第17話 もたげる欲望

料理を運んできたメイに抱きつかれ、最初はびっくりしたが、こんなに心配してくれていたのかと気付き、ごめんなさいと謝ると、メイはメイデンが悪いと怒り始めた。

僕がそんな事はないと慌てて庇うと、今度は僕がメイに怒られる。

「聖様、こんなに人が良くてどうするんですか?メイデンを甘やかし過ぎてはいけません。怒るときはしっかり怒って、聖様が心共わない時ははっきり拒否しないと、流されていつの間にか・・・て展開になるんですよ」

「はい・・・ごめんなさい」

「はぁ・・・もう、説教は終わりです。ほら、冷えない内に食べてください。後で目元を冷やす物を持ってきますから」

そう言ってメイは、運んできた食事をテーブルに並べ始める。

僕はありがとうございますと言いながら、配膳の手伝いをする。

すると、メイデンもバツが悪いのか手伝い始めた。

それから食事を済まして、少し落ち着いた頃にメイが冷やしたタオルを持ってきて、メイデンと2人ベットに横になりながら目元を冷やす。

それがとても心地よくて、僕はそのまま眠りについた。


誰かの話し声が聞こえてふと目が覚めると、そこにはメイデンとヘルダがいた。

僕が声をかけると、慌ててメイデンがそばに駆け寄ってくる。

「聖、具合はどうだ?」

「だいぶいいです。それより2人とも深刻な顔をしてどうしましたか?」

僕がそう問いかけると、メイデンとヘルダは互いに顔を見合わせ、メイデンがコクリと頷くと、僕へと視線を戻す。

「聖に話しておかなくてはいけない事がある」

その真剣な面持ちに、僕は何事かと不安になるが、それを察したのかメイデンが優しく頭を撫でる。

「大丈夫だ。何があっても俺達が、俺が守る。それだけは覚えていてくれ」

「・・・・はい。それで、何が・・・」

「この世界では魔法は使えるが、治癒が使えるのはごく一部だ。シリルが使う治癒と癒しの力は絶大でこの世に2人といない。それが、どういう意味かわかるよな?」

「僕が・・シリルさんの代わりになりゆると言う事ですか?」

「そうだ。それに聖にはドラゴンの加護まである。それが外部に知られれば、聖の力を欲する者が出てくる。昨夜、聖はシリルとドラゴンの力を使った。幸い俺の屋敷や敷地内には、皆を外部から守る為に俺の結界が張っているから、外部に漏れる事はなかったが、あの目の当たりにした聖の力は俺から見ても絶大だ。

もし、それを外で使った場合は危険に晒される場合がある。だから、なるべく外では力を使わないで欲しい。それと無いとは思うが、万が一にでも俺が怪我したり、俺の身に何かあった場合はこの敷地内の結界も揺らぐ。その時の為にも聖には力をコントロールできる様に訓練をしたい。

少ないではあるが、俺並みの魔力を持っている者であれば、聖の力は感じ取れるはずだから、普段から調整する術を学ぶんだ」

真っ直ぐに真剣な眼差しで僕を見つめるメイデンの表情に、本当に深刻な問題なのだと悟る。

「わかりました。僕もここで暮らしていくのであれば平穏に暮らしたいですから、メイデンさん、ヘルダさん、よろしくお願いします」

僕は深々と頭を下げた。

そう・・僕は平穏に暮らしたい。

これが第二の人生となるなら、心穏やかに、僕を心配してくれる人達の為にも笑って過ごしたい。

そう過ごせるのだとメイデンが勇気付けてくれる。

心の奥にまだ罪悪感はあるが、それでも幸せになりたい、愛されたいという僕の中にある欲望がむくりと頭を持ち上げる。

それがいい事なのか悪い事なのか、まだ僕にはわからない。

でも、明るい日の元でまた歩いてみたい。

そんな思いが胸の中に溢れ出ていた。

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