第15話 僕の過去
翌日の朝、僕は何故か体も心も軽くなったようなふわふわとした気持ちで目が覚めた。
側には抱きしめたまま寝ているメイデンがいた。
僕はそっと体を横に向けて、メイデンの背中に手を回す。
トクトクと聞こえるメイデンの鼓動が心地良かった。
その音をしばらく聞きながら目を閉じていると、急にドクンッと鼓動が跳ね、大きな音を立て始めた。
僕はどうしたのかと顔を上げると、顔を赤くしたメイデンが固まっていた。
「メイデンさん、どうかしましたか?顔が赤いです。もしかして、僕の風邪がうつりましたか?」
慌てて尋ねる僕に、メイデンは恥ずかしそうに答える。
「だ、大丈夫だ。起きたら聖が抱きついているから、びっくりしただけだ」
そう答えてから、メイデンはまた僕をぎゅっと抱きしめる。
また聞こえる鼓動の速さに、僕はクスリと笑ってしまった。
しばらく無言で抱き合ってから、メイデンがポツリと話始めた。
昨夜、僕が寝てから僕の体が急に光り始めたそうだ。
メイデンが言うには、シリルの加護が僕を生かそうと勝手に治癒し始めたそうだ。
きっと、それはドレイクがかけた保護魔法が作用されたんだろうと告げる。
僕はその話を聞いて、仮面を摩りながらまた泣いてしまった。
僕が感じたのは間違いじゃなかった。
シリルとドレイクは、この仮面を通して僕のそばにいてくれてる。
僕は1人じゃなかった・・・それが、とても嬉しかった。
そして、こうしてそばにいてくれるメイデンの存在も有り難かった。
「メイデンさん、聞いてくれますか?」
僕はそう言うと、メイデンの胸に顔を埋めながらぽつりぽつりと話し始めた。
僕は物心ついた頃から芸能界入りをしていた。
子役としてモデルをしたり、ドラマも脇役ながら出た事もあった。
学校と仕事との両立はとても大変だったけど、僕も仕事が好きだったし、何より両親が喜んでくれているのが嬉しかった。
小学校に上がる頃、急に仕事が忙しくなって入学したての学校にもなかなか行けず、マネージャーをしてくれる母とあちこち移動しながら仕事をしていた。
そんな中、僕が7歳の頃に妹が生まれた。
そして、妹も母の勧めでダンスや歌のレッスンをするようになった。
その成果もあって、小学生と中学生でできたアイドルユニットに選ばれ、妹と僕と多忙な生活を送っていたが、その頃になると父が裕福になったのをいい事に仕事を辞め、酒に溺れ、挙句には愛人を作って出て行った。
その頃から母が少しずつ豹変していった。
僕と妹に執着するようになり、優しかった母が一変して厳しくなったのだ。
そんな時に事件は起きた。
ドラマの撮影で、広い公園にいた僕は、その日、演技の事で母から酷く叱られ落ち込んでいて、1人では現場から離れないようにとスタッフに念を押されていたのに、母の機嫌をこれ以上損ねたくない僕は、1人黙って公衆トイレへと行く。
そこで、僕は誘拐された・・・。
どのくらい閉じ込められたのかわからないくらい、薄暗い部屋に縛られたまま放置され、時折帰ってくる男性に抱きつかれたり、愛を囁かれた。
それ以上の事も、傷を負わされる事もなかったが、それは時間の問題だと僕は察して痛いから緩めて欲しいと懇願し、紐が解けた瞬間、隙を見て逃げたが捕まって何かの薬をかけられた。
結局、その現場にいた他の人が通報して、犯人は逃げたが程なくして捕まった。
犯人は幼児愛者で、当時15歳だった僕にずっと惚れ込んでいて大人になる前に僕を捕まえておきたかったそうだ。
僕にかけられた薬品がいろんな物を混ぜた劇薬だった。
皮膚が焼けたことで、皮膚移植の手術をしたが、成長期でもあったせいで何度も繋ぎ合わせた皮膚が伸び、その度に手術をしていた。
その内、ある程度成長し切ってから皮膚移植を再度する事になり、一時的に退院したが、皮膚に大きな傷がある以上、表舞台に出る事はなく僕は引退した。
母はそんな僕を見限って、妹に付きっきりになり、僕は1人になった。
そして、高校生になって皮膚移植を望んだが、あなたにかけるお金はないと母に言われ、それは叶わなかった。
成長とともに伸びた火傷の跡は硬くなり、大きく目立つようになった僕は外に出るのが怖くなり、高校を中退して誰も帰ってこない家に籠るようになったのだ。
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