第21話 広い世界

あれからダンが根負けし、陛下にメイデンの弟子として同行の許可を得ると席を立った時、メイデンの一言でまた全員が絶句する。

「弟子もいいが、婚約者だとも付け加えてくれ」

言ってやったというドヤ顔に、僕は口をパクパクさせる。

するとダンがふっと笑みを溢す。

「お前が大事にしている事はわかった。私は、お前が同行してくれれば助かるから、陛下には私から強く勧めておこう。だが、聖の様子を見ていると、まだお前の片思いのようだな」

「勝手に呼び捨てするなっ!それに、お前には関係ないだろ」

剣幕を捲し立てるメイデンを他所に、ダンはまた僕の手を取って甲にキスを落とす。

「私も君を守ると誓おう」

その言葉と仕草に、メイデンが更に怒鳴り声を上げる。

それを物ともせず、ダンは笑いながら部屋を出ていった。

メイデンの怒鳴り声を聞きつけたメイによって、メイデンは説教タイムへと突入した。



「聖・・・入っていいか?」

ノックの音の後に、力無いメイデンの声が聞こえ、僕はメイデンを招き入れた。

ソファに座ると、メイデンは勢いよく頭を下げて、テーブルから鈍い音が鳴る。

「メ、メイデンさん、大丈夫ですか!?」

「聖、すまないっ!」

慌てて声をかける僕の声と被せて、メイデンが謝る。

「また聖の気持ちを無視した。本当にすまない」

メイデンの言葉に戸惑いながら、僕は頭を上げてと声をかける。

メイデンがゆっくりと頭を上げると、赤くなったおでこに僕は手を当てる。

「使えるといいけど・・・」

そう言いながら、僕は使い方もわからない癒しの力を使ってみる。

それでも呪文とかも知らない僕は、心の中で良くなれと念じてみた。すると、手がほんのり暖かくなり、赤みを帯びていたおでこがいつもの白い肌へと変えた。

それを見た僕は、嬉しくてつい微笑んでしまう。

「可愛い・・・・」

「え?」

「あ、いや・・・あの、本当にすまなかった。その、本当に行くのが嫌なら、ダンに同行を取り下げてもらうから、遠慮なく言ってくれ」

言葉とは裏腹にしょんぼりした表情を向けるメイデンに、僕は小さなため息を溢す。

「メイデンさんの強引さは、もう身に染みてわかってます」

「す、すまない・・・」

「でも、それで僕が前に進めたことは確かです。それには感謝してます」

僕はニコリと微笑みながらメイデンへと言葉をかける。

その言葉にメイデンが明るい表情を見せるが、僕はすぐに眉を上げて、メイデンを見つめた。

「でも、大事な仕事にわがまま言って僕を同行させるのはどうかと思います」

強めの口調でそう言えば、またメイデンはしょんぼりとする。

「メイデンさんが言うように、僕は魔力のコントロールさえ出来ません。そんな僕が一緒に行ったら足手纏いです。その事で他の人や、メイデンさん、ダンさん達に迷惑をかけてしまうのが嫌なんです」

「迷惑とか思ってないぞ?それに、調査している間は聖は宿にいればいいし、危険な目には合わせない。それでも、ダメか・・・・?」

「それでは弟子の意味がないじゃないですか。移動のお金だって、メイデンさんの弟子となれば、国から無駄なお金も出るし・・・」

「そ、それなら、聖の分の費用は俺が出そう」

「それじゃ、メイデンさんが損します。たださえ、お世話になっているのに・・・」

今度は僕がしょんぼりした表情をすると、メイデンが慌てて僕の手を握る。

「俺がしたいからそうしているんだ。聖が責任や罪悪感を感じる必要はない。それに、聖はここに来て、使用人達の手伝いをしてくれるし、子供達の相手もしてくれる。それだけでも、給金に値する仕事だ。世話になっていると思わなくていい」

「でも・・・」

「こう見えても俺は稼いでいる。危険な現場へ行けば報奨金は高いし、ヘルダと一緒に別の商売もしている。だから、お金の心配はいらない。ただ、俺がしたくてやってて、俺が側にいたいからそうしてる・・・ただ、それだけだ」

「・・・・・」

「聖・・・俺のわがままでもあるが、聖にはもっと広い世界を見て欲しいんだ。聖は今まで暗い家の寂しい部屋しか知らなかったはずだ。聖の元の世界も、この世界も、とてつもなく広い。いろんな景色があって、いろんな人もいる。それを見て、知って、感じて、そうやって暮らしながら聖にはいつでも笑ってて欲しいんだ」

「メイデンさん・・・」

「一緒に行こう」

改めてそう告げられ、僕は胸が締め付けられた。

それは不安より、きっと喜びが多かったのかもしれない。

メイデンの言葉が、僕にそうしてもいいんだと背中を押してくれてる気がしたからだ。

僕はその言葉に勇気付けられ、メイデンに行きますと返事を返した。

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