第18話 一芝居

翌日の朝、メイデンに連れられて孤児院に挨拶に行き、子供達にこれから仲良くして欲しいと伝えると、思いの外、皆が笑顔で受け入れてくれた。

そして、その日から子供達と一緒に行動を共にする事に決めた。


孤児院がある教会は外面より中は広い二階建てだ。一階は祈りの場所兼学びの場所となっていて、広々としている。そこでは朝と晩、お祈りが済んだ後、神父が交代で授業をする。

読み書きと、算数、国の歴史と魔法について学ぶそうだ。その中に僕も混じって勉強をすることになっている。

食事は邸宅の一階で全員で取ることになっていて、その際に子供達の様子を伺いながら、健康管理をするそうだ。

施設の階段を上がると、2階は全て住居スペースで、それぞれ4人部屋が何個かあり、奥にはトイレやお風呂があった。

神父達の部屋は無いのかと尋ねると、神父たちは邸宅3階で使用人達と休みを取るとメイデンが答えた。

子供達だけで大丈夫なのかと思ったが、侵入を防ぐ為に、孤児院自体に強めの結界が張ってあり、各部屋に通信機を備えてあるので、何かあればすぐに連絡が取れるらしい。

「神父といえど、毎日たくさんの子供達の面倒を見ているんだ。休む時くらいゆっくりさせないとな」

メイデンはそう言いながら、ニコリと笑った。

その笑顔を見ながら、メイデンが何故、こんなにも周りから親しまれているのかわかった気がした。

本当に心を許している人には、最大限の愛情を注いでいる・・・その事を素敵だねと言葉を添えて伝えると、メイデンは照れながら、これもシリルの教えだと呟いた。


それから、地下へと降りていく。

そこは更に結界を張った、何もない広いスペースが広がっていた。

「ここは、日に分けて魔法の練習や、剣術の練習をしている。魔力を持てるのは、ほとんどが貴族なんだが、稀に平民にも魔力を持った者が生まれる。ここにいる子供達の中にも数人いる。ヘルダもそうだ」

「ヘルダさんも魔法が使えるんですか?」

「あぁ。俺ほどの魔力はないが、十分戦力になるほどの魔法は使える。それから、剣術は外部から師範がくる」

そう伝えた後、メイデンは少しだけ沈黙した後、僕に真面目な表情を見せる。

「ここの敷地内に来る人間は、俺が許した人間だけだ。だから、そこは安心して欲しい。だが、外部からくる人間は唯一の貴族だ」

メイデンの口から、あんなに嫌っている貴族という言葉が出て、僕は少し不安になる。

「大丈夫だ。奴は貴族でありながら平民や俺に対して平等に扱う人間だ。何度も遠征先で一緒になっている内に、互いに気を許せるようになって、あいつが俺の孤児院の指導に興味を持ってな。剣術の指導を申し出てくれたんだ」

「そうですか・・・」

「まぁ・・・信頼できる相手だったし、子供達の中には剣術を習いたい者もいたから、ボランティアとして週に2回程来てもらっている。だが、そいつは王宮の騎士団なんだ。真面目な性格もあって義理も堅い。それに、あいつは剣術に長けているが魔法も使える。ちゃんと顔を合わせる場を設けるが、念の為、気をつけて欲しい」

メイデンが言う気をつけて欲しいという意味が、昨日話していた事なのだとわかり、僕はわかったと頷く。

真面目な話に、僕は内心、事の重大さで少し緊張していたが、メイデンの口から出た話で僕は呆気に取られる。

「聖・・・聖は元の世界でゲイノウジンという芝居をしていたのだろ?」

「ふふっ、ゲイノウジンは仕事柄の名称で、仕事が芝居とかなんです。メイデンさんで言うと魔法師がそうで、仕事が魔法を使った討伐・・・みたいな物です」

「そ、そうか・・・それでだな。昨夜、ヘルダと考えたんだが、芝居をしてみないか?」

「えっ?」

「聖は俺の婚約者という芝居だ」

「は?」

「いや、本当はそうあって欲しいが・・・あ、いや、そうではなく、フリだ、フリ。聖を誰かに紹介とかする場面が今後出てくる。そうなると、聖の立場を作らないといけない。俺は孤児だから遠い親戚とも言えないし、一旦、メイの遠い親戚という事にして、俺の婚約者だという事にしたい」

「なんで・・・?」

「聖が俺の大事な人だと知れば、迂闊に手を出す人はいないし、多少魔力が出ても、俺が側にいるからだと錯覚するし、俺も役得だし・・・」

言葉尻が小さくなっているくのを聞きながら、僕はポカンと口を開ける。

「僕は・・・男です・・・」

「それは、わかっている。だが、そこは大して問題ではない。この国は同性をパートナーとして選ぶ事を黙認している。貴族の間では難しいが、平民の立場では容易だ。

そ、それに、聖は中世的でとても綺麗だ。誰の目からも一目瞭然だ。誰も文句は言わない・・・そこが、心配でもあるが・・・」

さっきから言葉尻にボソボソと言っているが、僕はあえて聞こえないふりをする。

「と、とにかく!一芝居してくれればいいんだ。頼めるか・・・?」

いつの間にか僕の手を握り、懇願するような目で見下ろしているメイデンに僕は、ははっと苦笑いをした。

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