第6話 変わった人

目が覚めて簡易に作ったベットの下を見ると、まだ目を閉じて寝息を立てているメイデンに視線を向ける。

昨夜、地べたは冷たいのでベットで一緒に寝ようと言う僕に、やはりほんのりと顔を赤らめながら、遠征で地べたに寝るのは慣れていると言い張り、そのままベットの下で寝入ってしまった。

僕は起こさないようにベットから降りようと体を少しづつずらしていると、突然ガバッとメイデンが体を起こす。

僕がびっくりしてベットから落ちそうになると、すかさず受け止めてくれた。

「驚かせてすまない。寝ていても人の気配がすると起きてしまうのだ」

申し訳なさそうにそう謝るメイデンに、僕は大丈夫と答えた。

戦場に幾度も言っているとなると、野宿も頻繁にある。

きっと寝ていても、神経が高ぶるのだろう。

「もう少し寝てていいですよ。僕は朝ご飯の用意をしてきます」

そう言って立ち上がると、手伝うとメイデンが答えながら立ち上がる。

僕はメイデンを見上げながら、美貌に高身長、天才魔法師とういう三拍子にやはり僕の助けはいらないのではと疑問に思えてくる。


洞窟を出て、すぐそばにある森に入る。

ここはシリルが教えてくれた場所だ。森にはいろんな果実や大きな湖があるから食べるものには困らない。

ドレイクがこのあたりは神聖な場所だから、実りが多いと言っていたのも頷ける。ただ、お肉を食べたい気がするが、狩りの方法もわからない上に、神聖な場所と呼ばれる所で殺生は憚れる。

シリルが生きていた頃は、ドレイクが人型に変えて町で調達するか、狩りをしていたと聞いた。

僕にそれをする術もお金もない。

いつもの様に果物を取りながら歩いていると、メイデンが口を開く。

「いつも、こんなのばかり食べているのか?」

「そうですね・・・果物や生えている野菜、あと魚を釣って食べてます。これも、全部シリルさんが教えてくれました」

「・・・・だから、痩せているのか」

急に言われた言葉に僕はきょとんとする。それから、自分の体付きを見て言葉を返した。

「そんなに痩せてますか?まぁ・・・元々あまり食べない方ですが、ここに来てからは食が偏ってますから少し痩せたかもしれません。でも、体にいい野菜だと聞いているので、特に心配はないです」

そう言いながらニコリと笑う。

するとメイデンが慌てて下を向く。何故、彼はすぐに顔を赤らめるのだろう。

人と付き合いしてこなかったからだろうか。

人を避けてきた生き方をしていたのなら、こうやって親しく話す事も微笑まれる事も慣れてないのかもしれない。

ほんの少しの不安をかき消すように、僕は自分にそう言い聞かせた。


「今日はここで食事にしましょう」

僕は湖で詰んだ果実を洗い、果物を入れる袋とは別の袋の中から昨日焼いた魚の身をほぐした包みを取り出す。

それから小さな鍋も取り出し、すぐさま火を起こす。

調味料はないが、魚から出る出汁と摘んできた薬草を入れれば、簡単スープの出来上がりだ。

「お腹・・・足りないと思いますが、今はこれで我慢して帰ったら沢山食べてください」

そう言いながら木の器に注ぐと、メイデンへ果物と一緒に手渡す。

それを受け取りながら、じっと手の上にある物を見つめる。

「こんなんでお腹足りるのか?」

「慣れれば平気です。たまにお肉を食べたい時もありますが、ここは神聖な場所。ドレイクさんでもここでは狩りをしなかったので、僕もしません。まぁ、仕方もわかりませんが・・・」

苦笑いしながらスープを啜ると、メイデンもスープを一口飲む。

「うまいな・・・・」

「お口に合って良かったです」

「聖・・・と言ったか?」

「はい」

「お前はこのままここに住み続けるのか?」

「そうですね・・・街へも行ってみたいのですが、僕のこの容姿では他の人を怖がらせてしまいます。フードをかぶっても、この仮面が目立ちますし・・」

「・・・・そうか」

「僕は大丈夫です。だから、メイデンさんはメイデンさんの事だけを考えて、幸せに生きてください。メイデンさんは優しいし、かっこいい。すぐにいい人が見つかります」

「かっ・・・かっこよくなど・・・」

「そうですか?僕はかっこいいと思います。初めて見た時は綺麗な人だなぁと思ったんですが、よく見ると綺麗よりかっこいいです」

僕の言葉に顔を真っ赤にしながら俯き、ブツブツと何かを言い始めた。

その言葉の中に、(可愛い顔して・・・)という言葉が入っていたのは、聞かなかった事にした。

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