第3話 2人の心残り

にこやかに微笑むシリルからは想像できない、壮絶な話を聞いて胸が苦しくなる。

孤独に生きたシリル、1人孤独に洞窟で過ごしてきたドレイク。

互いに寂しさを埋め、いつしか恋仲となって、幸せの絶頂にいた。

人間の悪な感情が2人を壊した。

それがとてつもなく悲しい。


「聖、そう悲しむことはない。シリルはこの世を去り、私は罪を犯した。だが、シリルはこうして戻ってきてくれた。共にあの世に行く事を選んでくれた。

たとえ触れ合う事が出来なくなっても、その事が私を悲しみから救ってくれる。

シリルも同じ気持ちでいてくれるのだ。これほど、幸せな事はない」

悲しんでいる僕に気付いたのか、2人は僕に優しく微笑む。

その笑顔に、嬉しいはずが少しだけ胸がチクリと痛む。

その痛みの原因はわかっている。

そう、羨ましいのだ。

僕にも寄り添ってくれる人が欲しかった。

きっとその願いは、この先も叶える事ができないだろう。

ふと側にある湖に自分の顔を映す。醜いままだ・・・。

そんな僕にシリルが心配して、側に来てくれる。

触れてはいないのに、肩に置かれた手から温もりが伝わって僕は思わず泣いてしまった。


腫れぼったい瞼をしたまま差し出された洋梨みたいな果物を頬張る。

半分くらい食べ終えた頃、ドレイクは食べないのかと尋ねた。

「私は元より食事はあまり取らない。気にするな」

そう返すドレイクを見ながら、その隣で嬉しそうに微笑んでいるシリルに視線を向ける。その視線に気付いたドレイクが口を開く。

「シリルは元から世話好きの優しい子でな。聖が細いことを気にしている。だから、沢山食べてくれ」

「ドレイクさんは、シリルさんの言葉がわかるんですか?」

「あぁ。私達は番の刻印をしたのだ。私の魔力とシリルの加護の力の元、契約を結んでいる。そのおかげで、言葉は発さないものの何を考え、何を言おうとしているのかがわかるのだ」

「なんか・・・素敵ですね」

僕の言葉にシリルがほんのり頬を染める。

「聖、食べながら聞いて欲しい話がある」

急に低い声を出すドレイクに、少し緊張をした僕は自然に背筋を伸ばす。

「実は、シリルが回帰してから他にも縁を結んだ人間がいる」

「縁を結んだ人間・・・」

「そうだ。シリルは知っての通りあまり良くない環境で育った。外出もままならない程、ほぼ軟禁の生活を送っていたのだ。だが、回帰後は人目を盗んでは毎日と言っていいほど教会に通っていた。加護を貰ったことを教会で感謝したいと言ってな」

「じゃあ、縁を結んだのは話に出てきた神父さんの事ですか?」

「神父もそうだが、そこで小さな子供に出会っているのだ」

「子供・・・」

「貧しい平民の間で育った子だ。シリルが11歳でその子は6歳だった。ほんのわずかな時間、わずかな間だったが2人は仲良くなって縁を結んでいった。

だが、シリルがここへ来て、その事を知った子は泣きながら返して欲しいと何日も懇願していた。もちろん私は帰る事を望んだが、シリルはそうしなかった。

そして、生きている事がバレるとその子にも被害がいくかもしれないと、会わないまま過ごした」

しょんぼりしたシリルの姿を見ながら、ドレイクの話に耳を傾ける。

「その子は大きくなっても、生贄にされた日を命日と思い、毎年祈りを捧げに来ている」

「なるほど・・・・」

「毎年、その子の成長した姿を見るのがシリルの楽しみでな。自分の姿を見せる事はできないがいつも見守っていた。そこでだ。聖に頼みたい事がある」

「頼みたい事・・・」

「私は・・・私達は数日内に逝くであろう」

「そんな・・・」

「寿命を奪われたといえ、もう4年も立つ。そろそろ旅立つ時だ。それまでにこの国での知識を教え、去る時は力を与える。その力でその子を救ってほしい」

「救う・・・?」

「そうだ。子は大きくなり19となったが、今だにここへ来て祈りを捧げている。

それと同時に人間を、貴族を憎んでいる」

「・・・・・」

「平民として育ちはしたが、天才魔術師とも呼ばれ、戦や討伐の際は活躍している。

だが、それは名誉などの為ではなく生きていくための金稼ぎだ。勲章と位を授けられる程の力を持っているのだが、それを断り自ら孤立しているだ。私達はそれを望まない。まだ若く才能に溢れているその子は、本当は心優しい子なのだ。

シリルの為に泣き、何年も祈りを捧げている。長年も見てきた私達にとって我が子も同然だ。幸せになって欲しいのだ」

「でも・・・・」

言葉に詰まる僕にシリルが優しく頭を撫でてくれる。

「聖・・・申し訳ないが、お前が目覚めるまでの間、お前の過去を見せてもらった」

「え・・・・」

「辛く悲しい過去を持っているのは知っている。それ故に孤独も知っている。お前は心優しい人間だ」

「そんな事ない・・・です」

「いや、お前は優しい。お前が抱えている罪悪感は優しいが故の罪悪感だ。私達は聖のその優しさがあの子の孤独を救ってくれると確信している。そして聖の孤独もまた救われるはずだ」

ドレイクの言葉に、僕は俯いたまま返事を返せないでいた。

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