第12話 子供達

目が覚めると、ソファーで寝ていた僕の側で心配そうに見ているメイデンと目が合う。

すまなかったと謝るメイデンに、僕はゆっくり起き上がると小さくため息を吐く。

「メイデンさん、僕は話した通りここの世界の人間ではないです。だから、あの行為にそんな意味があるとは知らなかったんです」

「あぁ・・・すまなかった」

「僕は・・・まだ、メイデンさんの事をよく知りません。知っているのは、シリルさん達から聞いたメイデンさんだけです。逆にメイデンさんも、僕の事は全く知らないですよね?なのに、僕に一目惚れとか・・・」

「そ、それは本当だ。初めて聖を見た時、天使が現れたのかと思ったくらいだ。綺麗だと思った。だが、近くで見てみると綺麗というより可愛く思えて・・・それに、痛ましい傷に触れて守ってやりたいと思った。愛おしく思ったのだ」

「・・・・同情とかじゃなくて?」

「同情ではない。そんな気持ちで、胸が締め付けられるのか?鼓動が早くなるのか?」

「それは・・・それに、僕は男です」

「知っている。聖が寝込んでいる間、体を拭いたのは俺だからな」

「はっ!ま、まさか・・・」

「な、何を考えている!?誓ってやましい事はしていないぞ!」

顔を赤らめて否定するメイデンに、僕は疑いの目を向けるが、すぐに目を伏せる。

「メイデンさん・・・僕は・・小さい頃は愛情を受けましたが、この傷ができてからは憎悪しか受けてこなかったんです。愛情がなんだったのかもわからないくらい・・・この傷を作った原因も、元はと言えば歪んだ愛情が原因だったんです。

だから、僕は愛情と言うものが怖いです。一瞬にして豹変する愛情しか見てこなかったから・・・」

いつの間にか服をギュッと握って話している僕に、メイデンの手がそっと頬に触れる。

「俺も少しわかる気がする。俺は本当は貴族の息子だった。だが、魔力が強すぎて、この髪もこの目も普通の人間とは違う色素を持った。それを怖がった両親に捨てられたんだ。引き取った平民の親にも食いぶちを減らすと言われて、安易に捨てられた。だが、そんな俺を施設の仲間が、メイとヘルダ、そしてシリルが救ってくれた。愛情をくれたんだ。聖・・・お前にはそんな人がいなかったんだな・・・」

そう言って頬を撫でるメイデンの手が温かくて、目頭が熱くなる。

「俺じゃ、ダメか?俺が聖の側にいて目一杯の愛情を注ぐから、俺を信じてくれないか?」

その言葉に僕は大粒の涙をぼたぼたと落とし始めた。

メイデンはゆっくりと隣に腰を下ろし、そっと僕を抱きしめた。

「泣き虫だな、聖は・・・」

耳元でささやくメイデンの声に、僕も自分がこんなに泣き虫だったのかと思い知らされて、小さく笑った。


しばらくしてからドアをノックする音が聞こえて、視線を向けると男の子が入ってきた。

短い茶髪の同じ年頃っぽい男の子だ。

その子は僕を見るなり、顔を赤らめて俯く。

「メイデンさん、ツレがいるなら先に言ってください」

そう言われ、僕がメイデンに抱きしめられたままなのを思い出し、慌ててメイデンから体を剥がすと、メイデンは不貞腐れた顔をしながら男の子へと言葉を放つ。

「おじゃま虫め。ヘルダ達から聞いてないのか?」

「何も聞いてないから、こうして朝の挨拶に皆と来たんです」

男の子がそう言うと、わらわらと子供達が部屋に入ってくる。

「メイデンさん、おはようございます」

一斉に子供達が口を開き、メイデンにお辞儀をしながら挨拶すると、皆、僕を見て固まる。

その理由が仮面なのだと悟り、僕は慌てて顔を背けた。

すると、メイデンが耳元で大丈夫だと囁き、僕の肩を抱き寄せる。

「みんな、おはよう。聖、この子達は俺の敷地内にある孤児院の子供達だ。お前達、この人は聖だ。ゆくゆくは俺のツレになる人だ。無礼は許さん」

「なっ、メイデンさん、何を言ってるんですか!?」

慌てる僕を他所に、メイデンは子供達を手招きする。

「いいか?みんなはこの仮面に興味があると思うが、これも聖の大事な体の一部だ。勝手に触ったり、取ったりするんじゃないぞ?」

メイデンの言葉に子供達は素直に返事し、一人一人が僕の前に来て名前を告げ、挨拶をしてくれる。

誰1人怖がる事なく、僕に笑顔を向けてくれている事が嬉しくて、僕も一人一人に丁寧に挨拶を返した。

その間中、隣のメイデンは嬉しそうに笑みを浮かべ、僕の頭を撫でていた。

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