第8話 強引なメイデン

昨日の夜から深夜にまで及ぶ説得に合い、頼むから寝かせてくれと懇願する僕をよそにそれは朝まで続いた。

僕はホトホト疲れ果て、最後には根負けした。


意気揚々と荷物を担ぎ、洞窟を出て行こうとするメイデンの後を力無く付いていくが、洞窟の入り口に立つと自然と足が止まる。

寝てない目には辛いほどの天気だった。

その光の中に足を踏み入れる事に僕は戸惑う。

胸の辺りの服をギュッと掴み、戸惑っている僕にメイデンが手を差し伸べる。

「大丈夫だ。近くに移動魔法の陣がある。それを使えば邸宅にすぐ着く。ここは街からだいぶ外れた奥地だからな。毎年、この魔法陣で来ているんだ」

そう言いながら、いつまでも差し出された手を取らない僕に近寄り、僕の手をそっと取る。

「大丈夫だ。俺が守ってやる。何も心配しなくていい」

もう一度添えられた大丈夫だという言葉に、僕はメイデンの手を取り握りしめる。

その事にメイデンは安堵し、僕の手を引きながら岩場を降りていく。

いつも食べ物を探しに行く時は、シリルが教えてくれた洞窟のある場所から降りていた。

それは、人に見られる訳にいかないシリルの為に、ドレイクが作った小さな穴と降り場だった。

降り場の先には木で生い茂った森へとそのまま入れる。

だから、表から堂々と開けた場所へ出るのは初めてだった。

体の全部が心臓では無いかと思うくらい、どくどくと音を鳴らす。

元の世界でも、途中から学校へ行けなくなった僕はいつも外が暗くなるのを待って、外へ出ていた。

帽子を深く被り、その上からフードを深く下ろす。そして、マスクをつければ人から顔を見られる事はない。

そして、闇が僕を隠してくれる・・・それが元の世界での僕の拠り所だった。


明るい光が注ぐ中、僕に合わせてメイデンがゆっくりと歩く。

鳴り止まない音が、次第に背中にも手にも汗を誘う。

それがわかっているのか、メイデンは何度も大丈夫だと僕に声をかけながら、手に力を込めて握り返してくれる。

そのメイデンの優しさが、僕の足を何とか動かせていた。


「ここだ」

足を止めて僕へと振り返るメイデンの後ろには、ほんのり光る文字が書かれた円陣が浮かんでいたた。

言われなければわからない岩場の影にあり、メイデンがその円陣に手を触れると光は強くなり、ゆらゆらと動き始めた。

「聖、何度でも言う。俺が守ってやるから安心して俺について来い。大丈夫だ」

メイデンはそう言うと、僕をまっすぐに見つめ、握っていた手を引き寄せ甲にそっと唇を当てた。

「ここに誓う。俺はお前を傷付けない。必ず命に変えても守ってやる」

真剣な表情で僕を見つめるメイデンに、僕も答えるように小さく微笑みながら頷いた。

その笑みに安堵してメイデンも微笑み返す。

そして、僕の肩を引き寄せ、繋がれた手とは違う手を肩に回し、耳元で行こうと囁き円陣の中へと足を進めた。


ひんやりとした円陣を抜けると、広い庭と大きな西洋風の屋敷が目に入った。

メイデンは僕に微笑みながら言葉をかける。

「俺の家へようこそ」

メイデンの笑顔に僕は緊張の糸が切れたのか、そのまま張り詰めていた意識を手放した。

僕の名前を呼ぶメイデンの声が聞こえるが、どっと押し寄せる疲れと、寝不足のせいで目を開けて入られなくなり、重たい目を閉じた。

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