第22話 遠征準備
ダンが来てからたった二日で、正式に王宮から遠征命令の令状が届いた。
準備が整い次第、三日後には出発予定だ。
ヘルダからこんなに早い遠征命令は初めてだと聞かされ、事の重大さを思い知る。
邸宅内でも、メイデンとヘルダ2人が不在するという事で、邸宅での仕事や孤児院の仕事を引き継ぎする為に、いろんな人が毎日が慌ただしくしていた。
そんな中、僕は1人訓練場に通って、少しでもコントロールできるようにと、最初に教えてもらった体内のマナを感じられる訓練をしていた。
特にこれと言ってするべき事はないのだけれど、自分の腕や足、心臓に手を充て、動脈で血の流れを感じるように、ただそこに触れて、目を閉じ、体の中を巡る暖かな気の流れを見つけ、その流れを感じる訓練だ。
もちろん脈を触ってわかる血液とは違うから、なかなか感じ取るのは難しい。
訓練をすればするほど、マナの細い蔦を辿るのは結構集中力が要るのだ。
その合間に、ほんの少しの魔法を使うと、更にマナの流れは変わる。
マナがどう流れ、どう放出されるのか、流れを緩めたり速くしたり、慣れないうちは疲労がすごくてすぐにバテてしまう。
それでも、できる限り足を引っ張らないように努力を続けた。
出発の前日、ヘルダからとあるバックを渡された。
ヘルダとメイデンは魔法具を作って販売しているらしく、このバックは一押し商品だと説明された。
肩からかけれるなんて事ない小さなバックには、中に空間魔法が施されていて、どんなに荷物を詰め込んでも収納できるという優れ物だ。
遠征に持って行く荷物を詰めるように言われたバックを、僕は目を輝かせながら入れては出し、出しては入れと何度も繰り返していた。
まるで、ドラえもんの異次元ポケットみたいだったからだ。
取り出しも、出したいものを念じながら手を入れると、それが出てくるという、本当にドラえもんその物だった。
あまりにも楽しくて、ついモノマネをしながら遊んでいると、いつの間にか入ってきたメイデンに笑われてしまった。
「何をしているのか知らんが、その様子だと準備は捗ってないようだな」
笑いすぎて涙目になっているメイデンは、お腹を摩りながらソファに腰を下ろす。
僕は顔を赤らめながら、元々入れるつもりだった服を次々にバックへ詰めていく。
「用意した服は着てみたのか?」
「・・・はい。ありがとうございました」
そう返しながらも、まだ恥ずかしくてメイデンへと視線を向けれず、黙々と荷造りをしていく。
メイデンが用意したのは、保護魔法のかかった服だった。
タイトなシャツに、収縮性のあるズボン、その上から魔法師が纏う長い丈のベスト、それからブーツだった。
本来なら王宮騎士や魔法師みたいに、胸に王家の紋章が刺繍された制服があるらしいが、その都度雇われている傭兵みたいな役割のメイデンは個別で自由に服装を決めれるらしくて、僕達三人は落ち着いたシルバーを基調とした色合いになっていた。
それは、メイデンの髪や目の色で、メイデンの仲間だという印でもあった。
それでも、メイデンは高位魔法師なので、その印のような模様を刺繍しなくてはいけないらしく、本人はひけらかすみたいで嫌だと言っていたが、渋々付けているらしい。
服を全て詰め終わってから、僕はメイデンの真向かいのソファに腰を下ろす。
すると、さりげなくメイデンが隣へと移動してきた。
そして懐から箱を取り出すと、僕の手にカチリとはめる。
それは細いバングルだった。
「これには俺の魔法がかけられている。魔力を抑える魔法だ。保護もかけようと思ったが、ドラゴンの保護がかかっている以上、俺の魔力と相性が合わなければ弾かれるだけだから、やめた」
そう言いながら、付けたバングルを優しく撫でる。
それを見て、僕はずっと悩んでいた事を話し始めた。
「メイデンさん・・・あの提案ですが・・・」
「提案?」
「婚約者のフリをするという提案です」
「あ、あれは、嫌ならいいんだ。無理強いはしない」
「・・・返事をする前に聞きたいんです」
「何をだ?」
「僕がフリをする事は、メイデンさんを傷付けることになりませんか?」
メイデンの気持ちに応える事がないかもしれない可能性を込めた確認だった。
フリをする事で、気を持たせ、傷つけてしまうのではないかという危惧もある。
僕のその気持ちを察したのか、ほんの少し寂しそうな表情を見せながらも、メイデンは僕に微笑んだ。
「今は無理だとしても、聖が俺を嫌わない限りは可能性はあるだろ?今はフリだけでいい。あとは俺が努力すればいいだけだから、聖が心配とか責任感を感じる必要はない。ただ、その間に俺の事を知って欲しいんだ。知ってもらって、それでもダメなら諦めるから、聖は難しく考えなくていいんだ」
そう呟いたメイデンは、やっぱりどこか寂しそうだった。
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