第2話 シリルとドレイク

一通り説明があってから、僕はぼんやりと考える。

(元の世界へは帰れない)

その言葉が頭を駆け巡る。

本当に未練はなかった。

僕は・・・僕の容姿は周りの人を不愉快にさせる。

17歳になる僕は156センチと小柄で、顔も元々は幼い。元の顔はきっと可愛い、綺麗な部類には入っているだろう。

だけど、ある事件のせいで顔には醜い傷がある。顔だけでなく、腕にも・・・。

それからは、周りの態度も家族の態度も一変した。

孤立した毎日を送っていた。

だから、未練はない。

あるのは罪悪感だけ・・・・。


「少年、名前は何という?」

ドラゴンの声かけに、力なく答える。

「聖です。木下キノシタ ヒジリ

「聖か・・・いい名だ。さっき伝えた通り、彼女はシリル、私はドレイクだ」

「シリルさんとドレイクさん・・・」

小さな声でそう呼びかけると、シリルが嬉しそうに頷く。

「聖、しばらくここで暮らせ」

「え・・・?」

「私はもうすぐこの世を去る」

「え・・・?」

突然の話に、同じ様な返答しか出来ずに僕は戸惑う。ドレイクはそれでも話を続けた。

「私が消えるその時に、お前にこの世界で生き抜く力をやろう」

「・・・僕、1人になるんですか?」

その答えにシリルが少し悲しそうな表情をする。

「勝手に連れてきて、1人でこの世界に残す事は本当に申し訳ないと思っている。だが、私は500年は生きた。本来ならまだ生きていけるのだが、私は罰を受けないといけない。それに、いつまでもシリルを魂のままここに留めては置けないのだ」

寂しそうに、そして愛おしそうにドレイクはシリルを見つめる。

そして、ゆっくりと2人の過去を話始めた。



シリルは熱心な精霊信者で、名のある貴族だった。

だが、幼い頃に母を亡くし、しばらくして父は再婚したのだったが、父が見えない所での継母からの当たりが強かった。

それは妹ができ、弟ができると悪化した。

父は可愛がってくれてはいたが、弟ができてしばらくした後に事故で他界。

それからは、奴隷のように扱われ、食事はおろか、暴力さえ受けて育った。

そして13歳という若さでこの世を去った。

それを不憫に思ったのか精霊が過去に戻し、加護を与えた。

その事でシリルはどうにか過去を変えようと試みるが、父が死んだ後、変えれなかった現実を悲しみ、加護の力が暴走。

その罰として、神と称えているドラゴンへの供物にされた。


実を言うとシリルとドレイクは、シリルが回帰した後の10歳の頃に出会っていた。

シリルは一度逃げようとして、邸宅を抜け出していた。

その途中で羽を怪我したドレイクと会った。その怪我をシリルが治したのだ。

ドレイクは不思議な光を纏いながらも痩せ細ったシリルを見て、こんな夜中に何故1人なのかと尋ねたら、シリルが泣きながら今までの事を話してくれたそうだ。

そして、ドレイクはその力を学び、使えば過去は変えれるかもしれないとシリルを励ました。

その言葉を信じ、シリルは邸宅へと戻ったが結局は父を救えなかった。

本来なら聖女と崇められるほどの加護と癒しの力を持っているのに、暴走した事で化け物扱いをされた。

こまめに1人通っていた教会の神父は、彼女は聖女だと訴えたが誰も聞き入れず、継母の悪巧みと地位があった貴族だった為、その権力で生贄に選ばれた。

奇しくも、前回終わりを遂げた13歳という歳だった。


もちろんドレイクは人間の供物など食べない。

再会に驚き、すぐに逃げるよう伝えたがシリルはもう人間の世界は嫌だと一緒に住むことを選んだ。

それから時が流れ、シリルとドレイクは愛し合うようになった。

シリルが19の時、人間の体では無理だと頑なに反対したがシリルはドレイクの子供を欲しがった。

最初は悩んだが、ドレイクはドラゴン最後の生き残り。

後を継ぐものが必要なのかもしれない、それにシリルは人間でいずれは年老い自分より先に逝く。その時に彼女の忘れ形見がいれば、少しは寂しさを紛らわせるかもしれないと最終的に子を持つ事を了承した。

それからすぐに懐妊し、子はお腹の中ですくすくと育ち、この上なく幸せの時を過ごした。

だが、果物を摘みに洞窟の外へ出て、シリルから目を離した瞬間、シリルは他の人間に見つかってしまったのだ。

生贄にされて7年が経つのに、位のある貴族だったシリルの面影は忘れ去られる事はなかった。

何故なら、人間の間では継母達を妬み、黒魔法に手を染めた罪人として噂が広まっていたから・・・・。

人間達は生贄になったはずのシリルが生きている事を恐れ、村へと連れ去った後、大勢で暴力を振るった。その事でシリルとお腹の子は命を落とし、嘆き悲しんだドレイクは人間を憎み、その村を破壊した。

罪ない人まで殺めたのだ。

その事を悲しみシリルは魂となり、ドレイクの側に戻った。

ドレイクは罰として、神から寿命を奪われ、余命わずかとなったドレイクはもうすぐこの世を去る。

シリルはあれからずっとドレイクに寄り添い、最後の時は一緒に逝こうと約束した。

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