第4話 別れと出会い

返事が出せないまま、二日が過ぎた。

その間、湖を使ってドレイクが国の様子や習慣などを教えてくれる。

シリルも隣で身振り手振りで教えてくれる。

返事をしていない事に2人は何も言わない。

ただ、自分の心が向くままに決めて欲しいとだけ言い残した。

4日目の朝、昨日からドレイクの口数が減り、息使いが細くなっているのに気付く。それはもうすぐ別れの時が来ることを知らせていた。

シリルもドレイクのそばを片時も離れない。

その姿を見ながら、いまだに返事ができない事に僕は焦っていた。

そして5日目の夜、ドレイクの体が光り、人の姿になった。

シリルは涙を流し、ドレイクの手を取る。そんなシリルの頬にドレイクは触れ、優しく微笑む。

それから2人は僕へと視線を向けた。

「聖、泣くでなはい。私達は幸せなのだ」

「でも・・・・」

次から次へと溢れ出る涙と、嗚咽で言葉がうまく出ない。

ドレイクは僕へと手を差し伸べて、そっと頬に触れる。

「さぁ、力を与えよう。シリルからは加護の癒しを、私からはこの国で生きていく為の魔力と、身を守る為の魔法陣をかけてあげよう」

そういうと、ドレイクは僕の頭に手を置き、何か呪文を唱えると僕の体が光始める。その後に、シリルが僕の手に触れ目を閉じる。

体の中からじんわりとくる熱が心地よくて、僕も目を閉じ、身を任せた。

熱が治り目を開けると、2人の姿は透明に揺らいでいた。

「聖・・・まだ迷っていると思うが、これだけは伝えてくれないか。私達は幸せに暮らし、共にあの世へ行ったと・・・もうここへは来なくていいと・・・」

ドレイクの言葉に僕は頷き、必ず伝えると約束した。

その答えを聞いた2人は微笑みながら、姿を消した・・・・。


2人が去ってから数日が過ぎた。

ドレイクの魔法のおかげで何とか1人で暮らすのも慣れてきた頃、洞窟の外から物音が聞こえ、僕はドレイクがくれた仮面を付け、意を決して入り口へと向かう。

あの子が来たのだと知っていたからだ。

ゆっくり入り口に向かうと、眩しいくらいの日が注ぐ。

そして、目を細めながら姿を探すと、目の前に驚いた表情で僕を見つめる男がいた。

一瞬、それが男だった事に僕も驚きはしたが、僕は2人の約束を果たすために男へと近づく。

すると小さな声で男は呟いた。

「君は・・・・」

その声に僕は慌てて言葉を返す。

「ぼ、僕は悪い人ではないです。色々あって、ここで暮らしていました」

その言葉に男は眉を顰める。

「あ、あなたはシリルさんとゆかりがある子ですよね?」

「なぜ、その名を・・・」

「僕は2人に頼まれたんです」

「2人・・・・?」

「そう。シリルさんと、ドラゴンのドレイクさん」

ドラゴンという言葉に反応してか、あからさまに怪訝そうな表情で僕を睨む。

「シリルさんはあの日、生贄として死んではいなかったんです」

「な・・んだと?」

「この洞窟でドレイクさんと暮らしていたんです」

「・・・・」

「信じられないのはわかります。僕もここに来た時はびっくりしましたから・・・」

「・・・生きていたとして、何故、姿を現さなかった?」

その問いに、一瞬悩みはしたが僕は全てを伝える事にした。

「ドレイクさんは帰そうとしたのですが、人間の世界は嫌だと、それに生きているとわかれば、あなたにも危害が及ぶとシリルさんが判断したそうです」

「そ、そんな・・・では、今はどこに!?」

その問いかけに、僕は首を振る。

「シリルさんは4年前に亡くなりました」

「・・・は?」

「シリルさんは長年ここでドレイクさんと暮らす内に、互いに愛し合うようになり、子を授かったのです。ですが、ドレイクさんがいない時に他の人間に見つかって・・・・」

「・・・・殺されたのか?」

男はゾッとする程、低く冷たい声を発する。

その声に少しだけ身を縮こませるが、まだ役目は終えていないと自分を叱咤する。

「はい・・・お腹の子も一緒に亡くなりました。その事でドレイクさんは怒り、罪のない人間まで殺めました。本当はもっと生きられたはずなのに、人を殺めた罰を受け、数日前に亡くなりました」

怒っているのか、悲しんでいるのかわからない表情で男は黙ったまま僕を見つめる。

「シリルさんは本来はもっと長生きするはずだったドレイクさんを悲しみ、魂の姿のまま最後まで寄り添っていました。そして、2人は毎年来てくれるあなたの事をとても心配されていた。僕は伝言を頼まれたんです」

「・・・なんと?」

「祈りをありがとうと、シリルさんもドレイクさんも幸せだったと。それから、もうここには来ないでいい、あなたも幸せになって欲しいと言っていました」

僕の言葉を聞いた男は項垂れたように俯き、その場に崩れ落ちた。

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