第16話 涙の先

「最初はそこそこ人気があったから、周りからは心配と同情の目を向けられて、励ましの便りや花束を沢山もらいました。それでこそ、手術代を寄付する人もいて、僕はそれに励まされていたんです。でも、引退すると次第に忘れ去れ、ある日、悲劇の子役のその後なんて写真を撮られて本に載っちゃって、周りの目が変わりました。

見せ物のように見に来る人、まるで化け物を見たような目をする人、いろんな人が僕を見るようになりました。

それでも、フードをかぶって学校に通ってましたが、ろくに学校に行っていなかった僕の居場所はありませんでした。別の教室で授業を受けて何とか高校には行きましたが、結局、周りの目が怖くて辞めたんです。

でも、メイデンさん、僕、犯人や周りの人を恨めなかったんです」

僕は何も言わずに聞いているメイデンの胸の中で、小さく嗚咽を漏らす。

「だって、父がいなくなって僕達にしか頼れなかった母の期待を裏切ってしまったから・・・僕があの日、黙ってトイレに行かなければこうならなかった。

犯人だって、突然僕が1人で現れなかったらあんな事しなかったと思うんです。

それに・・・何より妹に申し訳なくて・・・妹は、僕が引退した事で、アイドルの仕事も大変なのに、他の仕事までやらされて・・・僕は妹1人に重荷を課せてしまったんです。それが僕は辛くて・・・だから、1人の僕が寂しいとか、悲しいとか言ってはいけない気がして・・・」

そう言い終えると、僕は堰を切ったように声を漏らし泣き始めた。

メイデンはそんな僕を強く強く抱きしめた。

「寂しかったな・・・辛かったな・・・聖は本当に優しい。妹が、母が大好きだったんだな・・・」

その言葉を聞いて、僕は何度も頷きながら声を漏らし泣いた。

頭の上から鼻を啜る音が聞こえて、メイデンが泣いてくれてるだとわかり、僕は嬉しくて涙が止まらなかった。



どのくらい経ったのか、やっと泣き止んだ僕が顔を上げると同じように目を腫らしたメイデンを見て、僕はふふッと笑った。

それを見たメイデンも、僕の涙を拭いながら笑みを返した。

「メイデンさん、僕、いっぱい泣いたらお腹空きました」

「あぁ。俺も腹減ってきた。何か持って来させよう。メイも子供達もお前が起きたのを知ったら喜ぶぞ」

そう言いながら、ベット脇にある通信機に触れ、食事を運ぶように伝える。

そして、また僕を抱きしめた。

「メイデンさん、僕、子供達にも謝りたい」

「何故だ?」

「僕、子供達が羨ましかったんです。孤児になってもこんなに仲間がいて、支えてくれる人がいて、僕にはなかった環境がすごく羨ましかったんです。そしたら、子供達の笑顔を見るのが辛くて、会いに行けなくなりました」

「そうだったのか・・・知らなかったとはいえ、それは俺の配慮が足りなかった」

「メイデンさんは何も悪く無いです」

「いや、メイとヘルダにも怒られた。外に出た事もない聖を、心の準備ができていないお前を無理やり連れて来たのではないかと言われた。そう言われて、俺もそうだったのでは無いかと反省した。本当にすまなかった」

「・・・・でも、メイデンさんが強引に連れ出さなければ、僕はあそこでずっと1人だったと思います。だから、多分、これで良かったんだと思います」

「そう言ってくれるとありがたい。だが、聖、あそこに行きたい時は言ってくれ。帰るのではなく、遊びに行く場合に限るが・・・」

「・・・帰ったらダメなんですか?あそこは僕とシリルさん、ドレイクさんとの思い出の地で、僕のこの世界の家でもあります」

「帰って・・・欲しくない。懐かしむ為に行くだけならいいが、俺は聖にここにいて欲しい。どうしてもと言うなら、俺も一緒にあの場所へ移る」

「ふふっ、何言ってるんですか。メイデンさんがいなくなったら、メイさんもヘルダさんも寂しがります。何よりメイデンさんを慕ってる子供達が可哀想です」

「・・・・それでも、俺は聖とずっと一緒にいたい」

「狛犬と同じ事言ってる」

そう言って僕は笑った。

「狛犬とはなんだ?俺は犬ではない。だが、聖といられるなら犬でもいい」

そう言ってメイデンも笑う。

僕達はあの夢のように、メイが部屋に来るまでずっと笑っていた。

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