第19話 突然の訪問者

あれから二日ほど経った。

メイデンに少し考えさせて欲しいと返事をした僕は、子供達と授業は受けながら、その合間に色々と考えていた。

この世界で生きていく・・・もう一度、光の下を歩きたいと決めたのであれば、メイデンの提案を受け、生きていく上での危惧は排除するべきだ。

だが、今まで聞こえないふりをしてきた言葉達や、メイデンの表情を思い返すと、あの全ては僕に対して好意から来るのものだと安易にわかる。

僕は・・・それが愛情だったのかわからない程の愛情しか受けてこなかった。

だから、愛や人を好きになるという気持ちはわからない。

でも、好意はわかる。

こんな僕でも好意を持ってくれるファンはいた。その視線や表情は今でも覚えている。

僕はまだ子役しか表舞台に立っていないから、それが愛でるような、子や孫を見るような好意なのはわかる。

だが、あの男は違った。

きっとメイデンの好意もその類かもしれない。

そんな好意の目を向けているメイデンに、安易に返事をして気を持たせるのはいい事なのかと悩んでいた。

その好意が、気を持たせる事が、あの男のように豹変させてしまわないか、何よりメイデンを傷つける事になるのでは無いかと、それが怖かった。


全ての授業を終えて、慣れない文字の勉強に頭を抱えながら、メイデンへの返事にも更に頭を抱え、小さなため息を吐きながら部屋に戻ろうと歩いていると、門の所で大柄な男が一度手を翳し、中に入ってくるが見えた。

慌てて木の影に隠れ、身を潜めていると足音がどんどん近付いてきて、僕は息を呑む。

「君は誰だ?」

そう尋ねられ、僕は顔を見られないように俯きながら、声を捻り出す。

「あ、あの・・・僕・・・・」

「子供・・と言うには微妙な背だな?新しく入った使用人でもないようだが・・・それに、その仮面は・・・?」

次々に出てくる質問に、どう答えていいのか分からず、黙ったまま俯いていると、手が伸びてきて顔を上に向けされられる。

「・・・・綺麗な顔をしているのに、仮面はもったいないな」

そう呟いた男は、グリーンの目で真っ直ぐに僕を見つめる。

紺色の髪で短髪の前髪が風に揺れ、メイデンとは違う整った男の顔立ち、背は高く、体はがっちりしている。

僕は視線を泳がせながら、小さく口を開く。

「ぼ、僕はメイさんの遠い親戚で、数日前からここでお世話になっています」

やっとの思いでそう答えると、男はふむと短く答えた。

「なるほど・・・君は魔力があるのか・・・?」

その言葉に僕はどきりとする。どうしてバレたのか、この男は何者なのかと不安から背中を汗が伝う。

その瞬間、急に風が巻き起こり僕と、男の体を引き離す。

「ダン・・・お前、聖に何してんだ?」

怒りのこもったメイデンの低い声が後ろから聞こえ、足早に僕の方へと向かってくる。

「聖っ!大丈夫か?何をされた?」

さっきまでの低い声と打って変わり、心底心配しているような弱々しい声に変わる。

「人聞きの悪い事を言うな。私はただ、そこの者に色々尋ねていただけだ」

「なんだと?人に物を尋ねるのに、お前は顎を掴むのか?」

男に睨みつけながらメイデンが叫ぶと、男は今気づいたかのような表情をして、胸に片手を添えて頭を下げた。

「申し訳なかった。尋問とかそういったつもりはなかった。ただ、メイデンに敵意を持つものは多い。だから、見知らぬ者へ誰なのかと尋ねたが、なかなか返事をもらえなかったからつい・・・本当に申し訳なかった」

深々と頭を下げる男に、僕は慌てて頭を上げるように促すと、男はすぐに頭をあげ、にこりと微笑んだ。

「私はダン・フォールド。王宮の第二騎士団長を勤めている」

「ぼ、僕は・・・聖と言います」

「聖・・・変わった名だ。性はなんと?」

「ダン、聖は平民だから性はない。追々話すつもりだったが、こんなに早く出くわすとは・・・そもそも今日は訓練の日ではないだろう?」

僕の前に立ちはだかるように立つメイデンは、髪をくしゃくしゃと掻きながらダンを睨む。

ほぼ一緒の背丈の2人を見上げながら、僕はオロオロと2人を交互に見る。

その様子をダンが見て微笑むと、僕の手を取り、手の甲にキスをする。

「用事があってきたのだが、メイにこんなに綺麗な親戚がいるとは知らなかった」

そう言って僕を見つめるダンに、メイデンが耳が痛くなるほどの怒鳴り声を上げた。

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