと思ってます。あ、あと、僕は今まで子供役しかした事ないので、恋人とか婚約者の役がどう言う物かわかりません。だから、上手くできるかわからないけど、それでも僕が婚約者でいいですか?」

最初は呆然と僕の話を聞いていたメイデンは、次第に話を理解したのか満面の笑みで僕を抱き上げた。

「もちろんだ。俺の婚約者は聖以外考えられない」

「ふ、フリです」

「聖様、話の終わりにフリという言葉が入っておりませんでしたよ」

後ろからツッコミを入れるヘルダの言葉に、僕は自分が言った言葉を思い出し、顔を赤らめる。

「メイデンさん、誤解です!フリです!フリ!」

僕の声が届いてないのか、僕を抱き上げたまま嬉しそうにクルクル回るメイデン。

僕は振り落とされないかと不安になりながら、メイデンへとしがみ付く。

それが、メイデンを更に喜ばさせたのか、勢いのまま僕の頬へキスをした。

僕は固まったまま、何をされたのか理解が追いつかなかったが、メイデンはお構いなしに、何度も頬にキスをした。

それを見かねたヘルダが、メイデンの頭を殴り、僕を下ろすように伝える。

「もう時間がないんだ。あとで、俺からちゃーんと説明するから、さっさと出発するぞ」

呆れた声に、メイデンがぶつぶつと文句を言い始めるが、ヘルダはお構いなしに僕の手を引き、魔法陣の中へと入っていく。

その後を、聖に触るなと怒りながらメイデンがついてくる。

僕はしばらく呆けたまま、手を引かれて王宮へと向かった。渡しそびれたバングルを片手に持ったまま・・・。

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