第20話 西の森

邸宅に入り、何故か僕まで応接間に通され、怒り心頭のメイデンの隣で身を縮めて座っていると、ヘルダがお茶を運んでくる。

僕はヘルダが入ってきた事で安堵し、ヘルダに助けてという合図をするが、ヘルダはにこりと笑い、空いている席へ腰を下ろした。

「ダン様、今日は何用で?」

ヘルダがお茶をカップに注ぎながら尋ねると、にこやかな顔から急に真剣な表情に変える。

「近々、西の森へ行くことになりそうだ」

「西の森?」

ダンの言葉に、メイデンとヘルダが眉を顰める。

「あそこは魔獣の巣窟ではあるが、今まで人里に来て村を襲うほど凶暴な魔獣はいなかったはずだ」

メイデンの問いかけに、ダンはヘルダが入れた紅茶を手に取り、小さく頷いた。

「まだ何が原因がわからないが、最近、そこの魔獣達が度々村に現れては暴れているらしい。そこで、陛下から我々騎士団と、お前とヘルダを連れて調査に行ってくれとの王命が出た」

「またかよ・・・俺は調査団じゃないし、もし、魔獣討伐になれば俺の負担がでかいだろ」

心底嫌そうな顔でメイデンが答えると、ダンは一口紅茶を啜るとカップを置いた。

「そこも踏まえて、王宮からも魔法師を数人連れて行きたいと申請はしている。だが、王宮は第一騎士団がいるから人手はあるが、魔法師には限りがある。どのくらい連れて行けるかがまだわからないのだ。そのせいもあってか、報奨金はいつもより倍出すそうだ」

「報奨金ね・・・いつもなら、倍の金額なら行くだろうが、今は邸宅を空けるつもりはない」

「なぜだ?」

ダンの問いかけに、メイデンは僕へと視線を向け、僕を置いていけないと呟いた。

それから、ダンへと視線を向けると口を開く。

「聖は俺がここへ連れてきた。お前はもう気付いていると思うが、聖には魔力がある。だが、それは最近発現したばかりで、魔力のコントロールさえできていない。それができるまではここを離れるつもりはない」

「・・・なるほど。発現したばかりだと、どのくらいの魔力かも計り知れないし、暴走の可能性もあるからな・・・だが、お前抜きだと調査は難しい。魔法に長けているやつでないと魔獣の調査が難しいのは知っているだろ?」

その言葉に、僕は授業で習った話を思い出す。


昔は貴族でも一部の人しか魔法が使えなかった。

それが、次第に婚姻などで血が広がり、使える人が増えたことでそれを悪用する人が現れた。

その力を誇示するかのように、獣を使って実験を始めたのだ。

従順な獣を作るつもりが失敗に終わり、野放しとなった獣が魔獣となり、子を作り、その数を増やしていった・・・それから人間と魔獣の戦いが始まったのだ。

人間の欲で犠牲となった獣達もある意味、被害者だ。

そして、その欲が身を滅ぼし、人々への恐怖へと変わった。


「メイデンさん・・・僕、ここで1人で練習して待ってます。だから、ダンさんと一緒に困っている人達を助けてください」

「聖・・・」

「人を救える力がメイデンさんにはある。力がある者は弱い者を助ける・・・きっとあの人もそう言うと思います」

そう、シリルならそう言うはずだ。きっとドレイクも・・・・僕は、メイデンを見つめながら微笑む。

すると、メイデンは徐に頭を掻きむしり、唸り声をあげたかと思うと、顔を上げた。

「決めた!聖も連れて行く!」

「は?」

メイデンの言葉に、僕とヘルダ、ダンまで声を漏らす。

「聖は俺が守ると誓ってここに連れてきたんだ。なのに、俺が聖から離れてどうする!?それに、何日も離れるとか俺が無理だ。心配すぎて調査ところじゃないのは目に見えてる。聖!」

急に僕へと体を向けて、僕の手を握り締めると、目をギラギラさせて口を開く。

「大丈夫だ。俺が全力で守ってやる」

「え・・・でも・・・」

「どの道、未熟な子供達が聖に魔法を教える事は危険だから、ここに聖が残っても訓練はできない。俺が移動の合間に教えるからいいだろ?」

メイデンの圧を感じながら、ヘルダへと視線を向けると、ヘルダは深いため息を吐いて首を振った。

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