第11話 挙動不審と誓いの意味

しばらく泣き続けた後、メイが片方の涙を拭い、後ろ向いてるわとハンカチを僕に渡す。

それが、仮面の下を拭ってと言っているのに気付き、僕はいそいそと仮面の下を拭う。

そして、メイへ言葉をかける。

「メイさん、僕のお面怖く無いですか?」

その声に、メイは振り返ってまじまじと鏡に映った僕の面を見つめ、にこりと微笑む。

「素敵だと思うわ。綺麗な細工が施してあって・・・そう、これはドラゴンね。ドラゴンと花・・・きっとシリルとドラゴンね」

メイにそう言われ僕は慌てて鏡を見る。

今まで水に映る自分の姿しか見てこなかった。薄暗い洞窟の、ゆらゆらと揺れる水面では細かい細工まではわからなかった。

だが、メイに言われよく見ると、右端から線上に掘られたそれは確かにドラゴンだった。花の彫りには気付いていたが、線上が何かまではわからなかった。

それに気付くとまた目頭が熱くなる。

シリルとドレイクが、まるでそばにいると伝えているように思えたからだ。

1人じゃないと言われているようで、心の底から嬉しかった。

僕は仮面にそっと触れながら、メイへ伝える。

「メイさん、ピンってありますか?」

「ヘアピンの事かしら?」

「はい。長く伸びたこの前髪を留めたいんです」

「まぁ!それはいいアイデアね」

メイはそう言って、自分の部屋から取ってくるわといそいそと部屋から出て行った。僕はまだ自分の姿映った鏡を見ていた。

元の世界では傷を隠すために敢えて伸ばしていた前髪・・・今は、この仮面が、2人が側にいる・・・それを隠したくなかった。

この仮面と一緒に前を向いて歩いていきたい・・・そう強く願った。



「かっ・・かっ・・・」

身支度を済まして応接間へと現れた僕を見て、メイデンが目を大きく見開き、意味不明な単語を繰り返す。

「メイデンさん、どうかしましたか?」

僕の言葉に我に返ったメイデンは、今度は顔を赤らめながら僕を見つめる。

「ふふっ、メイデンは可愛いって言いたいのよ」

後ろにいたメイが笑いながらそう言うと、メイデンは何度も力強く頷く。

「可愛いだなんて・・・前髪を上げてお面が丸出しなだけなのに・・・」

「だけではない!元が可愛いが、こうして見ると仮面が白い肌に映えてよく似合う!それに服も・・・」

興奮したように声を荒げるメイデンに、僕は若干引いてしまう。

ふと後ろから足音が聞こえ、振り返った僕を見てヘルダが目を大きく見開く。

「驚いた・・・メイデンが可愛い、可愛いと口走っていたが、顔を隠していたから小柄なのが可愛いのかと思っていたが・・・本当に可愛いではないか」

「そうだろう?可愛いだろう?」

自慢げにそういうメイデンを他所に、ヘルダが僕のそばに来てジロジロと見回す。恥ずかしくなって俯いていると、ヘルダがそっと僕の頭を撫でる。

「恥ずかしがっているのも、初々しくて可愛いですね」

そう言われて僕はますます顔が熱くなるのを感じる。

メイは僕の要望を聞いて、仮面が綺麗に見えるように右側の前髪を後ろに編み込んでピンで止めてくれて、左側は目が見えるように横に流してくれた。

でも、言ってみればただそれだけだ。

何がどう変わって可愛く見えるのか、僕はわからなかった。

黙ったまま俯いていると、ツカツカと乱暴な足音が聞こえて顔を上げる。

怒った様子のメイデンがどんどん近づいてきて、ヘルダの手を跳ね除ける。

「気安く聖に触るな。聖は俺のだ」

「お、俺の・・・・?」

頭がはてなの僕に、メイデンは真剣な視線を向けて力強く言葉にする。

「俺はお前に誓いを立てただろ?」

「誓いって・・・・?」

そう言葉にしてある事を思い出す。ここに来る前に、俺が守ると手の甲にキスをしたメイデンの姿だ。

「俺は命をかけてお前を守る。それは俺の生涯をお前に捧げるという意味だ」

「え・・・?ど、どう言う・・・」

戸惑っている僕を見かねてメイが口を挟む。

「メイデン、聖様はその意味を理解していないのよ。だから、聖様はそれを了承してないって事だわ。ちゃんと伝えないメイデンが悪いのよ」

「ダメなのか!?聖?」

「だ、だから、どう言う・・・・」

「聖様、メイデンは求婚してるんです。命を、生涯を捧げて愛を誓うという意味です」

呆れたような口調でヘルダが説明をする。僕はその言葉を聞いて、青ざめる。

「な、なんでそうなるんですか!?まだ、知り合ったばかりなのに・・・第一僕は男です!」

「愛があれば関係ない。俺はお前に一目惚れしたのだ」

強気でそう言い放つメイデンに、僕は開いた口が塞がらないまま気を失った。

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